わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

スタンリー・クレイマー監督の衝撃作「渚にて」

2009-09-02 17:01:31 | 名作映画・名シーン

Img157 昨日の深夜、NHK衛星第2で、スタンリー・クレイマー監督の「渚にて」(On the Beach:59年:写真)を、また見てしまいました。いままで数回見ているけど、その鮮度はちっとも落ちていない。この映画は、核戦争を本格的に取り上げた最初の近未来ドラマとして、公開当時大きな波紋を投げかけた。第3次世界大戦後の1964年、核兵器の使用によって地球上の北半球は絶滅、死の灰は南半球にも迫っている。その中で、地球上に残された唯一の米原子力潜水艦が、タワーズ艦長(グレゴリー・ペック)の指揮下、オーストラリアのメルボルンから、米・サンフランシスコ、サンディエゴへと絶望的な航海を続けます。
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 死の街サンディエゴから発信される謎の通信音の正体が、無人の発電所オフィスの窓際で、ブラインドの紐にひっかかったコカコーラの空き瓶が叩いていた無線機のキーの音だったというエピソード。壊滅したメルボルンの街頭に新聞紙が舞い、「兄弟たち、まだ時間はある」と記された横断幕を見せて終わる戦慄のラストシーン。モノクロの映像が、より鋭い効果を生んで、核戦争の脅威を描き出した秀作です。監督のクレイマー(1913~2001)は社会派作家として有名で、「手錠のまゝの脱獄」(58年)、「ニュールンベルグ裁判」(61年)などを発表。それまでタブーとされてきたテーマに挑み、重厚な演出で、時代が抱える矛盾や危機をえぐりだし、1950~60年代のアメリカ映画界をリードしました。
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 この「渚にて」をきっかけに、スタンリー・キューブリック監督「博士の異常な愛情」(63年)や、シドニー・ルメット監督「未知への飛行」(64年)など、核を扱った名作が誕生。特に前者では、核爆弾のキノコ雲に覆われた地球のシーンに、ヴェラ・リンが歌うワルツ「また会いましょう」が流れるラストが皮肉。当時は、第2次世界大戦後、米ソの冷戦時代で、核兵器開発競争で世界が核の恐怖に見舞われていた。近未来ドラマに託した映画作家たちの核に対する「NO!」のメッセージが心をゆさぶった。考えてみれば、当時もいまも状況はまったく変わりがない。某国が核開発に精を出し、ミサイルをぶっ放したり、また某大国が同盟国を巻き込んで他国を侵略したり…。人類は、いつまでも懲りない、ですね。


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