わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

素材はサイトの投稿「引き出しの中のラブレター」

2009-09-27 00:15:27 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img169 現代人が抱える悩み、コミュニケーション不在の問題をテーマにした作品が、「引き出しの中のラブレター」(10月10日公開)です。ドラマの主人公は、ラジオ・パーソナリティの真生(常盤貴子)。私生活でも結婚と仕事の間で悩む彼女のもとには、全国からさまざまな投稿が寄せられる。祖父と父の不仲に悩む高校生、父親から結婚に反対された大病院の跡取り息子、妊娠してシングルマザーになる決心をした女性、単身赴任で家族と疎遠になったタクシー運転手など。彼らと自分の思いを伝えるために、真生は「引き出しの中のラブレター」という新番組を企画する…。キャリア・マムのサイトで好評の投稿企画「届かなかったラヴレター」を参考にオリジナル脚本が執筆され、TV出身で、映画「花より男子ファイナル」などのプロデュースを担当した三城真一が監督を手がけています。
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 いわば、身近な人間と疎遠になった人々が、ラジオのパーソナリティと向き合うことで、間接的に絆を取りもどすという群像劇。常盤貴子のほか、林遣都、伊東四朗、片岡鶴太郎、西郷輝彦、荻原聖人、八千草薫、仲代達矢らが出演。なかでも、恋人の子供を身ごもった娘を案じる母親役の八千草が、いい味を出している。でも、全体的に内容がうす味なのは、なぜだろう。最近では、この種の作品に「60歳のラブレター」があったけど、語り口が感傷的という点で共通しています。その理由は、作者たちが観客を泣かせる、笑わせるという点にこだわりすぎたせいでは? はがきや手紙、サイトでの投稿には、もっと切羽つまった心情がこめられているはず。映画の脚本化の段階で、もっとテーマを煮つめて、コミュニケーション不在の現実に厳しく向き合う姿勢があってもいいのではないでしょうか。

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初秋の古利根川の情景


インディーズ2代目監督、ニック・カサヴェテス

2009-09-25 00:13:05 | 監督論

Img168 ニック・カサヴェテス監督の「私の中のあなた」(10月9日公開)は、ちょっとショッキングな作品です。アメリカのベストセラー作家、ジョディ・ピコーの小説の映画化で、物語の概略は以下のようなもの――あるとき、11歳の女の子アナ(アビゲイル・ブレスリン)が、有能な弁護士を雇い、両親に対して訴訟を起こす。理由は、姉ケイトの白血病治療のためのドナーとして遺伝子操作で生まれてきたアナが、腎臓提供を拒否するため。これまで、アナは何度も姉のために手術台にあがってきたという経緯がある。それに対して、ケイトの病気と闘うためにはどんな手段も辞さず、弁護士としてのキャリアも結婚生活も犠牲にしてきた母親サラ(キャメロン・ディアス)は激怒し、法廷でアナと争うことになる。
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 テーマは、「ひとりの子供を助けるという目的のために、別の子を産むことは倫理的に許されるのか?」ということです。こういう事態が実際に起こっているのかどうかわからないけれど、ドラマの中では母親の倫理観が問われ、家族崩壊という危機に直面します。監督のニック・カサヴェテスにとっては、心臓病を抱える娘を育ててきた経験があるため、この映画は最もパーソナルな作品になったという。そして、「子供の死に直面した家族が、それにどう向き合っていくかにテーマを絞ってみたい」という意図で、ストーリーを家族全員の視点から語るという手法をとった。しかし、こうしたシリアスな主題を持つ作品でありながら、その底にはヒューマンな眼差しがあふれ、心温まるドラマになっています。
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 ニック・カサヴェテスは、ニューヨーク・インディーズの先駆として有名な監督兼名優のジョン・カサヴェテスを父に持ち、母親は演技派女優のジーナ・ローランズです。ジョンの作品に子役として出演し、母を主演にした「ミルドレッド」(96年)で監督デビュー。以後、「シーズ・ソー・ラヴリー」(97年)、「きみに読む物語」(05年)などを発表。自身のインディペンデントなルーツに反しないこと、というルールを守っているとか。父ジョンは、「アメリカの影」(60年)に始まり、「ハズバンズ」(70年)、「こわれゆく女」(75年)、「グロリア」(80年)などで、庶民の哀歓を通して社会にひそむ陰をあぶりだすという創作姿勢を貫いた。そのため、父親はセミドキュント・タッチの映像作りを堅持したけれど、エンタメ路線に沿う2代目ニックが、そんな父に迫ることができるか、興味津々です。

