現代人が抱える悩み、コミュニケーション不在の問題をテーマにした作品が、「引き出しの中のラブレター」(10月10日公開)です。ドラマの主人公は、ラジオ・パーソナリティの真生(常盤貴子)。私生活でも結婚と仕事の間で悩む彼女のもとには、全国からさまざまな投稿が寄せられる。祖父と父の不仲に悩む高校生、父親から結婚に反対された大病院の跡取り息子、妊娠してシングルマザーになる決心をした女性、単身赴任で家族と疎遠になったタクシー運転手など。彼らと自分の思いを伝えるために、真生は「引き出しの中のラブレター」という新番組を企画する…。キャリア・マムのサイトで好評の投稿企画「届かなかったラヴレター」を参考にオリジナル脚本が執筆され、TV出身で、映画「花より男子ファイナル」などのプロデュースを担当した三城真一が監督を手がけています。
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いわば、身近な人間と疎遠になった人々が、ラジオのパーソナリティと向き合うことで、間接的に絆を取りもどすという群像劇。常盤貴子のほか、林遣都、伊東四朗、片岡鶴太郎、西郷輝彦、荻原聖人、八千草薫、仲代達矢らが出演。なかでも、恋人の子供を身ごもった娘を案じる母親役の八千草が、いい味を出している。でも、全体的に内容がうす味なのは、なぜだろう。最近では、この種の作品に「60歳のラブレター」があったけど、語り口が感傷的という点で共通しています。その理由は、作者たちが観客を泣かせる、笑わせるという点にこだわりすぎたせいでは? はがきや手紙、サイトでの投稿には、もっと切羽つまった心情がこめられているはず。映画の脚本化の段階で、もっとテーマを煮つめて、コミュニケーション不在の現実に厳しく向き合う姿勢があってもいいのではないでしょうか。
初秋の古利根川の情景