わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

NHK土曜ドラマ「遥かなる絆」と歴史の悲劇

2009-06-17 14:30:40 | テレビ・ドラマ

Photo160600 去る4月18日、なにげなくNHKの土曜ドラマにチャンネルを合わせてビックリしました。なんと、昨年1月に読んだ城戸久枝さんの著書「あの戦争から遠く離れて-私につながる歴史をたどる旅」(情報センター出版局/写真・上)のドラマ化ではないか。タイトルは「遥かなる絆」。原作は、中国残留孤児として20数年間、旧満洲(中国東北部)の農村と、牡丹江市で苦難を味わった父・城戸幹さんの半生を、久枝さんがたどったドキュメント。久枝さんは、長春の吉林大学に留学、中国の人々の生身に触れた体験を踏まえて、10年かけて父親への聞き取りと、父にかかわった人々への取材を行い、この本を完成させた。本書では、幹さんと養母の付淑琴さんとの愛や、幹さんを取り巻く中国の親戚や友人たちとの交流に感動するが、ドラマ化された作品でも涙があふれて仕方がありませんでした。
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 ドラマでは、主人公の久枝さんを演じた鈴木杏が、自然体でなかなかよかった。そして、若き日の城戸幹さん(中国名:孫玉福)を演じたグレゴリー・ウォンのさわやかさ、養母の付淑琴に扮した岳秀清の素晴らしい演技。とりわけ、養母と玉福との心のふれあいや、玉福が日本に帰国する際の別れのシーンには涙が止まりませんでした。戦争が引き起こした不条理な現実、引き裂かれた家族、そして残留孤児という存在-こうした歴史の悲劇を土台にしながらも、ドラマは叙情的に展開。そして、原作者がつづっているように、中国の人々が城戸父娘にそそいだ親密さをとおして、日中民衆の温かな交流をも浮き彫りにします。「遥かなる絆」は、5月23日まで全6話を放映。当然ながら、中国での撮影が多く、俳優たちも中国語(普通話=標準語)で会話しているので、中国語の勉強にもなります。
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 日本の敗戦時、旧満洲(中国東北部)には、多くの日本人開拓民が関東軍によって置き去りにされました。そして、約8万数千人の人々が逃避行の果てに亡くなり、生き残った大人は中国人と結婚したりして新生活に踏み出し、孤児となった子供たちは中国人の養父母に育てられた。彼らが中国残留孤児であり、のちに辛苦の果てに日本に帰国する。城戸幹さんは軍人の息子で、当時4歳ぐらい、幸い帰国用の列車に乗ることができたが、ソ連機による空襲で一行からはぐれ、放浪の末に中国人の養母に引き取られて育てられます。彼は、貧しい農村で成長しながら、高校進学までさせてもらい、大学受験も試験には通るが、日本人ゆえに2年続けて不合格となり、それがきっかけとなって日本の生みの親探しを始める。そして、文化大革命の混乱のさなかに両親とコンタクトがとれ、1970年、日中国交が回復する2年前、ほとんど自力で帰国。旧満洲生まれの彼が、28歳で見知らぬ祖国・日本の土を踏んだのです。
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「遥かなる絆」の放映と並行して、城戸幹さんの著書「孫玉福-39年目の真実」(情報センター出版局/写真・下)が「あの戦争から遠く離れて外伝」として出版されました。このお父さんの著書では、できるだけ感傷を廃して、日記をもとに中国での生活と、帰国してからの日本での苦闘が綿密につづられています。旧満洲生まれで、4歳までしか日本語に接しなかったために、中国語しか読み書きができなかった幹さんが、全編日本語で執筆しているのには頭がさがります。いま、東京・神田神保町の岩波ホールでも、ドキュメンタリー「嗚呼 満蒙開拓団」が上映中です。ぼくも、城戸幹さんや、山崎豊子の著書「大地の子」の主人公とほぼ同年輩なので、とうてい他人ごととは思えない。これを機会に、過去に日本が引き起こした戦争の現実に向き合い、とりわけ旧満洲の悲劇を更に掘り起こしていく作業が必要なのではないかと思います。

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