試験難化(実例/事例・判例の問題)加えて合格率の低さの傾向は今後も続くか!!
第47回(H27年)社労士試験の合格発表があり、合格率2.6%という史上最低の衝撃的な数字になっていました。この数字の意味するところ(低い理由)を、皆さんそれぞれに分析しておられましたが、今まで出てきたものとしては、次のようなものでした。
1、社労士法に保佐人制度が創設され、当補佐人制度の信頼性の高い能力を担保するための措置である。
2、受験者数の増加による現状の合格者数と資格を与えるべき「適性数」の間にミスマッチが生じ、合格者数を絞った。
3、本来の原則的な補正基準に達しなかったのではないか。
⇒思いのほか、長文となってしましましたので、結論から見る方は、最後のほうの「1、」だけでもをご覧ください。
まず後ろの項目から説明します。まず3、であるが、択一については、各学校の出している平均点が4点前後低くなっているにも関わらず、昨年と同じ総合基準点45点であること、また、選択においては、これも各学校で確実と予想された労災の救済がなかったこと などから、合格率の低下につながったといえそうです。しかし、本来の原則的な補正基準といえるものは、過去の合格された実績から考えると、なかったような気がします。今回の試験においては、各学校の予想したような労災の救済があってもいいわけですし、1点救済(16年・20年の健保)も過去においては行われていますし、過去の合格基準からすると、合格者が少ないときには、行われてきたものと考えます。問題は、なぜ、合格基準を、問題が難しくなったにも関わらず択一を45点にキープするなど、そのまま維持しなければならなかったのかということだと思われます。
2、については、適性数の社労士の数より実際の社労士の数が上回っているのではないかということであるが、そのためには、活動することを前提とした「登録している社労士」の数を把握しなければなりませんが、次のようになっています。
登録の社労士数 年ごとの社労士増加数 前年の合格者数 前年の合格率 年ごとの社労士増加数
÷前年の合格者数×100
H28.9 - 1,051 2.6%
H27.9 39,898 1,020 4,156 9.3% 21.6
H26.9 38,878 647 2,666 5.4 24.3
H25.9 38,231 882 3,650 7.0 24.1
H24.9 37,349 1,033 3,855 7.2 26.7
H23.9 36,316
毎年の登録者数を9月で見たのは、同じ「行」の「前年の合格者」が事務指定研修を終えて、登録する頃として9月で切ったものであるが、必ずしも前年の合格者がそのまま翌年に登録するわけではないところではある。しかし、仮に、前年の合格者が所定の研修をうけ、翌年に登録したと仮定すれば、多くて1/4程度である。
要は 必ずしも合格者が多くても、そのまま登録社労士がそのままの数で登録社労士が多くなるかというとそうではなく、前年合格者数の1/4程度しか影響はないことになり、その増加は多くて1000人になっている。
仮に厚労省が適性数なるものを把握しているとすれば、平均7%、26年は9%台で合格していたものが、2%台に急に落ち込むことは、行政の継続性からいって、考えられないところであり、毎年1千人~800人の増加が趨勢的に見込まれるとすれば、厚労省は計画的に段階的に抑制できたはずである。(余談だが、登録社労士数が4万人超になるのはすぐと思われ、この時点で4万人を超えるからといって、急に適性数云々を言い出したとは考えられなくもないが・・・そんなことはないだろう。)
また、適性数なるものがあるかについては、理論的にはあるだろう。しかし、企業の税理士への委託は多くあるが、それとは違い、社労士の委託は行っていない企業も多く、逆に云えば、まだまだ社労士自らその優位性を強調して開拓する必要性はある。開拓の余地はあるといえばあるところであり、適性数云々をいう段階ではないと思われる。
残ったのは、「1、」です。第8次社労士法が平成26年に改正され、27年4月から第2条の2として、補佐人制度として、補佐人の権限の条項が追加され権限が拡大されました。この補佐人制度は、特許権侵害行為の損害賠償請求訴訟などの高度の専門的・技術的知識が必要となる訴訟において、当事者が適切な主張を展開する場合に、利用されるものですが、労働法は一般法とやや趣を別にすることから、労働法の専門家としての社労士にも補佐人として資格が認められたものと考えられます。しかも、特定の社労士ではなく、すべての社労士に認められるものです。
であれば、裁判所において、保佐人として高度の専門的知識を基に適切な陳述できるようしなければならず、その信頼性の高い能力を担保するために、社労士資格の入り口である合格率を下げたと思われるのですが、その合格率について、簡易訴訟代理が認められている司法書士試験の合格率を念頭においたのではないかと考えられます。社労士の質の高さを「アピール」するために誰でもは入れない狭き門にしたのではないかと考えられます。ここで、社労士試験の難化の基となった、判例や実例・事例を交えた問題は、裁判を前提とした場合には今後ともますます増えるとみるべきでしょう。
