わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

自分は一体、誰?? 異色のサスペンス「ミッシングID」

2012-05-30 18:37:44 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

3 アイデンティティーを見失った若者が、真実の自分を探す危険な冒険行に突き進む。ジョン・シングルトン監督「ミッシングID」(6月1日公開)は、失踪児童・行方不明者サイトを題材にしたサスペンス・アクションです。郊外に住む高校生ネイサン(テイラー・ロートナー)は、あるとき誘拐児童サイトに13年前の自分の写真を発見。幸せな家庭で暮らす自分がなぜこのサイトに? 俺は一体誰なのか? ネイサンが自分を疑い始めた瞬間、両親ら周囲の人々が消され始め、過去の日常がすべて仕組まれたものであることを知る。
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 毎晩見る不吉な夢と暴力衝動、謎のカウンセラー、ベネット医師(シガーニー・ウィーバー)の存在、CIAを名乗る男や凶悪犯罪組織を率いる男の登場、近所に住む幼なじみの少女カレン(リリー・コリンズ)との逃亡劇、そして自分に潜在する戦闘能力と国家的陰謀がからむ<ある暗号>の顕在。アメリカ社会では失踪児童が年間80万人に及ぶという。こうした不条理な現実を素材にしたアイデンティティー探しというアイデアが抜群に面白い。加えて、パソコンによるサイト検索、ネイサンとカレンを監視・追跡する電子機器。こうした電子ネットワークがネイサンを追いつめ、彼の過去の記憶の断片をつなげていく。
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 ネイサンを演じるテイラー・ロートナーは、「トワイライト」シリーズでブレイクした肉体派十代スター。監督のシングルトンは、デビュー作「ボーイズ’ン・ザ・フッド」(91年)で注目され、近作に「ワイルド・スピード×2」(03年)などがあるアフリカ系米国人。だがディテールの流れは、いかにもハリウッド流ガキンチョ・サスペンスといった感じ。こうした現代的な題材が、なぜ浅薄なアイドル映画になってしまうのだろう? 救いは、「エイリアン」で衝撃的なヒロインを演じたシガーニー・ウィーバーや、「ミレニアム」三部作のスウェーデン俳優、ミカエル・ニクヴィストら脇役陣の確かな存在感にある。(★★★)
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艶麗

千葉県野田市・清水公園

バラ・ガーデンで

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人生は半分ブルーで半分ピンク!?「ガール GIRL」

2012-05-26 19:14:09 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

8 深川栄洋監督の「ガール GIRL」(5月26日公開)は、奥田英朗の同名短編集をベースにした作品です。小説は5つの短編から成っているが、そのうちの4編を再構成、ひとつの物語として展開したそうだ。主人公は親友同士の4人の女性、そして彼女らにからむ4人の男子、加えて彼らを取り巻く女性たちが登場。4人の女性たちは、それぞれ30歳前後、れっきとしたキャリアウーマンでありながら、それぞれ悩みを持つ。恋愛・おしゃれ・仕事・結婚・出産・友情…。微妙な年代にさしかかった彼女らの弱さや脆さをつづっていく。
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 由紀子(香里奈)は29歳で独身、彼氏(向井理)あり、夢を信じて生きてきたが、恋愛も仕事もおしゃれも、うまくいかない。容子(吉瀬美智子)は34歳で独身、年下の新入社員(林遣都)に心を惑わされる。聖子(麻生久美子)は34歳、夫あり、管理職に昇進するが、年上の男性部下と衝突ばかり。孝子(板谷由夏)は36歳、6歳の息子を持つシングルマザーだが、なぜか頑張りが空回り…。「女の人生は半分ブルーで半分ピンク」-映画は、自立し、生活を謳歌しているように見える女性たちが直面する人生の選択や悩みをスケッチしていく。中でも、香里奈、吉瀬、林、それに憎まれ役の加藤ローサが魅力的だ。
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 しかし、ドラマとしてはシリアスな要素もあるのに、全体的に子供っぽいギャル・タッチ。4人のヒロインの心理描写や描きわけも物足りなく、それぞれのキャラが入り混じってわかりにくい。もっと洗練されたタッチで、都会に生きる女性の姿を軽妙にとらえてほしかった。深川監督は、「60歳のラブレター」「白夜行」「神様のカルテ」などの話題作を手がけた若手監督。いっそのこと、軽いミュージカルのような作品にしてしまったら、よかったのかも。先ごろ公開された韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」が、人生のほろ苦さを楽しく軽快につづっていたのにくらべると、なんだか中途半端な気がします。 (★★★)

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美麗

千葉県野田市・清水公園

芍薬の群生

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ウディ・アレンの心の解放区!?「ミッドナイト・イン・パリ」

