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追悼 ポール・ニューマン

2008-10-01 11:29:06 | レンタルDVD映画
そうですか。Mさんの19歳の名画は、「スティング」でしたか。
http://9101.teacup.com/chijin/bbs

俺は「ひとりぼっちの青春」でした。
http://moon.ap.teacup.com/applet/chijin/archive?b=30

19歳というのは、ものぐるしい季節でしたね。子どもではないけれど、大人ではない。大学に入ってはみたけれど、何かが始まったという手応えはなく、方向も定かではない。ただ、うろうろして、とりあえず映画館の薄暗がりに溶け込もうとしたりする。

ポール・ニューマンはアイリッシュの役柄を演じることが多かった記憶がありますが、ユダヤ系らしいです。アメリカの映画スターにしては、背が高くなく、とりたててハンサムでもない。ただ、表情がとても豊かでした。若い頃の「暴力脱獄」や「ハスラー」では、上唇が少しめくれ気味で、そこが労働者階級の若者の率直な不満や反発心をあらわしていて、よかったですね。

レッドフォードとコンビを組んだ「スティング」や「明日に向かって撃て」では、中年にさしかかった兄貴分といった役どころでしたが、いたずらっぽく動く眼と邪気のない笑顔が魅力的なのは相変わらずで、映画のなかでそのまま歳をとってきた風でした。いろいろな役柄をやるんだけれど、ポール・ニューマンとして観客の記憶に残る。それが映画スターなんですね。そのなかで、異色だったのは、「ロード・トゥ・パーテーション」の悪役くらいですか。この映画は、トム・ハンクスが「子連れ狼」の拝一刀、ポール・ニューマンが柳生石舟斎になるものです。

「スティング」(1973年)は、レトロな道具立てに凝った先祖帰りの映画でした。いわゆるアメリカ社会の闇を抉った社会派映画が流行した70年代には異色の、アメリカを問い直す問題意識や反体制思想とは無縁の娯楽映画をめざしたものでした。騙し騙されのコンゲームを通して、これは映画なんだ、作り物なんだ、という自覚を観客にうながす、いわゆる社会派映画への批評的な映画でもあったと記憶しています。

ならば、悪役ロネガンを演じるのはもっと大物のハリウッドの老俳優、たとえばエドワード・G・ロビンソンあたりをもってくるのが常道であり、またレッドフォードとニューマンというビッグネームの敵役に、ほとんど無名のロバート・ショウは釣り合いません。野卑で強欲なだけのロネガンという造型も、1935年のシカゴを舞台にしたファンタジーなコンゲーム映画としては、リアルすぎてユーモアに欠けている気がします。

大プロデューサー・ザナックの製作であり、アカデミー賞を受けたように、たぶん、この作品は社会派映画をつくる独立系プロダクションに対するハリウッドからの反撃作品ではなかったかと思います。しかし、ロバート・ショウがロネガンを演じたように、往年のハリウッドスター映画そのものはつくれなかった。誰の作為や意図でもなく、そうなってしまった。時代の空気というものかもしれません。ただし、ロバート・ショウのロネガンが現代的(1970年代)であることで、この映画は深みを得ました。失敗したはずなのに成功する。こうした結果オーライがまま起きるので、映画はおもしろいのでしょう。

(敬称略)



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