五行思想では青、赤、黄、白、黒の五色を、それぞれ木火土金水、肝心脾肺腎と対応させを五正色とし、紫は五間色に位置し、漢方の世界では、舌象の青紫舌が「寒凝血瘀」を示すとされ「瘀血」と関係があります。
身分、官位、宗教上の「紫の位置」について私は知りません。恥ずかしい話、油絵を趣味にしているものの、バイオレットとパープルの日本名を知らないのです。調べようとも思いませんでした。現在も思いません。何しろ暑くて意欲が湧かないのです。
個人的には、昭和の感想に繋がる「桃屋」の「江戸むらさき」にはお世話になりました。食欲のない時でも「江戸紫」をのせた白メシは食えたものでした。画報の世界では、歌舞伎の助六の江戸紫の鉢巻の紫、天然色の活動の世界では、お殿様が病気で臥せると紫の鉢巻をして、御殿医や侍女の介護を受けているという「時代劇」は小児期の視覚体験です。
何しろ、赤紫蘇は実家の周辺には自生していましたし、梅干(梅漬け)の紫蘇は主(ぬし)の如く、食卓の中央に鎮座していたのですから、下宿するようになって、つまり医学生になって初めて「ゆかり」という商品を手にした時には、一種の「意外性」を感じました。
刺身の大根のツマの上の青紫蘇(大葉)を珍しげに食したのが18歳の時です。酒を大っぴらに飲むようになって、鯵のたたき、ヌタには欠かせないと後天的味覚の充実となりましたが、沖縄の大葉の大きさと硬さには驚きました。
本日の漢方市民講座「紫が付く漢方薬」
紫蘇葉(しそよう)
単に蘇葉、紫蘇ともいうが、赤紫蘇の葉である。根の蘇梗(そこう)
実の蘇子(そし)もついでに覚えておくと簡単です。
辛/温 帰経は肺 脾(胃) 効能は発表散寒 行気寛中 解魚解蟹 行気安胎
発表散寒(発汗作用は無い) 行気寛中(中焦を寛くして食欲を亢進させる)中焦の気滞に効くと覚えます。
紫蘇の葉は他の生薬の炮制にもよく使います。例えば、発汗解表の温薬である麻黄を紫蘇と一緒に発酵させると温性が減弱して微温になります。
生姜、紫蘇と炮制した四川省産の厚朴(川朴)が有名です。
解魚蟹毒(魚やカニの生臭さをうがいや手洗いで消す)(魚や蟹を食べる前に紫蘇を煎じて飲む。)煎じる時間は10分程度、それ以上煎じると効き目が落ちます。
行気安胎作用があります:安胎作用とは気滞を改善し妊娠を上手く継続させ胎児に良い影響を与えるという意味であり、古来から、行気安胎には紫蘇、清熱安胎には黄芩、補腎安胎には桑寄生、杜仲がよいとされています。腎内科では慢性腎不全に紫蘇15gは定番のようでした。慢性腎炎の蛋白尿の強いものに紫蘇を使用する傾向があったような気がします。
蘇梗(そこう)
効能:寛胸利膈、順気安胎
胸が苦しい、胎動不安、腹肋脹痛などの症候に用います。
香附子、陳皮を配合することが常のようです。
蘇子(そし)
止咳平咳薬に分類される。帰経は肺、大腸と裏表の腑と臓になります。
下気(降気)消痰、止咳平喘、寛腸潤燥に作用します。
三子養親湯(さんしようしんとう)
親孝行を思わせるネーミングの方剤があります。中気が弱って運化が失調し、停食、生湿により痰が生じ、痰壅気滞のために肺が粛降できなくなって喘咳が起きた状態に用います。白芥子 莱菔子 蘇子の三子からなります。
蘇子降気湯(そしこうきとう)という方剤もあります。
肺気逆症治療剤です。同じく肺気逆症の治療剤である白果定喘湯と比較すると、以下のスライドのようになります。
スライド
なお、蘇子には潤腸通便の作用もあります。以前の記事もご参照ください。
http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat6868391/
紫萍(しひょう) 浮萍(ふひょう)
それぞれ中国語でジーピン フーピンです。帰経は肺 膀胱とする説もあれば、肝 膀胱とする清書もあります。辛/寒、功能は発汗解表 利水消腫 祛風止痒です。ウキクサ科のウキクサ Lemna polyrrhiza L.の全草で水面に接している葉の裏が紫色のものです。
発汗解表については、麻黄と同程度の発汗作用があります。
利水消腫作用は皮膚病の浮腫に対して効果があるとされます。
祛風止痒は皮膚病の止痒目的に使用されます。
夏の日光性皮膚炎には一番効果があるといわれています。
肝疾患の皮膚掻痒に対して。緑豆衣15、浮萍15白僵蚕15 蝉衣9 大棗5枚
葶藶子7gの処方を目にしたことがあります。
紫草(しそう)
紫草根、紫根も同じです。清熱涼血薬に分類されます。帰経は心肝、清熱涼血 解毒透疹 活血行瘀 祛瘀止痛に作用します。
上海時代には、肝内科で、清熱涼血薬の組み合わせで玄参、紫草各30gの処方を特に、原発性胆汁性肝硬変の症例で目にしました。
紫根エキスは皮膚病に外用すると効果があります。
似たような名称で紫草茸