司法書士の今年の合格率は3.95%ですので、それよりもさらに低い合格率になっていますが、これは昨年が社労士合格の枠を広げた反動ともいえますので、来年は少しは揺り戻しがあるとは思われます。 ただ、今回は、訴訟代理人そのものではなく補佐人としての職務であって、社労士の専門性に重きをおき、合格率を下げたと言えますが、裁判所の出頭するための訴訟法を全く知らないでいいかというとそうでもないことになりますが・・・。でも、「弁護士とともに出頭し、その陳述は弁護士等の訴訟代理人が取り消しができること」になっており、いうならば弁護士の「支配下」の範囲内にあるので、<弁護士さんからは法廷を甘く見るなと怒られそうですが>そこは弁護士さんに任せてという面が強いようです。 (*1)
ここは、第2条に2の改正から来る必然的な結論ともいえそうです、言い換えると、この条文に内在する結論といえましょう。
ここからは、参議院の厚生労働委員会において、付帯決議がなされたところです。厚生労働委員会が、政府(厚生労働者)に、適切な措置を講ずるべきだと要請した部分です。次のようになっています。
訴訟代理人の補佐人制度の創設については、個別的労働関係紛争に関する知見の有無にかかわらず全ての社会保険労務士を対象としていることから、その職務を充実したものとするため、(1)社会保険労務士試験の内容の見直しや対審構造での紛争解決を前提とした研修などのほか、(2)利益相反の観点から信頼性の高い能力を担保するための措置を検討すること。また、補佐人としての業務が能力に基づき適切に行われるよう指導を徹底すること
あくまでも、参議院の委員会が立法に当たり、政府=厚生労働省に物申すという形です。
今回の合格率の低さは、(2)の要求のその一部に対応したところでしょうか。先ほどいった弁護士の「支配」の範囲内でまあいいかと言ったところの訴訟法に関する部分の(1)に部分についても、試験内容の見直しや対審構造の紛争解決を前提とした研修と明確に述べております。そこで、最後の行で、直接は厚生労働省に「指導を徹底」と述べていますが、ここは社会保険労務士会連合会等を通じての指導がなされるものと見るべきでしょう。まあ、これを通じて、今後は段階的に「新しい波」が来ることが予想されます。いずれにしても、合格率については、来年がどれだけの率になるかをみれば、さらに今後の動向が分かってくるはずです。
(*1)試験科目の中に、訴訟法を入れるとすれば、現在、社会保険労務士法の中で科目名まで入っており、これを変えないといけないので、すぐにはできないところです。
第47回(H27年)社労士試験の合格発表があり、合格率2.6%という史上最低の衝撃的な数字になっていました。この数字の意味するところ(低い理由)を、皆さんそれぞれに分析しておられましたが、今まで出てきたものとしては、次のようなものでした。
1、社労士法に保佐人制度が創設され、当補佐人制度の信頼性の高い能力を担保するための措置である。
2、受験者数の増加による現状の合格者数と資格を与えるべき「適性数」の間にミスマッチが生じ、合格者数を絞った。
3、本来の原則的な補正基準に達しなかったのではないか。
⇒思いのほか、長文となってしましましたので、結論から見る方は、最後のほうの「1、」だけでもをご覧ください。
まず後ろの項目から説明します。まず3、であるが、択一については、各学校の出している平均点が4点前後低くなっているにも関わらず、昨年と同じ総合基準点45点であること、また、選択においては、これも各学校で確実と予想された労災の救済がなかったこと などから、合格率の低下につながったといえそうです。しかし、本来の原則的な補正基準といえるものは、過去の合格された実績から考えると、なかったような気がします。今回の試験においては、各学校の予想したような労災の救済があってもいいわけですし、1点救済(16年・20年の健保)も過去においては行われていますし、過去の合格基準からすると、合格者が少ないときには、行われてきたものと考えます。問題は、なぜ、合格基準を、問題が難しくなったにも関わらず択一を45点にキープするなど、そのまま維持しなければならなかったのかということだと思われます。
2、については、適性数の社労士の数より実際の社労士の数が上回っているのではないかということであるが、そのためには、活動することを前提とした「登録している社労士」の数を把握しなければなりませんが、次のようになっています。
登録の社労士数 年ごとの社労士増加数 前年の合格者数 前年の合格率 年ごとの社労士増加数
÷前年の合格者数×100
H28.9 - 1,051 2.6%
H27.9 39,898 1,020 4,156 9.3% 21.6
H26.9 38,878 647 2,666 5.4 24.3
H25.9 38,231 882 3,650 7.0 24.1
H24.9 37,349 1,033 3,855 7.2 26.7
H23.9 36,316
