徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

三番目の夢(第一話 学校の怪談??)

2005-08-26 23:18:37 | 夢の中のお話 『彷徨える魂』
 「合格おめでと~う! 」

 黒田が子どもたちに解放したオフィスの一室で小さなパーティが始まった。

 悟が国内最高と言われる大学に合格したのを知った雅人が、皆に呼びかけてお祝いすることにしたのだ。強気の悟も今日はちょっと照れ気味だった。

 「やったねえ! 悟! 」

透が感心したように言うと、悟は嬉しそうに気持ち鼻の下を伸ばした。

 「いや。 当然の結果です。 僕はそれだけの努力をしてきましたからね。」

 「お前のその鼻持ちならないところが素敵さ!」

雅人がコーラの入ったカップを掲げながら皮肉っぽく言った。

 「ありがとう! 君の先輩を先輩とも思わないそのでかい態度もね。 」

悟も負けずに言い返した。
会えば厭味と皮肉の言い合いになるくせに、このふたりは結構仲がよかった。

 働くのが身に染み付いている隆平はキッチンとテーブルを行ったり来たりしてみんなの世話を焼いていた。

 「隆平。 いいから座れよ。 」

晃が隆平の腕を引いて座らせた。座ったら座ったで、ジュースを注いだり、テーブルを拭いたりで忙しい隆平だった。
 
 「隆ちゃん。 はいチキン食べて! 」

透が強制的に隆平にチキンを渡したのでやっと落ち着いた。

 「でさ…今年は藤宮高は結構な合格率だったらしくて…来年の生徒募集に期待が持てそうだなんて言ってたよ。 さらに学校付属の受験塾に力を入れようってことで…。 」 

 「ふうん…それで新しい先生を何人か入れたわけね。」

 「だけど心配なのは…あのうわさ。 去年も一昨年も新人の先生が辞めただろ。
あれさ…何年か前に亡くなった先生が新人の指導に現れるってやつ…。」

 「ああ…でもねえ。 そんな霊、僕等キャッチできないもん。 うそでしょ。」

 新学期から、藤宮学園の高等部に新任の先生が配属されるらしいといううわさがあった。さすがに藤宮本家の跡取り、悟は裏話をよく知っている。

 「何? 受験塾って? 」

隆平が訊いた。

 「学校主催の受験生用補講だよ。1~2年でも週三で進学補講やったじゃない。

 藤宮の生徒は藤宮の大学へ進む組と他の大学を受験する組とに分かれるだろ。 ストレート組みはいいけど、受験組は進学補講の他にさらに受験用の勉強が必要だということで分けて補講するわけよ。 」

晃が答えた。

 「しかも、藤宮の補講は民間の大手塾にも引けを取らない実績がある。
隆平も選択するだろ?」

 「それは…そうだけど。 」

また修さんに負担をかけちゃうな…。そんなふうに隆平は思った。

 「あ…ところでさ。 A町のバス停の所に新しくゲームセンターができたわけ。
ここにコインと引き換えのサービスチケットがあるんだけど今度行かない? 」

雅人がチケットの束をぴらぴらさせた。

 「乗った!」

透と晃が同時に答えた。出遅れた隆平はただ頷いた。

 「おまえら受験生じゃないのかよ? 」

悟が呆れて言った。

 「悟。行かないの? 」

透が言うと皆がいっせいに悟を見た。

 「行きますよ。 せっかくですから…ね。 」

笑い声がオフィスの外まで響いた。



 透たちの通っている藤宮学園は、藤宮の本家が理事長を務める私立の学校である。

 有名難関大学への進学率を誇る超エリート進学校として有名だが、小学校から大学まで備えているせいか、受験に関しても長期的視野で対応していくというのが基本方針で、それほどがりがりと勉強ばかりをさせているわけではない。

 スポーツや学園内の行事も盛んで、生徒会の活動もできるだけ生徒の自主性を重んじている。
 自ら考えて行動する力とその行動に責任を持つ心を養おうというのが狙いだ。 

 そのせいか、今の時代にしては中途退学する生徒も問題を起こす生徒も少ないのが自慢である。
 

 少子化の影響でどこでも経営が苦しくなってきているのが現状だが、有難いことに入学数は減少しておらず、むしろ増えていて、このところ理事長輝郷が頭を痛めているのは教師不足の方だった。

 教師同士の仲も悪くはなく、勿論、他の学校に比べて給料が安いわけでもなく、教師にとってはまあまあ仕事のしやすい環境であるにもかかわらず、新人の教師たちが居つかない。

 採用するとすぐに体調を崩してしまい結局は退職してしまう。
ベテラン勢に何とかがんばってもらっているが、間もなく定年の人もいて、早急に新しい世代を育てなければ学校が立ち行かない。
 
 しかも、併設している受験塾の入塾希望者が年々増え続けているために、ベテラン勢たちは休む間もなくフル回転で働いているようなものなのだ。

 何とかしなければと思っていた矢先、妙なうわさが耳に入った。

 新しく採用された教師を指導するために亡くなった先生の魂が現れる…。
新人教師はそれが怖くて辞めていくのだ…と。

 馬鹿な…と輝郷は思った。
そんなことが本当にあるのなら我々藤宮の一族が気付かぬはずがない。
この学校に居る藤宮の一族からも、紫峰の一族からも、別段異常を感じたという
報告は受けていない。

 だが…これまでの採用者がはっきりした原因を言わずに体調不良で辞めていったところを見ると何か原因はあるのだろう。ひょとするとシックハウスのようなものかも知れないが…。

 そっちの線で調査してみて…それでも万一の時には笙子か修に来てもらうかな。
藤宮の血を引く教師たちは何人も居るのだが…残念なことにあのふたりほど感度がよくないから…。

輝郷はふとそんなことを思った…。



 新しい赴任先を目の前にして唐島は少し気後れしていた。
これまでの公立の高校とは何もかもが異なっている。

 この学校の理念に共感して就職したものの、高級マンションの如き校舎もさることながら、設備から何から至れり尽くせり。
さすがに金持ち相手の学校は違うとしみじみ思い知らされた。

 まあ…いいか。 
僕のできるだけのことをすればいいんだから…。

大きくひとつ深呼吸をして唐島は学校の門をくぐった。





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