Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

高関健/東京シティ・フィル

2022年08月13日 | 音楽
 高関健のサントリー音楽賞受賞記念コンサート。オーケストラは東京シティ・フィル。1曲目はルイジ・ノーノ(1924‐90)の「2)進むべき道はない、だが進まねばならない…アンドレ・タルコフスキー」(1987)。初めて聴く曲だ。事前にナクソスミュージックライブラリーを覗くと、2種類のCDが登録されていた。そのどちらだったか、ともかくひとつを聴いた。だが弱音過ぎてほとんど聴こえない。時々ドンと打楽器が鳴る。そんな音楽が約30分続く。正直いって面喰った。

 ところがその曲が、実演で聴くと、おもしろかった。終始微細な音が聴こえる。オーケストラは7群に分かれて配置される(ステージ上と2階のP、RA、RB、LA、LB、Cの各ブロックの後方)。そのどこかから、たとえていうと虫の声のような、かすかな音がたえず聴こえる。時々打ち鳴らされる大太鼓とティンパニは雷鳴のように轟く。それらの音の鮮やかさはCDでは想像できなかった。

 演奏はたいへんな名演だったのではないか。音楽にたいする理解と献身、音にたいする繊細さと集中力、くわえて高関健の統率力。さらにいえばサントリーホールの音響のすばらしさ。それらが相まって、わたしに得難い経験をもたらした。

 長木誠司氏のプログラムノートに興味深い点が2点書かれていた。いずれも題名にかんしてだが、1点目は、その題名は原語に即して訳すと「進む道はない、ただ進むだけだ」くらいになるらしい。現行の題名の「進むべき道はない、だが進まねばならない」では余計な脚色が入る。もう1点は、ノーノ自身はその題名をスペインのトレドの修道院の壁に見いだした碑文からとったものだといっているが、実際にはセビリャ出身の詩人アントニオ・マチャード(1875‐1939)の詩からの引用だそうだ。

 2曲目はマーラーの交響曲第7番。これもたいへんおもしろかった。どうおもしろかったかというと、じつに克明な演奏だったので、とくに第1楽章と第5楽章で、後続楽句が先行楽句につながらないような、妙にぎくしゃくした流れが、そのまま聴こえたからだ。そのためメタ音楽(音楽にかんする音楽、音楽を成立させているものにかんする音楽)のような側面が際立ったように思う。そう思うのは、わたしがメタ演劇の作家・ピランデッロ(1867‐1936)の戯曲をいま読んでいるからかもしれない。妙にピランデッロとこの曲とがシンクロした。

 第1楽章の冒頭のテノールホルンはエッジの立った鋭い演奏だった。第2楽章と第4楽章では1番ホルンの谷あかねが健闘した。コンサートマスターは見かけない人だったが、どなただったのだろう。オーケストラをよくまとめていたように思う。終演後は高関健のソロ・カーテンコールがあった。ブラヴォーの声が上がったような。
(2022.8.12.サントリーホール)

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2 コメント

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昨日のコンマスさん (oya)
2022-08-13 15:51:26
植村太郎さんでしたね。
積極的なリードと、ソロの美音!https://www.nagoya-phil.or.jp/profile/profile250
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Unknown (Eno)
2022-08-13 17:15:14
oya様
名古屋フィルのコンサートマスターの方でしたか。ありがとうございます。
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