簡便に申し上げれば、尿道総合症(中国語では征を用いて尿道総合征と表記します)は、現代医学での無菌性膀胱炎、あるいは膀胱鏡検査と病理組織的検査を行い診断する間質性膀胱炎を含む、下腹部痛を主症状とする尿意切迫症候群を指す疾患群と理解できます。中医学的には原因(体質)別に各種の病因論がありますが、最も一般的な病因は「気陽虚」です。本日から5案にわたり、医案(症例報告)をご紹介します。<o:p></o:p>
患者:張某 42歳 女性<o:p></o:p>
初診年月日:2005年6月13日<o:p></o:p>
病歴:<o:p></o:p>
患者は20年前新婚時代に泌尿器感染症を起こし、尿血が出現したが、治療により快癒。十年前に特別な誘因無く頻尿が出現、頻回の発作があった。尿検査で異常なし。尿細菌培養検査も全て陰性、西洋医を受診し排尿調節剤(薬剤名不詳)を服用後、症状加重、下腹部疼痛、排尿痛、尿道に収縮感を伴い、腰酸痛も合併、眼瞼浮腫、排尿無力、尿が出にくく、時に点滴状になる。<o:p></o:p>
初診時所見:<o:p></o:p>
舌質淡紅、舌苔薄白、脈象虚数。(北京市での治療は無効で、北京協和病院では膀胱鏡の検査を提案したが、患者は同意せず、ハルピン受診、中薬は全て清熱利尿痛淋の剤であった。)自覚症状は同上。<o:p></o:p>
中医弁証:<o:p></o:p>
弁証は陽気不足“膀胱は州都の官、気化則出埃”。寒淋に属し、故に温陽化気、活血通淋の剤となる。<o:p></o:p>
西医診断:尿道総合症<o:p></o:p>
方薬:<o:p></o:p>
桂枝(通陽)15g 茴香(理気和胃 散寒止痛)(桂枝 茴香は協調して温補腎陽、行気利水に作用)15g 川椒(辛 温中燥湿)15g 附子(補火助陽 散寒止痛 回陽救逆)10g 澤瀉(利水滲湿 泄腎濁)20g 猪苓(利水滲湿)20g 茯苓(健脾利水)20g 白朮(健脾燥湿)15g 土茯苓(清熱解毒)30g 白芍(養営斂陰)30g 甘草20g 烏薬(温腎散寒 行気止痛)15g 桃仁(活血化瘀 潤腸通便)15g 丹参(活血化瘀)15g 水煎服用、1日1剤、2回に分服。<o:p></o:p>
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二診:2005年6月20日<o:p></o:p>
服薬7剤で、排尿困難、尿線の細さは好転、腰痛、下腹部下垂感減軽、下腹部の冷えも減軽。再診時体温37,2℃程度の発熱あり、腹部と右側のわき腹の張痛、会陰部の張痛時に大便がしたくなり、まだ頻尿が残存、舌質淡紅、苔白、脈象は緩に転じた。<o:p></o:p>
方薬:<o:p></o:p>
桂枝15g 茴香15g川椒15g 附子10g 橘核15 石葦(利水通淋、止咳 涼血止血)20g 茯苓30g 白朮15g 土茯苓30g 黄耆(益気)30g 甘草15g 川楝子(せんれんし 苦/寒 行気止痛)15g 桃仁15g 丹参20g 萹蓄(利水通淋)20g 瞿麦(活血利水通淋)20g 車前子(包煎)(清熱利水)30g 水煎服用、1日1剤、2回に分服。<o:p></o:p>
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三診:2005年7月13日。<o:p></o:p>
本人の受診は無かったが、本人の電話での病情説明では、服薬22剤で、排尿通暢、腰痛及び下腹部下垂感、尿道の収縮感が消失、発熱無し、腹部と右わき腹の張痛消失、会陰部張痛消失、全身有力、下腹部にまだ畏寒あり。<o:p></o:p>
方薬:<o:p></o:p>
桂枝15g 茴香15g川椒15g 附子10g 橘核15 石葦20g 茯苓30g 白朮15g 土茯苓30g 黄耆30g 甘草15g 川楝子15g 桃仁15g 丹参20g 萹蓄20g 瞿麦20g 車前子(包煎)30g 烏薬15g 王不留行(苦/平 おうふるぎょう 活血化瘀 通経 下乳)20g 水煎服用、1日1剤、2回に分服。<o:p></o:p>
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ドクター康仁の印象<o:p></o:p>
初診時の処方は、<o:p></o:p>
五苓散(通陽利水)に茴香 川椒 附子を加えて温陽利水、桃仁 丹参 烏薬で活血行気、芍薬と甘草の芍薬甘草湯で尿道の緊張や収縮を除くという配合です。<o:p></o:p>
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服薬7剤で、排尿困難、尿線の細さは好転、腰痛、下腹部下垂感減軽、下腹部の冷えも減軽したのは温薬の配伍と芍薬甘草湯の効果です。芍薬甘草湯単独ではここまでの早期改善は無いでしょう。やはり通陽 桂枝茴香、温腎助陽 附子 温腎行気止痛の烏薬等の温薬の配伍があってこその治療効果です。見事ですね。<o:p></o:p>
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「腹部と右側のわき腹の張痛、会陰部の張痛、頻尿が残存」に対して、温薬の理気薬の橘核、寒薬の理気薬の川楝子で寒熱のバランスを取り、行気止痛をはかり、頻尿に対する対症療法として車前子、瞿麦、萹蓄等の利水通淋剤を加味した流れです。寒薬を増やさない目的で、清熱解毒薬でも平の性質を持つ土茯苓が用いられていますね。いわゆる排尿無力に対しては微温の黄耆が用いられています。<o:p></o:p>
王不留行の平薬の活血剤にも工夫が感じられます。<o:p></o:p>
どうしても、涼寒の利尿通淋剤と苦寒の清熱解毒薬の使用が習慣になってしまっている漢方医にとってはコペルニクス的展開に思えたでしょうね。<o:p></o:p>
無菌性膀胱炎、間質性膀胱炎治療ヒントのひとつになる医案であると思います。<o:p></o:p>
弁証の温腎助陽、理気活血と弁病の芍薬甘草湯の収縮を緩和する併用による見事な症例でした。<o:p></o:p>
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2014年5月24日(土)<o:p></o:p>
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