Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パーヴォ・ヤルヴィ/N響

2023年04月17日 | 音楽
 パーヴォ・ヤルヴィ指揮N響のリヒャルト・シュトラウス・プロ。バレエ音楽「ヨセフの伝説」から交響的断章と「アルプス交響曲」。2曲はほとんど同時期に書かれた。「ヨセフの伝説」は1912~1914年、「アルプス交響曲」は1911年~1915年。オペラでいうと、「ナクソス島のアリアドネ」と「影のない女」のあいだの時期だ。シュトラウスはその頃もう何でも書けるようになった。

 「ヨセフの伝説」を聴くのは初めてだ。出だしの絢爛豪華な音楽は、シュトラウス節そのものだ。その後も甘くセンチメンタルな音楽が続く。手慣れた感じがしなくもない。実験精神は後退している。だが、手短にシュトラウスの音楽に浸りたいときには格好の曲だ。交響的断章はシュトラウス自身が最晩年に編曲したもの。初演は1947年。

 パーヴォ指揮のN響はシュトラウスの音楽をたっぷり歌い、また細かいリズムの動きとのメリハリをつけて、彫りの深い演奏を聴かせた。演奏時間は約25分だが、まったく飽きさせなかった。語り口がさすがにうまい。

 「アルプス交響曲」も一流指揮者と一流オーケストラの演奏だ。ふもとから登り始めて頂上に至るまでの細かい出来事が、ゴタゴタせずにスムースに描かれ、頂上に立ったときの雄大な眺めが圧倒的で、下山の途中で遭遇する雷雨が激しくとどろき、夕映えがすべてを包みこみ、夜のとばりが静かに下りる。その一連のドラマが間然するところなく進む。音の輝かしさ、パワー、そして細かい音型の正確さ。加えて、ためをきかせた表現と、強調したい音へ付けたテヌート。それらのすべてが耳に流れ込み、演奏に身を任せることができた。

 パーヴォがN響と達成した優れた演奏がいくつもあったが、「アルプス交響曲」はそのひとつに間違いなく入る。近代現代の音楽ばかりでなく、ロマン派の、それも爛熟の極みにある音楽で、最高の成果のひとつをあげるところが、レパートリーの広さという意味で、パーヴォらしい。

 個別の奏者では、頂上の手前で足を滑らせそうになる危険な瞬間でのオーボエ・ソロが(首席奏者の吉村結実さん)、集中力がありニュアンス豊かで、ほんとうに聴衆に固唾をのませた。吉村さんはまた雷雨の場面でも、水滴がポツポツ落ちてくるところを、ハッとするほど味わい深く聴かせた。

 コンサートマスターに篠崎史紀さんが入り、サイドには郷古廉さん。懐かしい布陣だ。パーヴォとN響との絆は切れていない(=アンサンブルは崩れていない)と感じられる演奏だった。パーヴォ・N響コンビの夕映えのような演奏といえるかもしれない。
(2023.4.16.NHKホール)

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