わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

名作映画のラストシーンに酔う!①

2014-06-05 17:01:23 | 名作映画・名シーン

※名作映画には素晴らしいラストシーンが用意されています。名匠と言われた監督たちは、そこにどんな思いを込めたのか。今回から映画史に残る名シーンを不定期でご紹介します。

「第三の男」(1949年・イギリス)
 キャロル・リード監督の「第三の男」は、第2次世界大戦直後、米英仏ソ4か国の共同占領下にあったオーストリアの古都ウィーンを舞台にしたサスペンスの秀作である。本作は、戦後ウィーンの複雑な政治状況を無視しては語れない。映画では、4か国による分割統治が手際よく示され、その裏側で暗躍する犯罪が浮きぼりにされる。
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 アメリカの作家ホリー・マーティンス(ジョセフ・コットン)が、親友ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)に招かれウィーンを訪れる。だが、ハリーは自動車事故で死んだという。マーティンスは、友の死に疑問を抱き真相を追う。しかし、ハリーの死に立ち会った3番目の男の正体がつかめない。やがて、ハリーが戦後の混乱を利用して粗悪なペニシリンを売り、多くの人々を犠牲にしていた事実を知る。一方ハリーには、チェコスロバキアからの亡命女優でアンナ(アリダ・ヴァリ)という恋人がいる。マーティンスは、ひとり残されたアンナに思いを寄せる。だが、ハリーは生きていた! マーティンスは占領軍と取り引きして、密入国者のアンナにパスポートを交付してもらうが、彼女はそれを引き裂いて投げ返す。その後、マーティンスはハリー逮捕に協力することになり、下水道に親友を追いつめて射殺する。
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 そして、映画史上名高いラストシーンを迎える。ハリーの本物の葬式が済んだ日。はるか彼方から、手前に向かってまっすぐ続く道。うら寂しい晩秋の一日、両側には枯れ木の並木。その道に車を止め、荷車に寄りかかり物思いに沈むマーティンス。すると、彼方からアンナがやって来る。彼女は、振り向きもせず彼の前を通り過ぎる。そして、アントン・カラスが演奏する哀愁のチターのメロディーが響く…。亡命者アンナを救うため、親友を裏切って当局と取り引きしたマーティンス。彼の思いを知りながら、その裏切りを許せないアンナ。
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 イギリスの作家グレアム・グリーンが、リード監督と協力して映画用にストーリーを書き下ろした。グリーンが書いた物語の結末では、なんとラストでマーティンスとアンナが腕を組んで歩いて行くことになっていたとか。もしそうなっていたら、この類い稀なラストシーンは生まれていなかったことになる。その結果、グリーンは、映画はストーリーよりも優れていると称賛した。確かに、ハリーが犯したのは人道上最悪の犯罪だ。しかし、単純な正義派のマーティンスによる断罪を、アンナが許す訳がない。コートのポケットに手を入れ、無表情に去っていくアンナ。リード監督は、このラストに、許されざる犯罪が横行した、混乱した時代を生んだ戦争そのものを弾劾しようとする思いを込めたのではないだろうか。
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 加えて、リード監督独特の、光と影が織りなすモノクロの映像美と、仰角を多用した構図が印象的だった。たとえば、生存していたハリーが深夜に姿を現す場面-彼の愛猫が建物の陰に身を隠した男の足にまとわりつく。近所の家の窓が開き、漏れた灯りがニヤリと笑うハリーの顔を突如照らし出す。またクライマックスの追跡シーンでは、夜の街路や地下下水道に足音がこだまし、闇に影が躍る…。本作のもうひとつの魅力は、チター奏者アントン・カラスが作曲・演奏した「ハリー・ライムのテーマ」(「第三の男のテーマ」)だ。この名曲が、力強く急テンポに、あるいは哀調を帯びて緩やかに演奏されて雰囲気を盛り上げる。1949年カンヌ国際映画祭ではグランプリを受賞した。(原題「The Third Man」)

 



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