2012-05-23 18:16:00 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Photo ウディ・アレンは、アメリカ映画界では孤高の存在です。現在76歳だが、いまだに才気は衰えていない。新作「ミッドナイト・イン・パリ」(5月26日公開)は、お気に入りのパリを舞台にしたコメディーで、今年開催された米アカデミー賞では脚本賞を得た。ハリウッドの脚本家が、ゴールデン・エイジと言われる1920年代のパリにタイムスリップする、というアイデアで魅せる異色作だ。そして、当時のパリの社交サロンに、有名作家、画家、その他の芸術家が登場し、現代人の主人公と交わることで軽妙な笑いをもたらす。
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 ハリウッドの売れっ子脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、人生の絶頂期にある。代わり映えしない娯楽映画のシナリオで高額ギャラを得、セクシーで洗練された美女イネズ(レイチェル・マクアダムス)と交際中。そして2010年の夏、イネズとの婚前旅行を兼ねて憧れの街パリにやって来る。だがギルは、どこか満たされない。彼の夢は、本格的な作家に転身し、ボヘミアン的な人生を送ることなのだ。そんなある日、彼は深夜0時を告げる鐘の音に導かれるように、芸術・文化が花開いた1920年代パリのサロンにタイムスリップする。夢か幻かと驚くギルの前に、敬愛する作家・画家・美女が次々と現れて…。
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 モンターニュ・サント・ジュヌヴィエーヴ通りを走る旧式の黄色いプジョーが、ギルを別世界に誘う。5夜に及ぶこの幻想行に登場するのは、アーネスト・ヘミングウェイ、F・スコット・フィッツジェラルド、パブロ・ピカソ、コール・ポーター、ガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)、サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)ら、そうそうたる芸術家たち。ギルは、ピカソの愛人アドリアナ(マリオン・コティヤール)にひと目惚れし、ガートルード・スタインに自身の処女小説をチェックしてもらう。更に、アドリアナと馬車でベル・エポックの1890年代にタイムスリップ。そこで出会ったロートレック、ドガ、ゴーギャンらと、ルネッサンス時代の素晴らしさを語り合う…。
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 ドラマの論点は、ふたつある。まずは、アレン自身のハリウッドを拒否する姿勢。主人公ギルは、ビバリーヒルズの豪邸に住む高額所得者だが、ワンパターンの娯楽映画のシナリオ書きに虚しさを感じている。こんな彼の内面の相克に、生粋のニューヨーカーで、アカデミー賞授賞式には必ず欠席するアレンの心境が投影される。また、ギルと一緒にパリに旅するリッチな恋人イネズ一家の凡庸な言動を強調することで、アメリカ人のスノビズムを皮肉る。要は、本作もアレン流の諧謔に満ちている、ということ。ギルが骨董店でコール・ポーターの古いレコードを購入するくだり、またイネズと別れて骨董店の娘と再会するラストに、ウディ・アレンの心の解放区が存在するような気がします。(★★★★)


胸ときめく韓流女性映画「サニー 永遠の仲間たち」

2012-05-19 18:35:29 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

7 韓国映画界から、楽しく、ノスタルジックで、かつ現実と闘う女性たちの群像ドラマがやって来た。韓国のヒットメーカー、カン・ヒョンチョル監督・脚本の「サニー 永遠の仲間たち」(5月19日公開)です。1986年の過去と、2011年の現代を巧みに交錯させて、高校生だった7人の女性グループが、25年後に人生のほろ苦さを味わうまでの人生の転変を軽快につづっていきます。そしてドラマの背後に、自由な時代の到来と思われたものの制約や規制が多く、学生運動や労働運動が弾圧された80年代と、自由で豊かになったけれども、その陰で人間性が喪失しつつある現代の韓国の社会状況が浮きぼりにされます。
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 ナミ(ユ・ホジョン)は、専業主婦として不自由のない日々を送っている。彼女は、母親が入院する病院で、高校時代の仲良しグループのリーダーだったチュナ(ジン・ヒギョン)と再会。そして、楽しかった少女の日々の思い出がよみがえる。ソウルの女子高へ転校してきたナミは、個性豊かな少女たちのグループに受け入れられる。友情の証としてグループを“サニー”と名付けたメンバーは7人。だが、ふとした事件で、彼女たちは離ればなれになる。いま再会したチュナは、余命2か月の癌に侵されている。「死ぬ前にもう一度みんなに会いたい」と願うチュナのために、ナミは残りのメンバーの消息を尋ねる…。
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 カン・ヒョンチョル監督は、「友情よりも、人生のアイロニーを描きたかった」とか。あれから25年。陽気な人気者だった娘は、保険セールスレディーとして辛い日々を送る。罵り言葉が得意だった娘は、猫かぶりのセレブに変身。ミスコリアを夢見た少女は、一人娘を持つホステスに。そして、行方不明になった謎の美少女…。だが、語り口はシリアスではない。たとえば、民主化要求のデモ隊と警察との乱闘シーンに、サニーと敵対少女グループとの乱闘をからめて、当時の社会状況を映し出したり、また仲良しグループなのに互いに容赦のないやりとりが、それぞれの個性を浮き立たせて、いかにも韓国的だったり…。
                    ※
 とりわけの見どころ聴きどころは、懐かしのファッションと音楽-1980年代風俗の再現だ。たとえば本作のテーマ曲ともいえるのが、当時のヒット・ディスコ・ミュージック、ボニーMの「サニー」。その他、シンディー・ローパーが歌う「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」、彼女の名曲をタック&パティがカバーした「タイム・アフター・タイム」など、80年代を彷彿させるリズムが楽しい。また、本作のために発掘された新人女優と、ベテラン女優たちがそろってチャーミング、みごとなアンサンブルを奏でる。ラスト、チュナの遺影の前で、グループが「サニー」を歌い踊るシーンが感動ものだ。 (★★★★)