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道ばたで見かけた月見草の仲間・大待宵草(オオマツヨイグサ)


監督は現役自衛官「ウイグルからきた少年」

2009-09-23 19:23:34 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img167 現役自衛官・佐野伸寿が監督・脚本・編集を手がけた「ウイグルからきた少年」が、10月3日から公開されます。同監督は、映画・TVの子役出身。94年に、在カザフスタン大使館に文化担当官として勤務。その間にカザフスタンの若手映画人と知り合い、劇映画のプロデュースを始める。大使館帰任後、97年から自衛隊に勤務。災害派遣や、イラク復興人道支援などの活動に参加。今年7月に、中国・新疆ウイグル自治区で暴動事件が発生して話題になったが、「忘れ去られてしまいかねないウイグルの存在を知ってほしい」との思いで、カザフスタンやイラクに滞在した際の経験をヒントに、この作品を製作したという。
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 ドラマの主人公は、新疆ウイグル自治区の隣国、カザフスタンのアルマトイで生きる3人の少年少女。両親が中国側に不当に逮捕され、ウイグルから逃れてきたアユブ少年。養父に虐待され、街娼になったカザフスタン生まれのロシア人少女マーシャ。裕福な家庭で育ちながら、路上生活を送るカエサル少年。彼らは、建設途中で打ち捨てられた廃屋で、明日のない貧しい生活を送り、破滅への道をたどる。物語のポイントは、大人たちの思惑によって、アユブが自爆攻撃者に仕立てられていく過程にある。クライマックスは、爆弾を体に巻きつけたアユブが、戦勝記念日の祭りでにぎわう広場に乗りこむくだりだ。
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 この作品製作のために、カザフ映画界のスタッフが集合。そして、ドキュメンタリー的な効果を出すため、ワンシーンをワンカットで撮影することになり、全編小型ビデオで撮影、準備に1週間、撮影に11日間、撮影クルー9名という小規模で65分の作品に仕上げられた。だが、その撮影方法のせいだろうか。各シーンが平板で、子供たちが置かれた状況の緊迫感が出てこない。彼らがたどってきた道のりも、解説のパンフレットを読まないと、よくわからない。監督自身は、「この映画は政治的メッセージを伝えるためのものではなく、中央アジアの現状と、そこに生きる人々の生活を描いた」と言う。主題が現実的で鋭いものだけに、作者の身の置きかたの曖昧さが残念な結果をもたらしたように思います。

