徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

三番目の夢(第十五話 発作再び)

2005-09-12 23:54:30 | 夢の中のお話 『彷徨える魂』
 日曜日。 外出を禁止されている三人はそれぞれの部屋にこもっていた。
はるがしっかり見張っていても、やろうと思えば抜け出すことは簡単だが、抜け出そうという気さえ起こらなかった。

 ノックする音が聞こえて透はドアを開けた。黒田が立っていた。

 「叱られたんだってな。 はるさんに聞いたぜ。 」

 父親の顔を見るとどうしてだか涙が出てきた。
こいつの前では絶対泣くものかといつもは思っているのに…。

 「宗主の自覚なんてもう全然頭になかったんだ…。 

 ふたりで紫峰を継ぐようにと、修さんが命懸けで僕と雅人を三左の悪巧みから護ってくれたのに…僕はその重みをすっかり忘れてしまっていた。 

 修さん…初めてだよ…あんなに怒ったの…。 」

 だろうな…と黒田は思った。相伝の前であれば修もただ物事の良し悪しだけを教えておけば良かった。
 だが後継者と決まった者にはそういうわけにはいかない。宗主・後見は一族を背負って立つ存在だ。自ずと抱える責任が変わってくる。

 「肝に銘じておくんだな。 いずれおまえたちも次世代に伝えていかなければならないことだ。 」

黒田はそう諭した。透はうんと頷いた。

 「ところで肝心な修は何処へ? 」

 夕べ夜中近くになって修は帰ってきた。確かに屋敷の中にはいるはずである。
洋館の方にでも行っているのではないかと黒田に伝えた。



 黒田が洋館を訪ねると修はまだベッドの上で眠気と格闘していた。
普段早起きで身繕いもきちんとしている修が珍しく半裸の寝乱れた姿のままで。
バスルームからベッドに直行したところで力尽きたか…。
黒田の来訪にも気付いている様子はない。

 あまりのハードスケジュールにさすがの修もダウン寸前か…。
黒田は少し治療をしてやろうと修の傍らに近付いた。

 修の身体に触れた瞬間、修は悲痛な声を上げ飛び起きた。
正気じゃない…と黒田は感じた。
反射的に腕を振り上げ黒田に襲い掛かろうとした。
 
 黒田も身体の大きな男である。
暴れる修の身体を抱きとめてしっかりと押さえ込んだ。

 「修! しっかりしろ! 俺だ…黒田だ! 」

 逃れようともがく修の身体をさらに黒田が押さえつけた。
黒田でなければ簡単に跳ね飛ばされていただろう。

 「落ち着いて…修。 大丈夫…何もしない…。 そうだ…いい子だ…。 」 

次第に修は覚醒し始めた。動きが緩慢になり、やがて止まった。

 「修…分かるか…。 」

黒田がそう声を掛けると修は黒田の顔を見つめた。

 「黒田…? 怪我しなかった…? 僕…暴れただろう? 」

修は不安げに訊いた。
 
 「俺は大丈夫だ…。 」

黒田は言った。安心したように修は頷いた。

 「ねえ…黒田…重いよ…。 」 

 言われて黒田も気が付いた。修の上から自分の身体をどけた。
修は起き上がって溜息をついた。

 「ずっと治まってたのに…。 」

 「俺が不用意に黙って触れたのが悪かったのさ。 声を掛けるべきだった。
不意打ちでなければ普段は平気なんだろ? 」

そう訊かれて修は頷いた。

 「今はもう…ほとんどね。 嫌な時もあるけどだいたい我慢できる。
こちらから触れる時や相手が触れてくることが予測できる時には…。

あと…子どもたちが触れるのはだいたい平気だ。気配で感じるから…。 」

 そうか…と言って黒田は立ち上がった。

 「宇佐くんとは長い付き合いだろ? 今みたいなことはなかったのか? 」

 「宇佐? 宇佐は不用意に僕に触れるようなまねはしないよ。
あいつは誰にもそんなことはしない。 殴り合いの喧嘩の元だからな。

 彰久さんは礼儀の鬼だから…相手に失礼のないように必ず少し距離を置く。

 それにこのふたりと僕の間には性的な意味合いは全く存在しない。
お互い親友と呼び合う仲で寝食をともにしたこともあるけど、そういう意識は皆無だね。
彰久さんなど千年も前からそうだ。 」

修は楽しげにふたりのことを語った。

そいつぁ健康的なお付き合いで何よりだね…と黒田は思った。

 ベッドと反対側の椅子に腰を下ろすとベッドの上の修を見上げた。

 「さて…修くんよ。 落ち着いたところでそろそろ河原先生とのコンタクトをどうするのか決めてくれんかな。 」

 黒田は話題を変えた。
修は多分何時までも過去の傷に触れられているのは嫌だろうから。

 「すでに子どもたちの失敗の話は聞いているとは思うが、河原先生の生霊には何人かの霊が憑依していることが分かったんだ。
 
 当然、邪魔な霊たちを追い払う必要があるので、史朗ちゃんに祭祀をしてもらいながらのコンタクトになるが黒田としてはどうよ…?
やりにくくはないかな? 」

 「つまり…この俺に鬼面川の坊やとコラボをせよと…? 」

黒田は唸った。

 今まで同族とはともに協力しあったことはあるが、他の一族とのコラボレーションは初めてのことだ。
 
 しかも相手は鬼面川…藤宮ならまだ種としては近いし、どこかで血も繋がっているからやりやすいだろうが、鬼面川は勝手が違いすぎる。

黒田はしばらく考えていたが、分かったというように頷いた。  

 「やってみましょう…そのコラボ…。 結構面白いかもしれん。 」

 「じゃあ…今度オフィスの方へ史朗ちゃんを連れて行くよ。 
前もって一度逢って話した方がいいだろうからね。 

それとも今からここへ呼ぼうか…。 」

 修はベッドから降りるとテーブルの上から携帯を取った。
史朗は夕べと同じで自宅のマンションにいた。
すぐにこちらへ向かうと返事をくれた。

 「鬼面川の坊やは…笙子さんのツバメちゃんだろ? 」

黒田が訊くと修は笑みを浮かべた。

 「史朗ちゃんは笙子に囲われている訳じゃないよ。 仕事はできるし、生活も乱れてはいない。 笙子と対等に渡り合えるいいパートナーさ。 」

手早く着替えながら修はそう話した。

 「妬かないのか…修? 」
 
 「妬いたって仕方ないよ…。 僕にとっても可愛い存在だしさ…。 」

黒田は訝しげな顔をして首を傾げた。

 「おまえともできてるってか…?  おまえ…が…? 」

 「できてないけど…できるかもしれないって話だ。 告白されてしまったからな…。 」

修がそう言って笑うと黒田は肩をすくめた。

 「あり得ねえって話じゃないが…なかなか難しいぞ…修よ。
おまえ自身が本気になんねえとな…。 

 情にほだされてなんて関係じゃ…傷つくのはまたおまえ自身だ。 」

黒田は老婆心から修に忠告した。修の顔から笑みが消えた。

 「黒田…僕はいい加減な気持ちで人を抱いたりはしないよ。
何を考えているのか分からない相手に抱かれるつらさは…よく分かってる…。 」
 
ぎゅっと噛み締めた修の唇が怒りに震えていた。
 
黒田は何も言えずただ視線を逸らした…。 





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