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ピンクの渦


寂しいヒトに、猫、貸します!「レンタネコ」

2012-05-14 19:16:22 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

5 荻上直子監督は、日本映画界の中でもユニークな存在です。1994年に渡米、南カリフォルニア大学大学院映画学科で学ぶ。2000年に帰国、デビュー作「バーバー吉野」(03年)以来、「かもめ食堂」(06年)、「めがね」(07年)、「トイレット」(10年)などの異色作を発表。具体的なテーマを土台に、緻密な日常描写で人間の営みを描いてきた。その荻上監督(兼脚本)の最新作が「レンタネコ」(5月12日公開)です。タイトルの意味は、“ネコ”を“レンタル”すること。ヒロインがリヤカーに猫を乗せて、「レンタ~ネコ、ネコ、ネコ、寂しいヒトに、猫、貸します」と拡声器で呼びかけながら川べりを行くシーンが傑作です。
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 都会の一隅にある平屋の日本家屋。ここに沢山の猫と住んでいるサヨコ(市川実日子)は、亡き祖母の仏壇を守りつつ、謎の隣人(小林克也)にからかわれながら、心の寂しい人に猫を貸し出すレンタネコ屋を営んでいる。彼女から条件付きで猫を借りるのは、年齢も境遇も異なる人々。夫と愛猫に先立たれた老婦人・吉岡さん(草村礼子)、単身赴任中で家族から疎外されている中年男・吉田(光石研)、自分の存在意義に疑問を抱くレンタカー屋の受付嬢・吉川(山田真歩)、サヨコとワケありで、ある組織に追われる男・吉沢(田中圭)。そして、サヨコ自身の変わらぬ目標は「今年こそは、結婚するぞ~」ということです。
                    ※
 なによりも“レンタネコ”というアイデアがバツグンだ。監督自らが“言葉に表せないくらい”の猫好きだそう。サヨコを演じる市川実日子のトボケ・キャラが愉快だし、彼女の家に住む17匹の猫たちもユニーク。サヨコの相棒的存在である歌丸師匠、老描のモモコ、子猫のマミコちゃんetc.…。この猫たちが、伸びやかな演技(!?)を披露。ときには堂々たるたたずまいで、また愛くるしく個性的な表情を見せます。カメラは、いかにも日本的な、懐かしい風景を映し出す。夏の風情を感じさせる風鈴や風車、庭やプランターに植えられた花々や野菜、悪戯っ子の声が絶えない河原の土手…、繊細な日常描写がみごとです。
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 寂しい人間って、いっぱい居るんだな。まずは、人と猫との出会いを手伝うサヨコ自身が、一人住まいの結婚願望。どこか正体不明で、時にはパソコンに向かう株屋に、時には占い師などの陰の貌がユーモラスな幻想場面として挿入されます。また、息子が幼いころ好きだったゼリーを食べながら身の上話をする吉岡さん。わびしい中年男・吉田は、猫を貰い受けて実家に帰れば邪険にされる。受付嬢・吉川は「自分はCランクだ」と絶望的。サヨコと中学生時代に同級生だったという吉沢は、警察に追われる始末。ネコをレンタルしようとする登場人物すべての苗字に“吉”の字がついているのも、どこかオカシイ。
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 ドラマは、過去のフラッシュバックをさりげなく織り込みながら、オムニバス風に淡々と進行していきます。そして、全編に漂うホンワカ、ノンビリした雰囲気に、見ているほうも思わず癒されてしまいます。エンディング音楽は、渡辺マリが歌ってヒットした昭和のリズム歌謡「東京ドドンパ娘」。更に、「くるねこ」のブログ掲載漫画で話題になった、くるねこ大和が書き下ろしたイラストがエンディングに登場し、余韻を残す。「自分自身、寂しいときに猫が傍にいてくれて救われたことが何度もあったので、猫を貸してくれる人がいたらいいのにと思ったことがありました」と荻上監督は語っています。(★★★★+★半分)


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