わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

「GOEMON」の超スペクタクルにぶっ飛ぶ!

2009-05-31 15:12:16 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Goemon_2_1a 紀里谷和明監督の時代劇スペクタクル「GOEMON」のド迫力に圧倒されました。16世紀末の安土桃山時代を背景に、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康をめぐる陰謀の嵐が、VFXを駆使したドギモを抜くようなビジュアルで展開。ギリシャ=ローマ時代と安土桃山時代をミックスしたような和洋混合のギラギラ・セットと衣装や、異色のキャラクターがゲーム&劇画感覚で自由自在に無限空間を飛び回る、目もくらむような画像に仰天!
                    ※
 これまで、「ハリー・ポッター」「ナルニア国物語」などのハリウッド製スペクタクルや、ジョン・ウーの「レッドクリフ」に至るVFX映画に、いささか食傷気味だったけど、「GOEMON」は同じVEXを用いた作品でも、題材が新鮮なので見ていてワクワク。冒頭の秀吉の城内での女性たちのレビュー・シーンから始まり、石川五右衛門(江口洋介)や霧隠才蔵(大沢たかお)、服部半蔵(寺島進)らが見せる破天荒な忍者の戦い、そして織田信長(中村橋之助)、悪役の豊臣秀吉(奥田瑛二)、徳川家康(伊武雅刀)、千利休(平幹二朗)ら、ベテランの個性派俳優が見せる権力者たちの暗闘。こうした舞台装置やキャラクターは、当時の歴史的事実と権力図をふまえたもので、日本独特の美学にあふれています。
                    ※
 紀里谷監督にとっては、「CASSHERN」(04年)以来、5年ぶりの作品。アメリカで写真家としてのキャリアを開始、以後、アーティストのCDジャケットやミュージック・ビデオを手がけたというキャリアが、既成の映像にとらわれないグローバルな感覚を生み出したものでしょう。劇画やゲームを題材にした中途半端な作品や、技術をこなしきれないVFX作品が多い日本映画界の中で、「GOEMON」は海外市場に出してもひけをとらない、いわば日本映画の新しい地平のひとつを切り拓いた作品といっていいと思います。


いよいよ「慕情」の舞台ヴィクトリアピークへ

2009-05-29 15:12:59 | 映画の旅

Img095 [香港シネマ旅行:第2弾]
 九龍半島海岸沿いのプロムナードでブルース・リーの銅像に出会ったのち、近くのスターフェリー乗り場から香港島へ。そして、セントラル中環の波止場のバス停からピーク・トラムの山麓駅へ。ピーク・トラムは2両編成のレトロなケーブルカーで、ヴィクトリアピークの山頂駅まで約8分。急な傾斜をのぼるケーブルカーなので、香港の超高層ビル群が傾いて見えるところがスリリング。いよいよ、名作「慕情」の舞台とされる丘の上に到着です。
                   ※
 ヘンリー・キング監督の「慕情」(55年・写真)は、甘いメロドラマの名作。朝鮮戦争時代の香港を舞台に、夫が戦死した中国系の女医スーイン(ジェニファー・ジョーンズ)と、妻のいるアメリカの従軍記者マーク(ウィリアム・ホールデン)との純愛物語。最後は、マークが戦死して悲劇に終わるという型どおりのストーリーですが、脚本がしっかり書かれていて、ツボを押さえたセリフのやりとりで泣かせます。ふたりの逢い引きの場所が病院裏の丘の上で、そこがヴィクトリアピークとされている。その丘にはえた1本の木の下で、愛をささやくふたり。マークの戦死を知ったスーインが、哀しみの表情をたたえて、そこに立ちつくすラストシーンが印象的だった。また、旧ポルトガル植民地だったマカオも、ふたりのデート場所として登場しました(いまは、派手なカジノだらけになっているけど)。
                   ※
 ピーク・トラムは、南国風の樹林をかきわけるようにして山頂駅へ。でも、あいにく雨と霧にけぶって、景色の展望も散策もままならず。わずかに、雲間から望見されるヴィクトリア・ハーバー周辺の高層ビル群の景観がロマンチックだった程度。えいッ、それならばと、ピークタワーの中華レストランで、おいしい昼食をとる。その後、アカデミー主題歌賞を得て大ヒットした美しい「慕情」のテーマ曲「Love is a Many Splendored Thing」を口ずさみながら、逆経路をたどって九龍半島へ帰還。流行の風邪も、雨もなんのその、楽しい香港シネマ旅となりました。

P5250059

レトロなピーク・トラム


つ、ついに、ブルース・リーに会えたっ!!!

2009-05-27 16:24:57 | 映画の旅

P5250038

星光大道に建つブルース・リーのブロンズ像

 先週末から昨日まで、香港&マカオを旅してきました。長年、映画雑誌の編集部でアジア映画を担当してきたのに、な、なんと、香港行きは今回が初めて。主な目的はふたつあって、まず九龍(カオルーン)半島の海岸に建つブルース・リーのブロンズ像にお目にかかること。次は、大好きな名作恋愛映画「慕情」(55年)で、ウィリアム・ホールデンとジェニファー・ジョーンズの逢い引きの場所として有名になった香港島のヴィクトリアピークに登ること。
                   ※
 まずは、宿泊したホテル近く、九龍半島・東尖沙咀のヴィクトリア・ハーバー沿いにある星光大道(アベニュー・オブ・スターズ)へ。30分ほどウロウロ歩いて探したあげく、ついにブルース・リーさまのブロンズ像を発見。雨の中、現れたその勇姿に心をうたれました。あの「燃えよドラゴン」(73年)でショックをうけた怪鳥音が、思わず耳の中によみがえってきたのだ! そして、念願かなってブルースとのツー・ショットを撮影。銅像の前で、彼のポーズを真似てのツー・ショットも撮りましたが、恥ずかしいので、そのシーンはマル秘にします。
                   ※
 そして、あった、あった、プロムナードにズラリ埋めこまれた香港スターたちの手型&サイン付きネームプレートを撮りまくり。苦労して、やっとリーさまのプレートを発見。もちろん、ジャッキー・チェンの手型も。夢中になって、トニー・レオン、ジョン・ウー監督らのプレートを次々と撮影しているうちに、雨でびっしょり(そういえば、いま香港は雨季なのだ!)。でも、香港映画の大ファンとしては、そんなこと関係ないっ、楽しければ、それでよしっ! さっそく売店で、星光大道に刻まれたスターのカタログと、雑誌「香港電影」5月号を購入。続いて、フェリーで香港島に渡って、いよいよヴィクトリアピークへ…。

