わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

殺戮と血のオペレッタ「ワイルドバンチ」

2009-07-04 18:55:37 | 名作映画・名シーン

Img123_2 先日、NHKBSで、サム・ペキンパー監督の「ワイルドバンチ」(69年・写真)を見直して、やはりドエライ作品だなと思いました。アメリカ映画史で長い伝統を持つ西部劇というジャンルの中で、ペキンパーは最後の西部劇監督といわれ、とりわけ「ワイルドバンチ」は、それまでの西部劇の型を破る斬新な作品だった。舞台は1913年。5人の中年の強盗団と、鉄道事務所に雇われて彼らを追う受刑囚たち、そして革命派の掃討をめざすメキシコ軍の将軍。これら3者が繰り広げる、すさまじい追跡劇と撃ち合い。スローモーション撮影を多用した壮絶な殺戮シーンが、公開当時、大きな話題になったものです。

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 でも、今回見直してみると、実に演出の神経の細かいことに気がつきました。そのひとつが、子供たちが登場するシーン。冒頭のクレジット・タイトルの部分で、子供たちがサソリを襲う蟻の群れに火をつけて燃やすくだり。それに重なるように、鉄道事務所を襲った強盗団との銃撃戦の渦中で、恐怖に身をふるわせる少年と少女のアップ。そしてクライマックス、メキシコ軍の将軍に心酔する少年が、強盗団のリーダー、パイク(ウィリアム・ホールデン)を射殺するシーン。これらの場面は、愚かしい大人たちが織りなす殺戮と血と欲望のオペレッタの残酷さと無意味さを、側面から強調する要素になっていた。

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 加えて、この作品の素晴らしさは、民衆の生活とエネルギーを巧みにとらえている点にあります。とりわけ、強盗団がメキシコに入り、メキシコ軍の将軍と武器の取り引きを始める前後から、虐げられたメキシコの民衆に視点が向けられる。反革命の戦いの名のもとに、民衆を苦しめる残忍な将軍と政府軍。ペキンパーは、有名なメキシコ革命のリーダー、パンチョ・ヴィラと、彼とともに戦う民衆の側に、明らかに肩入れしていることがわかる。それに、ホールデンはじめ、アーネスト・ボーグナイン、ロバート・ライアン、ウォーレン・オーツ、ベン・ジョンソンら、出演者の強烈な個性が、ドラマを盛り上げています。

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 ペキンパーは、1925年、米カリフォルニア州生まれ。舞台やテレビの仕事をへて、61年「荒野のガンマン」で監督デビュー。「昼下がりの決斗」(62年)、「砂漠の流れ者」(69年)、「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」(73年)、「ガルシアの首」(74年)といった西部劇を発表。その他、「わらの犬」(71年)、「ゲッタウェイ」(72年)など異色のバイオレンス映画を手がける。中でも「ワイルドバンチ」は、「俺たちに明日はない」を筆頭に1960年代末に台頭したアメリカン・ニューシネマの流れの中で、既成の映画界と社会制度に挑戦する一連の新世代作品の代表作になった。ペキンパー自身にも映画界の反逆者というレッテルが貼られたが、841228日に、メキシコで死去しています。

P6200114 名前にふさわしい金魚草


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