Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

山田和樹/読響:小澤征爾追悼演奏「ノヴェンバー・ステップス」

2024年02月10日 | 音楽
 山田和樹指揮読響の定期演奏会は、忘れられない演奏会になった。プログラムは3曲あった。2曲目に武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」があった。それが始まる前に山田和樹がマイクをもって登場した。どうやら小澤征爾が亡くなったらしい。「ノヴェンバー・ステップス」の演奏は小澤征爾に捧げるとのことだった(マイクを通した声がホールに反響して、細部はよく聴こえなかったが)。

 「ノヴェンバー・ステップス」の演奏は一種特別なものだった。オーケストラが完璧なピッチで鮮明に鳴った。この曲のオーケストラ部分は断片的な音楽だが、その音楽に今までこの曲では聴いたことがないような色彩感があった。そしてオーケストラが独奏楽器の尺八と琵琶に耳を傾け、沈黙し、ついには圧倒されるドラマが浮き上がった。

 尺八は藤原道山、琵琶は友吉鶴心。この曲の第一世代である尺八の横山勝也、琵琶の鶴田錦史にくらべると、求心的な(むしろ求道的な)激しさは後退し、澄みきった平常心で曲に向き合う姿勢が感じられた。結果、簡潔ではあるが、西洋音楽の時間感覚とはまったく異なる日本独特の静止したような時間感覚が表れた(その時間感覚はむしろ空間的な感覚に近かった)。

 冒頭書いたように、わたしには忘れられない演奏になった。小澤征爾への追悼演奏ということにとどまらず、「ノヴェンバー・ステップス」の意義ある第二世代の演奏と思われた。天国に行った小澤征爾も喜んでいるのではないだろうか。

 小澤征爾が1967年にニューヨーク・フィルでこの曲を初演したとき、プログラムには他にベートーヴェンの交響曲第2番とヒンデミットの「画家マティス」が組まれていた(澤谷夏樹氏のプログラムノーツより)。なんという偶然か、当夜の3曲目はまさにそのベートーヴェンの交響曲第2番だった。

 当夜の1曲目はバルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」だった。バルトークのその曲も武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」もオーケストラを2群に分けた曲だ。その関連の試みだろう、当夜はベートーヴェンの交響曲第2番もオーケストラを2群に分けた。具体的には16型の弦楽器を左右2群に分け、管楽器は倍管だ。結果、弦楽器が舞台上に面として広がって聴こえた。ただ第3楽章スケルツォの前半の主部だけは、左右交互に弾いた(後半の主部は左右一緒だ)。それはたぶん山田和樹の悪戯(=ジョーク)だろう。

 山田和樹は読響の首席客演指揮者を6年間務めた。3月末で退任する。定期演奏会はこれが最後だ。今後、小澤征爾に次ぐロールモデルになってほしい。
(2024.2.9.サントリーホール)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« METライブビューイング「アマ... | トップ | 追悼 小澤征爾 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事