Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

原田慶太楼/東響

2023年02月20日 | 音楽
 原田慶太楼指揮東京交響楽団の定期演奏会。曲目がユニークだ。1曲目は小田実結子(1994‐)の新作「Kaleidoscope of Tokyo」。小田実結子は東響の「こども定期」の作曲家プロジェクトで出てきた人らしい。演奏時間約10分のオーケストラ作品。昭和の歌謡番組のテーマ音楽のような部分もある。このような曲が生まれる時代なのか。

 2曲目はグリーグのピアノ協奏曲。冒頭、音楽の輪郭がはっきりしていることに、目の覚める思いがした。こういってはなんだが、1曲目との格の違いを感じた。もちろんグリーグの名曲とくらべることは公平を欠くと、重々承知しているが。

 ピアノ独奏はアレクサンダー・ガヴリリュク。夢見るように柔らかい音から鋼のように強靭な音まで、あらゆる音色を繰り出して、この曲を隅々まで描きだす演奏だ。アンコールにショパンのノクターン第8番が演奏された。しみじみと物思いにふける夜の静寂を破るものはなにもない、深い余韻をたたえた演奏だった。それは絶品だった。

 3曲目は菅野祐悟(1977‐)の「交響曲第2番“Alles ist Architektur”―すべては建築である」。全4楽章からなり、演奏時間約45分の大曲だ。菅野祐悟は映画、テレビドラマ、アニメなどの音楽で有名な人らしい。本作品は2019年に藤岡幸夫指揮の関西フィルハーモニー交響楽団で初演された由。

 全4楽章を通して、明るく透明な音が鳴る。その音の流れに身を浸すのが快い。冗長かというと、そうでもなくて、一定の流れが続いたと思うと、微妙に音色が変わったり、別の流れが入ってきたりする。そのタイミングが絶妙だ。ミニマル音楽の手法の応用かもしれない。プログラム誌に掲載された座談会で、菅野祐悟は「普段は「2時間の映画を楽しく見せる」ことをやり続けているので、今回の40分はもう絶対に飽きさせない(笑)」といっている。まさに「飽きさせない」ことに成功した作品だ。

 わたしは本作品に惹かれたが、それは本作品が、商業音楽で有名な作曲家がクラシック音楽に挑戦した、その緊張感のためだろう。

 音楽学者の沼野雄司は「現代音楽史」(中公新書)で、21世紀の音楽状況のひとつに「現代音楽のポップ化」をあげている。沼野雄司は「重要なのは、もともとポピュラー音楽寄りの作曲家が「ポップ」な曲を作るということではなく、その時々の前衛を代表する作曲家たちが、こうした傾向を見せるようになっていることだ」と書く。菅野祐悟は、その傾向が広がった末に、そこに流れこむ逆方向からの潮流の発生として、位置付けることができるかもしれない。菅野祐悟はその緊張関係を体現するのだろうか。
(2023.2.19.サントリーホール)

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