周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ) 中国最古の薬酒
3000年ほど前の最古の薬酒だ。市販はされていない。しかし古文書にしたがって家庭で作ることは可能だ。中国の薬酒の必要条件である味 香り 効能の3つがそろっている最古のものである。2千数百年前の東周時代の名君主、周公旦が愛用したので周公百歳酒といわれているが、それ以前に原型があったと思われる。
老化防止と周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ)の関係
老化とは漢方用語で言うならば、気血両虚 気陰両虚 陰陽両虚と何もかもが不足してくる状態である。代わって、痰濁、水湿などの病理産物が体内に蓄積してくる状態である。 したがって総合薬酒としての役割は気陰双補 陰陽双補 祛痰化濁 健脾祛湿などの作用がバランスよく配慮されていなくてはならない。これらの観点から周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ)を見てみると、そのバランスの良さに驚く。補陽にやや欠けるものの十分な補陰血作用と祛痰化濁 健脾祛湿作用はアンチエイジングに最適である。また現代医学的な観点からも免疫力増強や防癌効果も予測される。
材料となる漢方薬
茯神(茯苓の中心部)黄耆 各40g
当帰 生地黄 干地黄 各30g
(地黄には熟地黄もあるが熟地黄を入れると、薬酒が黒くなる。十全大補酒と異なり熟地黄を使わない。)
党参 枸杞子 山薬(乾燥させた漢方薬用を用いる) 陳皮 川芎 防風 白朮 麦門冬 茯苓 亀板 各25g
肉桂 五味子 干姜(あるいは生姜) 各20g
中国元方では高梁酒 5リットル
作成方法
以上の漢方薬を細かく砕き、絹の袋に入れ、高梁酒 5リットルに漬け込む。酒が少なければ、量に応じて薬材の量も少なくする。高梁酒 1リットルならば各薬剤を5分の1の量にすればいい。漬け込んでから2ヶ月ほどで十分に薬効成分が酒に移るが、口当たりが良くなるには1年以上が必要だ。絹袋は漬け込んでから2ヶ月ほどで引き出してもいい。日本で高梁酒が手に入らなければマオタイでもいい。焼酎なら度の高いものがいい。35度あれば十分である。 私見だが、沖縄には土南(どなん)という70度の蒸留酒がある。試されてもいいかもしれない。
薬酒は強い酒ほど薬剤の有効成分が滲みだすのが速く、さらに成熟も早まるといわれている。薬剤の部分によって有効成分の滲みだすのに要する期間が異なる。地上部分にある花、葉、茎の部分は約10日、樹皮、根になると1~2ヶ月を要する。種子になれば2ヶ月は必要だ。周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ)の薬剤には種子類は比較的柔らかい五味子だけであるの2ヶ月で絹袋を取り出していいことになる。
党参とは?
補気薬人参の仲間であるが、安価である。人参と同じく脾、肺に帰経を持つ。特徴は健脾作用に優れ、補中益気の効能があるということだ。薬性が平性なので長期連用に適する。胃腸の機能をアップさせ、渇きを癒し、血を養う。補中益気(健脾)、生津養血という。生津(しょうしん)作用とは、体液を維持し増やす作用である。
免疫力のアップ 黄耆(おうぎ)の効用
黄耆(おうぎ)は人参、霊芝、冬虫夏草とともに補気薬の代表的な生薬である。がん患者の多くは気陰両虚の状態である。党参は補気に益陰も兼ねるのでがん患者には適するが、黄耆は補気作用のほかに、助火作用があるために、陰虚が基本的に存在するがん患者の場合、陰虚火旺の状態を誘発したり助長したりするので、使用されるべきでないといわれてきた。
しかし、適切な滋陰薬を併用することで、黄耆の免疫賦活作用や抗腫瘍作用を利用することが可能だ。周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ)に使われている麦門冬、枸杞子、亀板などは養陰滋陰薬である。老人にありがちな陰虚火旺にも安心して使用できるわけである。
