
F104が、こんなに物静かに休ろうているのを見るのははじめてだ。いつもその飛翔の姿に、私はあこがれの目を放った。あの鋭角、あの神速、F104は、それを目にするや否や、たちまち青空をつんざいて消えるのだった。
日常的なもの、地上的なものに、この瞬間から完全に決別し、何らそれらに煩わされぬ世界へ出発するというこの喜びは、市民生活を運搬するにすぎない旅客機の出発時とは比較にならぬ。

何と強く私はこれを求め、なんと熱烈にこの瞬間を待ったことだろう。私のうしろには既知だけがあり、私の前には未知だけがある。ごく薄い剃刀の刃のようなこの瞬間、そういう瞬間が成就されることを、しかもできるだけ純粋厳密な条件下にそういう瞬間を招来することを、私は何と待ちこがれたことだろう。
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