Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アラベッラ

2014年05月29日 | 音楽
 新国立劇場の「アラベッラ」。再演だが、演出は崩れていない。フィリップ・アルローが来日したそうなので、それが功を奏したのかもしれない。舞台の美しさも新鮮だ。再演といえども色褪せていない。

 初演のときの記憶が蘇ってきた。そうだ、そうだ、そうだったと――。ところが、第3幕の大詰め、ズデンカがカミングアウトしてからは、あっ、こんな細かいことをやっていたのかと、新発見の連続だった。初演のときにはよく理解していなかったのだろう。嬉しい発見だった。

 いうまでもないが、このオペラはホフマンスタール=シュトラウスの最後の作品だ。台本の初稿ができあがって、いつものとおり、第1幕から再検討が始まった。そして第1幕の決定稿ができあがった直後に、ホフマンスタールの息子が自殺した。その埋葬の日にホフマンスタールが心臓発作で急死した。残された第2幕と第3幕はシュトラウスが手を入れた。

 そのせいかどうか、第3幕のエンディングは、言葉足らずというか、各人各様の心理の移ろいが、あまりはっきり書き込まれていない。大掴みに投げ出されている感がなきにしもあらず、だ。オペラの台本は、多かれ少なかれ、そんなものだといえばそれまでだが、それにしても、もしホフマンスタールが存命だったらと――。

 その部分がこの演出では、じつに細かく、しかも的確に描かれていた。舞台での展開に息をのんだ。そして納得した。今回の大きな収穫だ。

 歌手も高水準だ。初演のとき以上ではないかと思った。まず挙げたいのは、マンドリカを歌ったヴォルフガング・コッホ。第1幕の登場の場面から圧倒された。アラベッラのアンナ・ガブラーもよかった。第1幕では力みを感じるときもあったが、段々こなれてきた。ズデンカのアニヤ=ニーナ・バーマンはものすごく気に入った。輪郭のはっきりした歌唱がこの役に相応しかった。マッテオのマルティン・ニーヴァルは、文句はないのだが、他の3人にくらべると華に欠けた。脇を固める常連の日本人歌手も頼もしかった(とくにヴァルトナー伯爵の妻屋秀和)。

 指揮はベルトラン・ド・ビリー。予想どおりというべきか、細やかな呼吸感のある演奏だった。それが一貫して保持された。それはこのオペラの音楽に相応しかった。なるほど、このオペラはこういう繊細な音楽なのかと、よくわかった。「ばらの騎士」の路線をいくオペラだが、似ているようで似ていない音楽だ。
(2014.5.28.新国立劇場)
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