わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

イメルダ・マルコス波乱の生涯「イメルダ」

2009-09-05 15:07:01 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Imelda_1_1a フィリピン共和国のファーストレディとして20年間も陰で政治を操り、贅をつくしてきたイメルダ・マルコス夫人。彼女が、自らの人生を語ることを承諾した初のドキュメンタリー映画が「イメルダ」(9月12日公開)です。天才的な外交手腕を発揮した夫人の栄光と失意の生涯。3000足の靴と、6000着のドレスを残し、政敵アキノ氏の暗殺疑惑や、前もって企まれたアメリカへの亡命、800億円を超える不正蓄財など、さまざまなスキャンダルにまみれ、現在も150件の訴訟を抱えるという女帝。フィリピン系アメリカ人の女性監督(兼プロデューサー)ラモーナ・ディアスが、そんなイメルダ夫人の素顔に迫ります。
                    ※
 名門の血筋ながら、貧しかった少女時代。米解放軍のマッカーサー将軍が、イメルダの歌の才能に気づいたという挿話。ミス・マニラ・コンテストで負けたことを不服として、マニラ市長に直訴した話。そして、1954年に結婚した下院議員フェルディナンド・マルコスが、65年の大統領就任以来、ファーストレディの座に。映画は、そうした波乱の生涯を、貴重な映像を挿入しながら、多彩な顔ぶれの人々の証言を交えて、イメルダの人間性の本質に迫ろうとする。とりわけ、ベニグノ・アキノ元上院議員暗殺事件、リビアのカダフィ大佐との会見、毛沢東や、キューバのカストロらとの出会い、夫人が戒厳令下のセレモニー会場で襲われるくだりや、亡命当時の様子などの画面からは、目が離せない。
                    ※
 絶大な権力をふるい、国家予算を動かし、不正蓄財のあげく、ピープル・パワー(民衆蜂起)で失脚し、夫とともに亡命。こうしたキャリアにもかかわらず、彼女は平然と言い放つ。「私には、国民の声や気持ちを察知できる能力があったの。私を動かしているのは国民よ」「私の心に、やましいことはひとつもない…」。類いまれな美貌の陰に秘められた野望と貪欲さ。今年7月2日、マニラで80歳の誕生日パーティを開いた彼女は、ニューズウィーク誌上で「史上最も貪欲な人物の一人」に選ばれた。カメラは、そんなイメルダ夫人に密着して、仮面の裏側にひそむ、もうひとつの顔をとらえようとする。でも夫人自身は、「真実を語ったのに悪意に解釈された。この映画は、美を求めた私を笑いものにしている」と上映中止を訴えたとか。しかし、フィリピンの裁判所は最終的に訴えを退けたそうです。


コメントを投稿