サンデー毎日連載のマンガエッセイを収録。帯はないがあったとすれば、その惹句は「ド下手漫画家サイバラ先生のお下劣な日常」ってなところか。「どてがかゆい!」(これはさすがにサン毎は載せなかったろうが)などは無比だろう。そのなかでは異色の2篇。車に轢かれて死んだ猫を哀悼した「コプルちゃんが死んだ」と、工事現場の杭打ち機が横転事故を起こしたアパートに住み亡くなった美術予備校時代の同期生が、新聞記事で「フリーアルバイター」と掲載されたことを悔んだ「死んだのは一人の芸術家でした」。「コプルちゃん」は猫を飼ったことのある人間なら誰もが味わう悲哀である。同様なものとして、犬を飼ったことのある人間なら「ママ犬を飼う」のバカ犬ジョンに遠い眼差しになるだろう。畏敬する友だちがいた人間なら、「死んだのは一人の」に失った嘆く心を思い出すだろう。26歳という若さで死んだ友だちについて書くことに逡巡したとあるから、エロ漫画誌や実話雑誌ではなくサンデー毎日の読者向けにウケを狙ったと半ば告白しているようなものだ。そうした多重なサイバラのメタ世界は、苦労話と自虐ネタで笑わせ泣かせの関西の伝統的な夫婦漫才に似て、庄司敏江を懐かしく思い出した(その後、サイバラはアル中の売れないカメラマンと結婚して、本当に夫婦漫才を展開する)。で、いったい何がいいたいかというと、文豪・野坂昭如は、彼の代表作であり名作とされる「火垂るの墓」を最近になって、ウケを狙ったやっつけ仕事だったと告白している。サイバラ先生も週刊誌連載のしんどさから同様だったのだろうが、野坂くらい数10年間も黙って自らの恥辱を噛みしめていないと文豪にはなれないぞと。あ、もう時間だ。
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