黄耆の免疫賦活作用は、抗がん剤使用によるリンパ球やマクロファージ機能の回復が報告されている。黄耆の抗腫瘍作用は癌をもつ動物実験で生存期間の延長が認められ、LAK(lymphokine activated killer cell)活性を増強することが報告されている。その他に、黄耆には抗アレルギー作用、各種の出血防止と止血作用、浮腫みや、尿量の減少を改善する作用などがある。
茯苓(ブクリョウ)はサルノコシカケ科
キノコは体にいいと言われて久しい。免疫力のアップといえば、サルノコシカケ科の霊芝が有名である。ただし霊芝は独自の苦味があり薬酒に向かない。
茯苓(ブクリョウ)は利水滲湿薬に分類されている。
現代医学風に言えば、「利尿薬」といってもいい。
茯苓の作用として、中医学では①健脾利水②寧心安神と説いている。健脾利水とは、中医学の理論に従えば、胃腸を丈夫にして体の余分な水分“湿”を除くという意味である。つまり祛湿に働く。白朮(ビャクジュツ)と併用すればよりいっそうの健脾作用が期待できる。寧心安神とは精神安定作用と考えていいだろう。特に茯苓の中心部の茯神(ブクシン)にその作用が強い。茯苓は心、脾、腎に働く。
茯苓はサルノコシカケ科のマツホドであり、キノコ由来の多糖類が免疫力に関与していると考えられている。茯苓から抽出される多糖類は抗腫瘍効果がある。
実験的にマウス肉腫、骨髄性白血病細胞に対して増殖抑制効果が報告されている。
茯苓抽出の直鎖状多糖類の一種は細胞性免疫力をアップさせる。
当帰(とうき)は養血活血の要薬
甘 辛 温、肝 心 脾の3経に入る。補血 養血の要薬である。養血剤である四物湯は熟地黄 川芎 白芍 当帰の4薬からなる。周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ)には川芎も地黄も使用されている。 当帰には活血作用があり、淤血による痛みを除く作用がある。打撲による痛み、淤血による生理痛などに有効だ。婦人科領域でもっとも多く使用される薬剤のひとつで、補血活血調経の作用は血虚、淤血による生理不順に効く。当帰は補薬の一般的な性質とされる滋?でなく不滋?である。当帰の副作用ともいえるものは便通が良くなることだ。腸を潤す潤腸作用は老人性の便秘にも有効である。
中国漢方病院では腎陽虚の便秘には補腎剤で潤腸作用のある肉従蓉を、血虚に便秘を合併した場合には当帰を配合することが当たり前のように行われている。当帰の根塊の尾のほうを当帰尾と呼び、活血作用に優れているといわれています。中央部分は当帰身といい、養血作用に優れる。周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ)に使用される当帰は全当帰といい、当帰身と当帰尾を含む。
山芋は食料であり薬でもある
中国では山芋を「山薬」と呼ぶ。河南地方が名産地である。性味は甘 平で脾 肺 腎に働き益気養陰 滋補脾肺作用があり、脾胃虚弱、食欲不振、肺虚久咳、大便溏滑、小便頻数、遺精、脾虚型帯下、倦怠感などの様々な症状に用いられている。
癌治療との関係は、山薬に含まれるアミラーゼ、ポリフェノール酸化酵素が消化を促進し、食欲を増進させることから、放射線、化学療法を受けている患者さんに比較的大量に食べさせている。胸部の放射線療法の際に常に発生する痰が少ない「から咳」が特徴の「熱毒傷陰」の症状に対して滋養肺陰作用を持つ山薬が有効だ。山薬抽出多糖類成分がマウスのT細胞の免疫機能を賦活することや、マクロファージの貪食能を亢進させることが確認されている。さらに、山薬に含まれるムコ多糖類は軟骨組織や関節液の生成と関係しているとの報告がある。結合組織の萎縮を防止する作用があると言われている。 ムコ多糖類とともに山薬に含まれる多糖蛋白は、血管の弾力性の維持、血管壁への脂肪沈着の防止などの効果があると報告がある。周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ)に使用される山薬は乾燥品で薄片にしたものだ。生の山薬を使用してはならないことは言うまでも無い。
