わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

おすすめドキュメンタリー「犬と猫と人間と」

2009-09-01 00:12:03 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img148 フリーランスの映像製作者たちが立ち上げた“映像グループ/ローポジション”製作の「犬と猫と人間と」(10月公開)は、真摯な姿勢に貫かれた異色ドキュメンタリーです。作品の焦点は、日本での空前のペットブームの陰に隠れた動物たちの悲劇に当てられます。遺棄され、処分される犬と猫は、年間30万頭以上、1日に1000匹近くが殺されているという。監督の飯田基晴は、仲間とともにカメラをたずさえ、自らインタビュアーも兼ねて、各地の収容施設や保護施設、動物管理センターをめぐり、処分されたり、譲渡の対象とされる犬猫たちの現実の姿を写し取っていく。そして、動物保護に奮闘する人々の背後に、ペットに対する人間たちの利己的で、実にいいかげんな姿を浮き彫りにします。
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 製作の動機が、またユニークです。飯田監督は、04年4月に、自作を上映する劇場で見知らぬおばあさんから依頼を受けたという。「動物たちの命の大切さを伝える映画を作ってほしいの。お金は出します」。それから、4年間に及ぶ犬と猫をめぐる旅が始まった。かつて、路上に生きる人々に寄り添ったドキュメンタリー「あしがらさん」(02年)を手がけた飯田監督は、こうして犬と猫が歩くような低い視点から、人と犬猫との関係を映像に刻みこんでいく。まさに手さぐり、取材が困難な施設も多々ある中で、カメラが現実の森にわけいっていくくだりは、ドキュメンタリー製作のお手本といってもいい。だが、依頼主の猫おばあさん、稲葉恵子さんは、07年2月、映画の完成を見ることなく、この世を去ったそうです。「人も好きだけれど…、動物のほうがましみたい」という言葉を残して…。
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 でも、この映画は、ペット処分という暗澹たる現実を、単に強調しているわけではありません。神奈川県動物愛護協会のくだりでは、しつけに悩ませられる出戻り雑種犬“しろえもん”や、自由を愛する猫“にゃんだぼ”ら個性的な犬猫が登場。また、譲渡対象の犬の世話を行うボランティアや、多摩川流域で捨て猫の世話をするカメラマン夫婦、捨てられた子犬を育てて貰い手を探す子供たちなどの、心温まるエピソードも収められている。飯田監督はじめ、常田高志、土屋トカチら3人のカメラが、試行錯誤の段階から次第に犬猫をめぐる実状を体験、保護にたずさわる人々の奮闘ぶりを明らかにしていく過程が見どころだ。映画のキャッチフレーズには、「かわいいですか? それとも、かわいそうですか?」とあるけど、見たあとの正直な感想は、そのどちらでもなく、ただ人間の身勝手さにあ然とするばかりです。本作の詳細は、http://www.inunekoningen.com/index.html まで。


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