わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

貧困世代の行く末を暗示!?「借りぐらしのアリエッティ」

2010-07-20 15:15:10 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img307 スタジオジブリの最新アニメーション「借りぐらしのアリエッティ」(7月17日公開)は、イギリスの児童文学作家メアリー・ノートン(1903~1992)の「床下の小人たち」を原作にした作品です。ノートンは、1952年にこの作品を発表後、「小人の冒険シリーズ」として全5作を世に送り出している。アニメ化にあたっては、宮崎駿が企画と脚本を担当。監督には、スタジオジブリの俊英・米林宏昌が抜擢された。ドラマの舞台は、1950年代のイギリスから、現代(2010年)の日本に移されている。
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 主人公は、14歳の小人の少女・アリエッティ。彼女の一家は、郊外の古い家の台所の下で暮らしている。家族は、実直な父・ポッドと、心配性な母・ホミリー。彼らは、階上の人間の家から食料や日用品を“借り”ることで生計を立てている。“借り”の旅に出るのは、ポッドの役割だ。彼らの掟は、決して人間に姿を見られてはいけないこと。階上の家には、二人の老婦人、女主人の貞子と、お手伝いのハルが住んでいる。あるとき、この家に病気療養のため、12歳の少年・翔がやってくる。そして、アリエッティが翔に姿を見られてしまったことから、彼女の一家に危機が訪れる…。
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 見どころは、自然や人間の世界が、身の丈10センチあまりの小人の視点から超拡大されて映し出されることです。その結果、細密に描かれた花木や昆虫、動物が、なまなましい息づかいを発散する。また、アリエッティが人間の家の巨大な家具や建具をよじ登って、ポッドとともに“借り”に出かけるシーンがスリリング。つまり、人間(=巨人)の世界の家屋や家具、小物が冒険の対象になるわけだ。また、翔が可愛がる猫も、脅威のマトとなる。保守的な両親に対して、アリエッティは大の冒険好きで屈託がなく、翔とも会話を交わす。アニメーションにしては子どもっぽいところがなく、ハラハラ、ドキドキ、サスペンスフルな仕上がりで、構成もキャラクターもしっかりしています。
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 そして最大のテーマは、自然賛歌と人間不信と、弱者を見つめる作者の視線です。人間のせいで、滅び行く種族とされる小人たち。この作品では、彼らの最大の敵が、お手伝いのハル。優しい少年・翔に辛く当たり、アリエッティ一家を見つけて彼らの家を破壊し、小人たちを狩りたてようとする老婆。そのハルの声を担当する樹木希林のセリフ回しが絶品です。最後に、アリエッティ一家は、追われるように転居していく。このくだりは、いまのヒンキー(貧困世代)の行く末を暗示しているみたいだ。つまり、本作を支えているのは、現代社会に対する徹底した批判の精神というわけ。アニメーションを見ると、いつも眠くなってしまうのだけど、今回ばかりは息をのんで一気に見終わってしまいました。


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