毎年の登録者数を9月で見たのは、同じ「行」の「前年の合格者」が事務指定研修を終えて、登録する頃として9月で切ったものであるが、必ずしも前年の合格者がそのまま翌年に登録するわけではないところではある。しかし、仮に、前年の合格者が所定の研修をうけ、翌年に登録したと仮定すれば、多くて1/4程度である。
要は 必ずしも合格者が多くても、そのまま登録社労士がそのままの数で登録社労士が多くなるかというとそうではなく、前年合格者数の1/4程度しか影響はないことになり、その増加は多くて1000人になっている。
仮に厚労省が適性数なるものを把握しているとすれば、平均7%、26年は9%台で合格していたものが、2%台に急に落ち込むことは、行政の継続性からいって、考えられないところであり、毎年1千人~800人の増加が趨勢的に見込まれるとすれば、厚労省は計画的に段階的に抑制できたはずである。(余談だが、登録社労士数が4万人超になるのはすぐと思われ、この時点で4万人を超えるからといって、急に適性数云々を言い出したとは考えられなくもないが・・・そんなことはないだろう。)
また、適性数なるものがあるかについては、理論的にはあるだろう。しかし、企業の税理士への委託は多くあるが、それとは違い、社労士の委託は行っていない企業も多く、逆に云えば、まだまだ社労士自らその優位性を強調して開拓する必要性はある。開拓の余地はあるといえばあるところであり、適性数云々をいう段階ではないと思われる。
残ったのは、「1、」です。第8次社労士法が平成26年に改正され、27年4月から第2条の2として、補佐人制度として、補佐人の権限の条項が追加され権限が拡大されました。この補佐人制度は、特許権侵害行為の損害賠償請求訴訟などの高度の専門的・技術的知識が必要となる訴訟において、当事者が適切な主張を展開する場合に、利用されるものですが、労働法は一般法とやや趣を別にすることから、労働法の専門家としての社労士にも補佐人として資格が認められたものと考えられます。しかも、特定の社労士ではなく、すべての社労士に認められるものです。
であれば、裁判所において、保佐人として高度の専門的知識を基に適切な陳述できるようしなければならず、その信頼性の高い能力を担保するために、社労士資格の入り口である合格率を下げたと思われるのですが、その合格率について、簡易訴訟代理が認められている司法書士試験の合格率を念頭においたのではないかと考えられます。社労士の質の高さを「アピール」するために誰でもは入れない狭き門にしたのではないかと考えられます。ここで、社労士試験の難化の基となった、判例や実例・事例を交えた問題は、裁判を前提とした場合には今後ともますます増えるとみるべきでしょう。
司法書士の今年の合格率は3.95%ですので、それよりもさらに低い合格率になっていますが、これは昨年が社労士合格の枠を広げた反動ともいえますので、来年は少しは揺り戻しがあるとは思われます。 ただ、今回は、訴訟代理人そのものではなく補佐人としての職務であって、社労士の専門性に重きをおき、合格率を下げたと言えますが、裁判所の出頭するための訴訟法を全く知らないでいいかというとそうでもないことになりますが・・・。でも、「弁護士とともに出頭し、その陳述は弁護士等の訴訟代理人が取り消しができること」になっており、いうならば弁護士の「支配下」の範囲内にあるので、<弁護士さんからは法廷を甘く見るなと怒られそうですが>そこは弁護士さんに任せてという面が強いようです。 (*1)
ここは、第2条に2の改正から来る必然的な結論ともいえそうです、言い換えると、この条文に内在する結論といえましょう。
ここからは、参議院の厚生労働委員会において、付帯決議がなされたところです。厚生労働委員会が、政府(厚生労働者)に、適切な措置を講ずるべきだと要請した部分です。次のようになっています。
訴訟代理人の補佐人制度の創設については、個別的労働関係紛争に関する知見の有無にかかわらず全ての社会保険労務士を対象としていることから、その職務を充実したものとするため、(1)社会保険労務士試験の内容の見直しや対審構造での紛争解決を前提とした研修などのほか、(2)利益相反の観点から信頼性の高い能力を担保するための措置を検討すること。また、補佐人としての業務が能力に基づき適切に行われるよう指導を徹底すること
あくまでも、参議院の委員会が立法に当たり、政府=厚生労働省に物申すという形です。
今回の合格率の低さは、(2)の要求のその一部に対応したところでしょうか。先ほどいった弁護士の「支配」の範囲内でまあいいかと言ったところの訴訟法に関する部分の(1)に部分についても、試験内容の見直しや対審構造の紛争解決を前提とした研修と明確に述べております。そこで、最後の行で、直接は厚生労働省に「指導を徹底」と述べていますが、ここは社会保険労務士会連合会等を通じての指導がなされるものと見るべきでしょう。まあ、これを通じて、今後は段階的に「新しい波」が来ることが予想されます。いずれにしても、合格率については、来年がどれだけの率になるかをみれば、さらに今後の動向が分かってくるはずです。
(*1)試験科目の中に、訴訟法を入れるとすれば、現在、社会保険労務士法の中で科目名まで入っており、これを変えないといけないので、すぐにはできないところです。