わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

2009年 公開映画ベスト・テン

2009-12-30 17:17:51 | 映画雑談

 いよいよ、明日は大晦日。今年の締めくくりとして、自分が選んだ2009年公開の外国映画及び日本映画のベスト・テンをご紹介いたします。
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Img216<外国映画>
①「ベンジャミン・バトン/数奇な人生」
(監督:デビッド・フィンチャー/米映画)
②「雪の下の炎」
(監督:楽真琴/米・日合作)
③「キャピタリズム/マネーは踊る」
(監督:マイケル・ムーア/米映画)
④「千年の祈り」
(監督:ウェイン・ワン/米・日合作)
⑤「牛の鈴音」
(監督:イ・チュンニョル/韓国映画)
⑥「ホルテンさんのはじめての冒険」
(監督:ベント・ハーメル/ノルウェー映画)
⑦「人生に乾杯!」
(監督:ガーボル・ロホニ/ハンガリー映画)
⑧「シリアの花嫁」
(監督:エラン・リクリス/イスラエル・仏・独合作)
⑨「風の馬」
(監督:ポール・ワグナー/米映画)
⑩「アニエスの浜辺」
(監督:アニエス・ヴァルダ/仏映画)
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Img217<日本映画>
①「ヴィヨンの妻/桜桃とタンポポ」 (監督:根岸吉太郎)
②「空気人形」 (監督:是枝裕和)
③「劒岳/点の記」 (監督:木村大作)
④「妻の顔」 (監督:川本昭人)
⑤「南京/引き裂かれた記憶」 (監督:武田倫和)
⑥「GOEMON」 (監督:紀里谷和明)
⑦「嗚呼 満蒙開拓団」 (監督:羽田澄子)
⑧「無防備」 (監督:市井昌秀)
⑨「黄金花/秘すれば花、死すれば蝶」 (監督:木村威夫)
⑩「犬と猫と人間と」 (監督:飯田基晴)
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 外国映画と日本映画の第1位、「ベンジャミン・バトン/数奇な人生」と「ヴィヨンの妻/桜桃とタンポポ」は、映像の完成度と情感豊かなドラマの語り口が、ほぼ完璧な出来。文句なしに09年度の最優秀映画に。
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 また、09年は、ドキュメンタリー映画の秀作が目立ちました。外国映画でいえば、チベットの悲劇に迫った「雪の下の炎」、世界経済恐慌の元凶を告発したマイケル・ムーアの「キャピタリズム/マネーは踊る」、老農夫と老いた牛の生活の営みに密着した韓国映画「牛の鈴音」、フランスの映像作家アニエス・ヴァルダの創作の秘密をヴァルダ自らが解き明かした「アニエスの浜辺」など、カメラがいかにリアリティを追究する際の鋭い武器になり得るかを示した作品群でした。
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 日本映画では、広島在住のアマチュア映像作家が原爆後遺症に苦しむ妻の姿と家族のうつろいを数十年間にわたってとらえた「妻の貌」、日中戦争時の悲劇の真実に迫った「南京/引き裂かれた記憶」「嗚呼 満蒙開拓団」、ペットブームの陰で犬や猫がいかに始末されていくかを追究した「犬と猫と人間と」など、やはりカメラがいかに歴史と現実の真実に迫れるかを証明した作品群でした。ドキュメンタリーが、邦洋それぞれ各4本、ベスト・テンに入ってしまったのは、それだけ、現実ははるかにドラマを乗り越える、ということの証しでしょう。
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 そのほか、高齢者問題を鮮やかなドラマに仕立て上げたノルウェー映画「ホルテンさんのはじめての冒険」や、ハンガリー映画「人生に乾杯!」に、大いに共感。日本映画では、高齢の映画人が映画作りにパワーを見せた「劒岳/点の記」や「黄金花/秘すれば花、死すれば蝶」に心を揺さぶられた。また日本映画では、30歳代の若手監督たちの進出が目立った年でもあった。これからも、彼ら若手のクリエーターの仕事ぶりを、ホームページやブログで積極的に取り上げていきたいと思っています。映画界の未来は、彼らの手にゆだねられているのですから…。さて、みなさんが選んだベスト・テンは、どうなりましたか。
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では、2010年も、いい映画に出会えますように。
どうぞ、よいお年をお迎えください。