P5250044
ブルース・リーのネームプレート


パワーが弱まった(?)オリバー・ストーン監督

2009-05-22 17:36:47 | 監督論

Bush_1_1a 「ブッシュ」は、「JFK」(91年)、「ニクソン」(95年)など、大統領映画を得意とするオリバー・ストーン監督の新作です。主人公は、今年1月に任期を終わり、オバマに大統領の座を明け渡した第43代アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュ。イラク侵攻で方向を見誤った政策を基点にして、彼の半生を振り返る。学生時代の逮捕歴や、アルコール依存症、長くひとつの職業につけないダメ男ぶり。こうしたブッシュへの幻滅がテーマにちがいないのですが、どうも今回はストーン監督の舌鋒が鈍かったように思います。
                   ※
 ストーン監督といえば、ベトナム戦争での体験を反映した衝撃作「プラトーン」(86年)を皮切りに、「サルバドル/遥かなる日々」(86年)、「ウォール街」(87年)、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(94年)など、80年代から90年代にかけて、鋭い反権力・反体制の映画作りに定評があった。だが、今回の「ブッシュ」は、ブラックユーモアで笑いとばすというよりも、クスクス笑いをさそう程度。ブッシュのボケぶりや、取り巻きのイエスマンぶりを軽いタッチの演劇的手法でとらえています。確かに、ジョシュ・ブローリン演じるブッシュはそっくりだし、リチャード・ドレイファスの意地悪そうなチェイニー副大統領や、ジェフリー・ライト演じるパウエル国務長官の変節ぶり、タンディ・ニュートン扮するライス大統領補佐官のイエスマンぶりには、見ていてナルホドと、思わず笑ってしまうのだけど…。
                   ※
「ブッシュ」を見て、こう感じるのは、やはりマイケル・ムーア監督の傑作「華氏911」(04年)が念頭にあるからでしょうか。ムーア作品は、ブッシュ在任中に、しかもイラク侵攻が行われたあと、04年の大統領選挙でのブッシュ再選阻止を目標に製作されました。そして、00年の大統領選での不正疑惑、9・11同時多発テロの際の頼りない言動、ブッシュ家とテロの親玉とされたビンラディン一族との関係、イラク戦争の悲劇などを完膚なきまでにすっぱ抜いた。ストーンの「ブッシュ」でも選挙での疑惑には触れられるけど、ほんの一瞬。ブッシュが退陣する直前に撮影されたはずで、絶好のチャンスだったのに、ストーンのパワフルな姿勢は陰をひそめ、なんとも彼らしくない作品になってしまいました。

P5120281_3   

可憐な、つるバラ

 


韓国映画久々の快作「チェイサー」

2009-05-19 19:56:46 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Chaser_1_1a_2 犯罪サスペンス「チェイサー」は、久しぶり韓国映画の快作でした。10か月に21人を殺害した疑いで逮捕された連続殺人鬼の事件をベースにした作品です。映画では、デリヘルを経営する元刑事ジュンホ(キム・ユンソク)が、支配下の女性たちの失踪をきっかけに、犯人のヨンミン(ハ・ジョンウ)を追う過程がスリリングに描かれる。生命の尊厳などには無関心で、野獣のように殺戮を繰り広げる若い殺人者。人生の落伍者から、人間の生命の尊さにめざめていく元刑事。ふたりの男の血みどろの闘いに圧倒されてしまいました。
                   ※
 それだけではありません。映画は、殺人事件の展開に合わせて、警察をふくむ司法機関や、市民から汚物を浴びせられるソウル市長をはじめとする権力機構の矛盾をあぶりだします。監督・脚本を手がけたのは、本作が長編映画デビューとなる34歳(製作当時)のナ・ホンジン。ダイナミックかつ繊細な映像が、迫力十分。また、人間味たっぷりの元刑事を演じるキム・ユンソク(「僕の、世界の中心は、君だ。」)と、猟奇的な犯人をほとんど無表情で演じるハ・ジョンウ(「絶対の愛」「ブレス」)のキャラクター作りもみごとです。
                   ※
 この作品を、猟奇犯罪映画の傑作「オールド・ボーイ」(03年/パク・チャヌク監督)や、「殺人の追憶」(03年/ポン・ジュノ監督)に並ぶものとみることもできるでしょう。でも、テーマの奥深さ、幅広さという点においては、より優れていると思います。むしろ、それらの作品プラス「シュリ」(99年/カン・ジェギュ監督)のような社会性とスケールも持っている。ナ・ホンジン監督自身は、イ・チャンドン監督(「オアシス」02年、「シークレット・サンシャイン」07年)に学んだそうです。そして「チェイサー」には、彼が抱く現代社会と現代人に対する絶望の思いが秘められている気がします。

P5040244

百合の花


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村