コタツ評論

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ナイロビの蜂 続き

2006-06-17 12:21:30 | ブックオフ本
『ナイロビの蜂』(原題 「CONSTANT GARDENER」-律儀な園芸家)はお得である。人物の造型や配置、その情動、そしてストーリーの構造がきわめて重層的だから、読後に思いつくことや考え直すことが次々に出てくる。1冊で3冊分くらいの読後感がある。この部分はケチつけられるなと心中にメモして置いたところが読み終わればどうでもよくなる。しばらくして考えてみるとあれはちゃんとバランスが取れているなと舌を巻く。もっと時間が経ってみるといやル・カレはきちんと自分の考えが読者に伝わるように、あえてそこは書かないようにしたとも思える。いや、ここで自分の考えなど代弁させてはいない、何かをシンボライズしているのではないか、といった風に。浅薄に思える筆致の中にこそ、自らと読者への浅薄ではない批評性と含意が含まれている。たとえば、NGOやそれを担う人たち、そのネットワークが次々と紹介された後のロービアーという奇怪な人物の登場は圧巻だった。読んだ人たちと、「あれはさ、どういうことなの?」「えっ、そういうことなの?」「違うよ、それはね」「そうじゃないって、あれはさ」と話したくなる小説だ。謀略と恋愛をどちらかをツマにせず両立させる強腕をそれと意識させないのは、たぶんテッサが幻影であり、終始人々の投影をまとっているからだろう。にもかかわらず、力強く手を引くようにテッサは、「律儀な園芸家」ジャスティンを危地に導いていく。人々の憧憬を集めるアイドル(偶像)であり、スキャンダルとゴシップに彩られながら、けっして人形ではなく作業服も着た、一人の女性を私たちは知っている。ダイアナ妃だ。ジム・トンプソンの最大級の賛辞を少しアレンジしてル・カレに贈ろう。「この9年間、筆者は怠け者ではなかった」。
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ブログ開設

2006-06-17 12:09:45 | ノンジャンル
よそ様の掲示板に書いてきたのをよそ様がまとめてブログにしてくれた。掲示板の流れに反応して書いてきた派生物件なので、これだけ取り出すと変なところ多数である。あんまりかなという箇所は少しずつ書き直していかなくては。




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