台湾と日本の心「海角七号/君想う、国境の南」

2009-12-28 19:32:04 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img215 台湾の新進監督、ウェイ・ダーション(魏徳聖)の長編映画デビュー作「海角七号/君想う、国境の南」(12月26日公開)は、64年前に台湾が日本による統治時代の幕切れを迎えた場面から始まります。若い日本人教師が、敗戦によって帰国を余儀なくされた船上で、愛する台湾人の教え子の女性に惜別の手紙をつづり始める…。日本による台湾統治は、1895(明治28)年から1945(昭和20)年の敗戦まで50年間に及んだ。その間、政治・文化・教育など、あらゆる面で台湾の日本化が進み、両国の文化が同化すると同時に、台湾人は独自のアイデンティティを失っていった。映画は、こんな過去の歴史をキーポイントにしている。教師が手紙につづる一節「僕が向かっているのは故郷なのか、それとも故郷をあとにしているのか」という文面が、台湾に在住した当時の日本人の心境をみごとに反映しています。
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 でも、ドラマのメインは現代です。主人公は、台北でミュージシャンになる夢に敗れ、台湾最南端の故郷・恒春(ハンチュン)に戻って来た青年・阿嘉(ファン・イーチェン 范逸臣)。郵便配達の仕事についた彼は、宛先不明になった日本統治時代の住所“海角七号”あての未配達の小包を見つける。その中身は、かつて日本人教師が教え子にあてた7通のラブレターだった。同時に映画は、恒春の町おこしのために開催されるビーチ・コンサートの準備に追われる人々の姿を描く。コンサートのゲストは、日本人歌手・中孝介(本人/60数年前の教師役も兼ねる)。イベントの通訳兼世話役が、売れない日本人モデル・友子(田中千絵)。それに、前座をつとめる地元のバンドが、阿嘉を中心に編成されて、音楽を主軸にして、新旧世代の台湾庶民のユーモラスで陽気なドタバタ騒動がからんでいく。
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 ウェイ監督は、名匠といわれた故エドワード・ヤン監督(「ヤンヤン 夏の想い出」)に師事した経歴を持つ。映画のヒントになったのは、郵便配達人が日本から投函された旧町名番地あての手紙を、2年かけて受取人の老人に届けたというTVニュースだったとか。ほとんど映画には素人のミュージシャンらを中心に配役を組み、2世代にわたる人物を登場させ、約1500万円という少ない製作費で、恒春ロケを行って撮影。だが公開されるや、台湾映画史上、歴代第一位の大ヒットになった。南国の人々の大らかな気質。重要なモチーフとして流れる、おなじみの日本唱歌・シューベルトの「野ばら」。阿嘉が最後に老女に届ける海角七号あての手紙。南国の海岸に流れる中孝介の独特の節回しの歌声。台湾と日本の文化の交錯を土台にして、人々の哀歓をノスタルジックにうたいあげた異色作になっています。


スコセッシ製作「ヴィクトリア女王/世紀の愛」

2009-12-25 17:20:20 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img208 19世紀にイギリスを最強国家に導き、在位64年、いわゆるヴィクトリア朝時代を築き上げたのがヴィクトリア女王(1819~1901)です。その若き日に焦点を当てた作品が「ヴィクトリア女王/世紀の愛」(12月26日公開)。王位をめぐる権力争いの中で、ヴィクトリアは18歳で即位。アルバート公との愛と結婚をへて、女王への道を歩み出す。ヴィクトリアを演じるのは「プラダを着た悪魔」のエミリー・ブラント。アルバート公に「プライドと偏見」のルパート・フレンド。ヴィクトリア女王といえば、1861年にアルバート公に先立たれて以来、亡くなるまでの40年間、喪服を着続けたという。だが本作では、そんな暗いイメージとはかけ離れた、愛し悩む彼女の青春像が生き生きとクローズアップされます。
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 そして、なによりも興味深いのが、ヴィクトリアと王室をめぐる波乱が浮きぼりにされる点だ。娘に摂政政治を承認させようと企む母親ケント公爵夫人(ミランダ・リチャードソン)との確執、政治家との駆け引き、マスコミが書き立てるスキャンダル、ヴィクトリアとアルバートを引き裂く疑惑、国民の暴動。なかでも衝撃的なのは、暗殺者によってヴィクトリアに銃弾が放たれるくだり。つまり、この映画は、いまだ未熟で、ういういしいヴィクトリアの魅力とともに、王室をめぐる政治的状況をあからさまにすることで、現代的な視点を持つ作品になったといえる。そのあたりが、ジュディ・デンチが喪に服したあとのヴィクトリアを演じた「Queen Victoria 至上の恋」(97年)とは対照的なところです。
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 脚本を執筆したジュリアン・フェロウズによると、「女王は年老いた陰鬱な未亡人として知られている。彼女の初期の人生について知る人は、ほとんどいない。若かりし頃の彼女は、ダンスと音楽を好む非常にロマンチックな女性だった」そうだ。この若く美しいヴィクトリア女王の愛を描くという企画に魅了され、製作を手がけたのが巨匠マーティン・スコセッシ。カナダ出身で、「C.R.A.Z.Y.」でスコセッシに認められたジャン=マルク・ヴァレが監督に起用され、ヴィクトリア朝時代の宮廷の華麗な雰囲気や、ヴィクトリアの華麗なファッションを再現。野心的なメルバーン卿に扮するポール・ベタニー、ケント公爵夫人を公の席で罵倒するウィリアム王役のジム・ブロードベントら、脇役陣も充実している。

