わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

青春ゾンビ・ミュージカル♪♪…「アナと世界の終わり」

2019-06-05 14:12:04 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

  イギリスの新鋭ジョン・マクフェール監督の「アナと世界の終わり」(5月31日公開)は、アイデア抜群の作品です。キャッチフレーズは“青春ゾンビ・ミュージカル”。元になったのは、故ライアン・マクフェンリー監督の、2010年英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)で受賞した短編映画「Zombie Musical」。彼の意志を引き継いだ形で長編映画化されたのが、本作だそうです。結果、アメリカの“ファンタスティック・フェスト”で行われたワールドプレミア上映をきっかけに、世界各地のファンタスティック映画祭で上映された。スペインの“シッチェス・カタロニア国際映画祭”ミッドナイト・エクストリーム部門で最優秀作品賞を受賞。イギリスはもとより、オランダ、韓国などでも上映されて、ファンを熱狂させたとか。海外の批評家からは、「ショーン・オブ・ザ・デッド」と「ラ・ラ・ランド」との出会いと評され、ゾンビ×ミュージカルという2ジャンルの融合に成功した異色作になった。                     

  イギリスの田舎町リトル・ヘブン。高校生アナ(エラ・ハント)は、幼い頃に母を亡くし、父トニー(マーク・ベントン)とふたり暮らし。クラスメイトは、ダサい幼なじみのジョン(マルコム・カミング)、ラブラブ・カップルのクリス&リサ、嫌がらせが止まらない元カレ・ニック、SNSでソウルメイトを探し続けるステフなど、くだらない連中ばかり。このパッとしない生活から抜け出したいアナは、大学に進学せず世界を旅することを計画していた。そして、そのチケット代を稼ぐためジョンとバイトに励んでいる。あるクリスマスの日、旅行計画がバレてしまい、アナと父は大喧嘩。夢も希望もない町にうんざりしていたアナは、バイトの帰りにジョンに励まされ、少し元気を取り戻す。翌朝、気持ちを切り替えたアナは、ジョンと学校に向かう。途中、スノーマンの着ぐるみを着た血だらけの男が突如現れ、ジョンに襲いかかる。その瞬間、アナは公園にあったシーソーで男の頭を吹き飛ばす。なんと、男の正体はゾンビだったのだ! そして、アナと仲間たちは、日頃の鬱屈した思いを発散するかのように、高らかな歌声と軽快なリズムにのってゾンビ軍団に立ち向う…。                     

 演出は軽快。劇画チックでクレイジー。サウンド(音楽)も快適。たとえば、墓地でのミュージカル・シーンなどが笑わせます。青春―自由への憧れ、反権力、連帯…。そうした若者のエネルギーが、ゾンビどもとの戦いに凝縮される。ヒロイン、アナ役のエラ・ハントがチャーミング。彼女は言います―「アナは、ブレない、真っすぐな人間。この映画には、明確なメッセージがある。プロデューサーたちはジョン・マクフェールが監督に決まる前から、この物語をリアルに近いものにして、感情もリアルにしようとしていたんだと思う。そこが、他の典型的な青春ミュージカルとは違うの。若者たちは、みんな保守的な歯車の外に夢や希望を持っていて、ゾンビが現れたことにより、両親から離れて自分たちで戦い、成長していくの」と。彼女は、イングランド・デヴォン出身の19歳。自ら歌も歌うし、作曲もし、ミュージカルも大好き、だとか。今回は、撮影よりも先にレコーディングしたという。                     

 そして、若者たちを襲うゾンビどもの姿に、タイトル通りに“世界の終わり”という意味もこめられる。マクフェール監督は語る―「この作品には、いくつもの感動的なシーンがある。それは、あるテーマが根底にあるから。“子供たちが成長して死と向き合う”というのが大きなテーマだ。そして、われわれは、子供たちに何を残すべきか? 次の世代は、どこへ向かうのか? これは、子供たちが成長し、高校を卒業して人生に責任を持つようになることと、同時に親の世代が残した社会に、どう向き合うかということを問う映画だ」と。同監督は、作品作りのために、昔のミュージカルを見て勉強したという。「この映画を撮るまで、ハイスクール・ミュージカルを見たことがなかった。それまでのお気に入りは『サウスパーク/無修正映画版』だった。そして、『ウィキッド』を見に行き、ありとあらゆるミュージカルのDVDを見た。いまは『ウエスト・サイド物語』が好きだ。この映画のなかに少し、その影響も入っている」。まさに、単なるゾンビ・コメディーではないってことですね。                     

 もともとイギリス映画には、リアリズム作法とブラック・ユーモアの精神が息づいています。マクフェール監督も、そんな伝統を引き継いでいるのでしょう。彼は、撮影部門で6年働いたのち、2013年に初の短編「Notes」を撮り、エディンバラのブートレッグ映画祭で最高スコットランド映画賞を受賞。同作品はイギリス全土と北米で上映され、かずかずの賞を受賞した。同年、短編「V for Visa」と「Just Say Hi」を撮影。前者は、ニューヨークのトライベッカ・フィルム・センターで開催されたブートレッグ映画祭で監督賞を受賞。後者はヴァージン・メディア・ショーツ・コンペティションに参加、3つのうち2つの賞を受賞。複数の賞を取った監督は史上初だった。また、クラウドファンドで製作した長編映画「Where Do We Go From Here?」は、オーストラリアのシドニー・インディー映画祭でワールドプレミア上映され、作品・音楽・助演女優部門で受賞。今回が長編2作目となる。                     

 ところで、ぼくたちも電車に乗ると、ゾンビ軍団に取り囲まれ、なんだか気持ちが悪くなりますね。そんな時は、こんな風に考えます。「I Have Not Smartphone、Because I Am Not Zombie!」。「アナと世界の終わり」の採点は―★★★★ でした。


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