Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

幻の蘇演:ヒンデミット「主題と変奏『4つの気質』」

2020年03月07日 | 音楽
 演奏会が軒並み中止になったが、その一つに3月12日の読響の定期もあった。メインプロのリヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」もさることながら、前プロのヒンデミットの「主題と変奏『4つの気質』」を楽しみにしていた。未知の曲だったので、どんな曲かと‥。

 定期が中止になったので、CDを聴いてみた。ナクソス・ミュージック・ライブラリーを覗くと、何種類ものCDが収録されていた。その中にクララ・ハスキルのピアノ独奏(この曲はピアノと弦楽合奏のための曲だ)とヒンデミットの指揮で、バイエルン放送交響楽団とフランス国立管弦楽団の2種類のCDがあった。

 ハスキルのピアノ独奏!と目をみはった。ハスキルはわたしのもっとも好きなピアニストなのだが、それは別として、モーツァルトを中心にベートーヴェンやシューマンなどをレパートリーにしていたハスキルが、同時代音楽のヒンデミットを演奏していたとは意外だった。

 さっそく聴いてみた。バイエルン放送響との演奏は1955年7月1日のミュンヘンでのライブ録音、フランス国立管との演奏は1957年9月22日のモントルーでのライブ録音。ハスキルの解釈は変わらないが、オーケストラの個性の違いによるのだろうか、前者の演奏には快い緊張感があり、後者の演奏にはリラックスした闊達さがあるように感じた。

 この曲は主題と4つの変奏からなるが、その変奏が各々、憂鬱質、多血質、粘液質、胆汁質と名付けられている。演奏時間約30分。堂々として変化に富む曲だ。作曲は1940年、初演は1943年(ルドルフ・アム・バッハのピアノ独奏、ヘルマン・シェルヘン指揮ヴィンタートゥール管)で、1946年にはジョージ・バランシンの振り付けでバレエとしても上演された(ニューヨーク・シティ・バレエ)。

 林光は「現代作曲家探訪記」(ヤマハミュージックメディア刊、2013年)でこの曲に言及している。戦後間もない頃、「アメリカ占領軍のラジオ局WVTR」(その後のFEN)から流れてきた音楽の中に、当時の現代音楽がかなり含まれており、その中にこの曲もあったそうだ。「たとえば『ウェーバーの主題による交響的変容』(1943)、そして『ピアノとオーケストラ(それとも弦楽合奏?)のための4つの気質Temperaments』。またかと思うくらい繰り返して演奏されるそれらの曲は、(以下略)」とある。

 「ウェーバーの主題による‥」は今でも人気作だが、「4つの気質」は忘れられている。そんな「4つの気質」が読響の定期で演奏されるはずだったが、残念ながら幻の蘇演に終わった。

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