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冬空に映える南天(なんてん)の実


「2012」-ローランド・エメリッヒの滅亡世界

2009-12-23 18:36:02 | 監督論

125869400346016104446_2012nw3 ローランド・エメリッヒ監督のSFパニック「2012」は面白かった! 地球滅亡の日が訪れるというマヤ文明の予言、そして太陽系の惑星が直列する日に終末がやってくるとか、太陽のコロナの温度が上昇したとき地球の地殻変動が起こる、などという話はよく聞くけれど、それらをヒントに作り上げられた壮大なイメージが素晴らしい。地震や津波、噴火によって崩壊する世界中の都市、大地を覆いつくす海水、そして地球という惑星の終焉…。いくらCGを駆使したとはいえ、いつもながらエメリッヒの破滅世界にはビックリする。エンドロールのクレジットを見ると、イギリスの作家グラハム・ハンコックが超古代文明について書いたベストセラー「神々の指紋」にインスパイアされたと記されていますね。
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 エメリッヒの代表作といえば「インデペンデンス・デイ」(96年)と「デイ・アフター・トゥモロー」(04年)。前者は、地球を征服するためにやって来た巨大UFO群が世界各地の上空を覆ってしまうイメージがすごかった。後者では、地球温暖化の結果、氷河期が訪れ、地上全体が凍りつくというリアルな設定が迫力十分でした。エメリッヒは、ドイツ(かつての西ドイツ)出身で、ミュンヘンの映画学校を卒業。「スペースノア」(83年)、「MOON<ムーン>44」(90年)などのリアルSFで認められて、ハリウッドに招かれた。UFOの大群の襲来は別にしても、温暖化の末に氷河期がやって来るとか、惑星直列&太陽熱の上昇などということは本当に起こりうると思われるだけに、彼のアイデアは現実的です。
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 さらに「2012」では、崩壊する地球から逃げ出すために巨大な船が建造される。その場所が、中国のチベット山中あたりという設定も興味しんしん。中国の造船技術に焦点が当てられるくだりなどは、いまや世界をリードする同国の経済状況を踏まえているのかもしれません。それにしても、世界人口68億といわれる人々を、いったい本当に乗船させられるのかしらん、と思っていたら、やはり政治家と軍関係、それに一部の富豪に限られていた。その辺の見通しも、やっぱりリアル。だけど、映画を見る前は、地球が足もとから崩れていき、宇宙船でどこかの星に避難するのかと予想していたら、あにはからんや、沈没せずに残っていたアフリカ大陸あたりに上陸(?)という結末には、ちょっとガックリでした。


追悼! ジェニファー・ジョーンズ

2009-12-19 18:45:04 | スターColumn

Img213_2 往年のアメリカの美人女優、ジェニファー・ジョーンズが、12月17日、ロサンゼルス郊外の自宅で死去、90歳でした。両親は舞台俳優で、のち映画興行に従事。子供のころから舞台に立ち、大学卒業後、アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティック・アートで学び、1939年に映画デビュー。大物プロデューサー、デビッド・O・セルズニック(「風と共に去りぬ」)に認められ、舞台をへて、43年「聖処女」で再デビューし、アカデミー主演女優賞を獲得。以後、セルズニックのプロダクションで話題作に出演。代表作に、「白昼の決闘」(46年)、「ジェニーの肖像」(48年)、「終着駅」(53年)、「慕情」(55年)、「武器よさらば」(57年)などがある。49年にセルズニックと二度目の結婚をし、65年に死別した。
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 その中で印象に残る作品は、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の「終着駅」(写真・上)と、ヘンリー・キング監督「慕情」(写真・下)。前者では、ローマでイタリア人青年(モンゴメリー・クリフト)と恋におちるアメリカ夫人を演じ、香港を舞台にした後者では朝鮮戦争で命を落とすアメリカ人新聞記者(ウィリアム・ホールデン)と愛し合う中国系の女医に扮した。ともにメロドラマの秀作で、悲しい別れを象徴するラストシーンが記憶に残っています。セルズニックの死後はパッとせず、一時アルコール依存症になったというが、74年「タワーリング・インフェルノ」で復帰。いかにも大女優という態度は見せず、清楚で控えめな魅力で薄幸のヒロインを演じて、日本でも多くのファンに愛されました。Img214_2


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