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実りの秋・春日部市内牧で


ルイ・マル監督「地下鉄のザジ」50周年公開

2009-09-21 23:13:34 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img152 1950年代末から60年代にかけて、フランス映画界に革命的ともいえるヌーベルバーグ(新しい波)が台頭しました。カメラはスタジオを出て、激動する社会の断片を切りとり、現実の矛盾に対する怒りや無力感を表現した。その旗頭ともいえる監督たちが、「死刑台のエレベーター」(57年)のルイ・マルであり、「勝手にしやがれ」(59年)のジャン=リュック・ゴダール、「いとこ同志」(59年)のクロード・シャブロル、「大人は判ってくれない」(59年)のフランソワ・トリュフォーらだった。彼らは、シネクラブやシネマテークで映画を学び、20代で監督デビュー、既成の映画界を否定し、反体制的な姿勢を貫いたのです。
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 そうした流れの中で発表されたルイ・マルの「地下鉄のザジ」(60年)が、作品生誕50年を記念し、完全修復ニュープリント版で9月26日に公開される。小生意気な少女ザジ(カトリーヌ・ドモンジョ)が、田舎からパリにやってくる。彼女の目的はメトロに乗ること。だけど、メトロはストの真っ最中。そこで彼女は、珍妙な大人たちを相手にハチャメチャな騒動を引き起こす…。メッセージ色が強く、息づまるようなヌーベルバーグ作品の全盛時代、ほっとひと息つけるドタバタ・コメディでした。でも、全編にみなぎっているのは、大都会パリと、そこに住む大人たちに対する揶揄(やゆ)の姿勢です。しかも、ザジのイタズラにはさまざまな映像のトリックが仕掛けられていて、その技法はいまだに斬新だ。Img166
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「地下鉄のザジ」は、フランス文学界でもっとも前衛的な作家といわれたレーモン・クノーの小説の映画化。それ以前に、ルイ・マル監督が25歳で完成させた初長編映画で、胸がふるえるほど鋭角的なサスペンス「死刑台のエレベーター」、官能的なエロスのドラマ「恋人たち」(58年)に次ぐ3作目で、実に才気あふれる作品です。その後、マルは「鬼火」(63年)などを手がけたのち、アメリカで「プリティ・ベビー」(78年)、「アトランティック・シティ」(80年)などを監督。1995年、がんのため63歳で死去。遺作は「42丁目のワーニャ」(94年)だった。2度の離婚をへて、アメリカ女優キャンディス・バーゲンと結婚、生涯をともにする。映画人生をとおして、ヌーベルバーグの姿勢を守り抜いた人でした。


ハリウッド若手女優はB級ホラーがお好き?

2009-09-19 18:13:58 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img151 ミーシャ・バートンといえば、子役出身で、可憐な容貌が売りの若手女優。11歳のとき、「キャメロット・ガーデンの少女」(97年)で長編映画デビューし、TVの青春ドラマ「The OC」(03年)で全米の人気女優になりました。最近では、「あの日の指輪を待つきみへ」(07年)で名女優シャーリー・マクレーンの若き日を演じ、成長ぶりを見せてくれた。また、ファッションや美容の業界にも影響を与え、多くの雑誌で美人女優にランキング。地球温暖化防止や、女性のガン撲滅運動、アフリカの恵まれない子供たちの救済キャンペーンなどにも参加。ヤング・セレブとして、縦横無尽の活躍をしている。そんな彼女が、なんとサイコ・スリラー「ウォッチャーズ」(9月26日公開)で過激な悪女役に挑んでいます。
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 ミーシャが演じるのは、田舎町でボウリング場兼ダイナーを経営する女性シェルビー。あるとき、彼女の高校時代の恋人でアメフトの花形選手だった青年が、ガールフレンドを伴って帰郷。それを嫉妬したシェルビーが、ガールフレンドを監禁し、彼の心を取り戻そうとするドラマ。ミーシャは、病的なほど憎悪に狂うヒロインを演じる。だけど、彼女に残忍なサイコ演技が似合うはずもなく、また画面も必要以上に暗くて、肝心の彼女の表情がはっきりしない。監督は「アメリカン・サイコ2」(01年)のモーガン・J・フリーマン。最近では、やはり子役出身のソーラ・バーチが残虐ホラー「テラートレイン」に出演しているけど、彼女らはB級ホラーに興味を抱いただけなのか、あるいは新境地開拓のつもりなのか。作品の出来とくらべて、どうもその意図がよくわからない。「氷の微笑」のシャロン・ストーンや、「危険な情事」のグレン・クローズの成熟度とは比較にならないのです。

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いまが盛りの彼岸花


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