生地黄 干地黄は養陰清熱作用がある
地黄は加工過程により新鮮地黄 生地黄 干地黄 熟地黄になる。新鮮地黄は清熱涼血作用が強い。生地黄の清熱瀉火 滋陰潤燥の作用は知母の作用と類似するが、知母より清熱作用は弱い。熱邪に対しては必ず生地黄を入れたほうがいいとする中国漢方の伝統がある。地黄の根を乾燥させ、酒につけて蒸してつくるのが熟地黄である。熟地黄は手で触れると特有の粘りがあり、指が黒くなる。熟地黄に加工すると、生地黄にある、養陰清熱(消炎解熱)作用が消失し、補血作用が強くなる。
煎じ薬にしても薬酒にしても、熟地黄を配合すると、液が黒くなり、どろどろと粘りが生じるのが難点である。いわゆる「もたれ」である胃障害をひき起こすこともある。
枸杞子は長寿の元
甘 平 で肝 腎 肺の3経に入り、滋補肝腎、明目、潤肺に作用する。
枸杞子は古来より長寿をもたらす食品として尊ばれてきた。寧夏の枸杞子が有名で薬酒の「寧夏紅」も人気商品である。肝腎虧損、遺精不孕、肝気不足による視力減退などに使用される補陰食品である。成分中のベタインは脂肪の肝臓沈着を抑制し、肝硬化を予防するとされ、肝細胞を保護する。アルコール性肝炎が国民病になりつつある日本や中国ではますます重用されてくるだろう。動物実験では四塩化炭素によるマウスの肝臓脂肪変性作用を防止し肝機能を保護する作用が認められるほか、血中脂質や血糖を一定の効果で低下させる効能が確認されている。
枸杞子抽出物がインターロイキン2を介してリンパ球の腫瘍細胞壊死因子の生成を増加させることが報告されている。また、枸杞子から抽出された多糖類には、放射線によるマウスの骨髄抑制を防止し、白血球を増加させる働きがあることが最近の研究で示された。
枸杞子の薬性は滋?であることから胃腸障害のある場合に量を多くしないことが肝要だが、周公百歳酒(ジョウゴンバイソイジュウ)に使われている陳皮は滋?(ジニ=胃腸のもたれ)を改善する効果がある。枸杞を枸杞子と「子」をつけて呼ぶのにはわけがある。枸杞の「根」からは地骨皮という漢方薬が採取され、虚熱を除くのに利用されているからである。
亀板(きばん、グイバン)は漢方薬専門店で購入する。
亀板とは水亀(シュイグイ)の甲羅で、乾燥させ、破砕し、砕片の状態で使用する。亀の甲羅は現在では簡単に入手できない。細かく砕くのも容易ではない。したがって、中国の友人などから送ってもらうのがいいだろう。
甘、咸、寒で心 肝、腎の帰経であり、滋陰潜陽、益腎健骨、養血補心に働く。鼈甲(べっこう)との共通点は、共に補陰薬であり、平肝作用があり、肝風を抑え、潜陽作用があるために高血圧症などに有効とされる。
亀板は心、肝、腎、の3経に入るために、先天不足に対する補陰填精、
骨が弱い場合の益腎健骨に作用すると共に、不眠症にも有効な養血補心作用がある。
五味子(ゴミシ)は老人性のCOPDなど呼吸器疾患に効果がある
五味子が呼吸器疾患に使用される理由は、その斂肺益腎(補腎作用により腎の納気作用を強め、肺の気逆を押さえる作用)の効果にある。
五味子は独自の酸っぱい匂いがある。噛みしめると順に酸味、次第に独自の苦味、渋みを感じ、次に甘み、と少しの塩辛さを感じます。これらが五味子の名前の由来である。
古来より五味子と?梅には下痢を止める止瀉作用と、体の陰液を増やす生津作用のほかに、肺気逆を抑える斂肺作用があることが知られていた。また精液の漏れる遺精に効果があることも経験的に知られており、五味子の補腎作用の根拠になった。五味子の帰経は肺 心 腎の3経です。心経から由来する効能の特徴としては不眠症に有効な養心安神作用である。また、自汗や盗汗(寝汗)をとめる斂汗作用も有名だ。
いかがであろうか?3000年前の薬酒の漢方薬の配合の妙は驚嘆させられる。
材料さえ入手できれば誰にでも作れる薬酒である。
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