Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マリオッティ/東響

2023年06月25日 | 音楽
 ローマ歌劇場の音楽監督を務めるミケーレ・マリオッティが東京交響楽団を振った。曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲第21番(ピアノ独奏は萩原麻未)とシューベルトの交響曲第8番「ザ・グレイト」。ハ長調プログラムだ。

 モーツァルトのピアノ協奏曲第21番では、オーケストラの出だしの、人の足音のようなリズムが、ピタッと揃って軽やかに刻まれる。それに続く弦楽器の歌も、羽毛が舞うように軽い。そう感じるのは、細かくて敏捷な抑揚がつけられているからだろう。そこまでの導入部でマリオッティの音楽性が感じられるようだった。

 萩原麻未のピアノは、ややくすんだ音色で(とくに第2楽章までは)譜面の内側を見つめるような演奏だった。ハ長調という調性からは、晴れやかな音楽を読み取りがちだが、それよりもむしろ澄んだ空の悲しみを感じさせるような演奏だった。

 第3楽章は活力にあふれた演奏だったが、その第3楽章をふくめて、全体はピアノとオーケストラの双方が完璧にコントロールされ、加えて楽々と息づく演奏だった。第2楽章に過度な甘さがなかった点も納得できた。

 萩原麻未のアンコールがあった。バッハ=グノーの「アヴェ・マリア」だ。モーツァルトのとくに第2楽章までのくすんだ音色とは異なり、バッハの音型がクリスタルガラスのような輝きを放った。その音型に乗るアヴェ・マリアの旋律が滋味豊かだった。

 シューベルトの交響曲第8番「ザ・グレイト」も生気のある演奏だった。第1楽章と第2楽章はシューベルトのグムンデン~バート・ガスタインの、おそらく人生でもっとも楽しかった大旅行の気分が横溢する演奏だった。それは曲の成立過程からいって当然といわれるかもしれないが、なかなかそうはいかなくて、聴いていて疲れる演奏も多いのだ。

 第3楽章は堂々たるスケルツォだが、昨日の演奏を聴いて、ブラームスのスケルツォはこれをモデルにしたのではないかと思った。マリオッティの指揮が、生気のある音はそのままに、どっしりとした安定感があったからだろう。第4楽章は再びグムンデン~バート・ガスタインの旅行の気分に戻った。「第九」の鼻歌も、そこだけ浮き上がらずに、シューベルトの高揚した気分の中に収まった。

 マリオッティの東京交響楽団初登場は大成功に終わった。大向こう受けをねらわずに、地味な選曲だったが、それをしっかりした手応えで聴かせた。聴衆は大喝采だった。マリオッティのソロ・カーテンコールになった。わたしも拍手に加わった。
(2023.6.24.サントリーホール)

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