三昧日記

小心者川筋男の後悔日誌

計算尺のπ切断ずらし尺の使い方(除算篇)考察

2024-09-16 07:27:50 | 日記
計算尺による乗除計算などで目外れが起こった場合,「ずらし尺」を使えばそのまま継続して計算できる。ただし,不注意に使うと誤った結果になる。ずらし尺には√10切断とπ切断の2種類があって,前者の場合は問題ないが,後者の場合に問題が生ずることがあるのである。

手元にあるいくつかの説明書を調べたが,問題の生じない例題だけを取り上げており,この問題に正面から取り組んでいない。ただし,1冊のみある操作の説明で,π切断の場合はできないという注意書きがあった。しかし,これだけでは不充分で,安心してずらし尺を使えない。そこで,自分なりに「どのような場合に問題が生ずるのか」理論的に調べてみた。

2022年11月15日に乗算の場合に関する記事を投稿した。その記事の中で「除算も同様」と述べた。本当にそうか?今回これを検証したので紹介する。

1.尺度方程式
計算尺にはいろんな尺が用意されているが,今回対象とするのは,
DF [ CF, CIF] D
の尺である。[ ] 内の尺は中尺(滑尺)。それぞれの尺の左基線から目盛xまでの距離(長さ)Lは以下の各方程式で表される。ただし,ずらし尺(DF, CF, CIF)はπ切断に限る。μは尺度係数と呼ばれ,尺の全長を表す。

CF尺,DF尺: L = μ(logx-logπ)
CIF尺:    L = μ{log(10/π)-logx}
D尺:     L = μlogx

注.
CIF尺はC尺の目盛を左右反転させて
L=μ(1—logx)
の基線(=1)をCF尺の目盛1に一致させたものである。つまり,
  L=μ(logπ—log1)=μlogπ
だけ左にずらす(引く)ことになる。
  L=μ(1—logx)—μlogπ
   =μ(log10—logx—logπ)
   =μ{log(10/π)—logx}
CF, DF尺の両端の目盛はπであるが,CIF尺の両端の目盛はπでないことに注意。(10/π≒3.18である。)
これに対して,√10切断ではCIF, CF, DF尺すべて両端の目盛は√10である。

2.計算手順の場合分け
ずらし尺を使った除算の手順をつぎのとおり4パタンに分ける。

P1. D÷CF→DF(基線解法)
P2. D÷CIF→DF(カーソル解法)
P3. DF÷CF→D(基線解法)
P4. DF÷CIF→D(カーソル解法)

ここで基線解法というのは,たとえばP1の場合,カーソルをD尺の被除数xに合わせ,そのカーソル線にCF尺の除数yに合わせて中尺基線に一致するDF尺の値を商zとする操作法である。

一方,カーソル解法というのは,たとえばP2の場合,D尺の被除数xに中尺の基線を合わせ,カーソル線をCIF尺の除数yに合わせてカーソル線の下のDF尺の値を商zとする操作方法である。

3.尺度方程式による検証
P1. L(DF) = L(D) — L(CF) から
μ(logz-logπ)=μlogx—μ(logy—logπ)
logz-logπ= logx—logy+logπ
logz=logx—logy+2logπ
= logx—logy+log(π^2)
=log{(xπ^2)/y},
ただし,ここでπ^2はπの2乗のことである。
真数のみを取り出せば
z = (x/y)×π^2
となり,本来の商にπ^2がかかっている。よって,正しい答えは得られない。

P2. L(DF) = L(D)—{L-L(DIF)}から,(以下,
μ=1として数式を簡素にする)
logz-logπ=logx-{1-(log10/π-logy)}
= logx-1+log10-logπ-logy
log10 = 1であるから
logz = logx-logy
  =log(x/y)
真数で考えると
z = x/y
となり,正しい答が得られる。

P3. L(D) = L(DF) — L(CF)から
logz = logx-logπ-logy+logπ
= log(x/y)
真数で考えると,
  z=x/y
となり,正しい答えが得られる。

P4. L(D) = L(DF)—{L-L(CIF)}から,
logz = logx—logπ—{1-log(10/π) + logy}
=logx-logπ—1+log10—logπ—logy
= log{(x/y)/π^2}
真数で考えると
  z=(x/y)/π^2
となり,正しい答えは得られない。

4.結論
         手順        結果
P1. D÷CF→DF(基線解法)    否
P2. D÷CIF→DF(カーソル解法) 正
P3. DF÷CF→D(基線解法)    正
P4. DF÷CIF→D(カーソル解法) 否
D尺に対してはカーソル解法,DF尺に対しては基線解法の場合のみ正解が得られる。これは乗算のときと同じである。

通常の計算はC尺とD尺との間で行われる。このとき目外れ(カーソルを動かす先が固定尺の外に出ている状態,つまりカーソルを合わせられない)が生じたときにずらし尺を使うことに限定すれば問題ない。また,ずらし尺を使ったらすぐまたずらし尺を使って元(D尺)に戻すことが肝要。
計算尺をお持ちの方は現物で確かめながらお読みいただけたら,と思う。


実はこのことはずらし尺の特長を生かしきれていない。機能の半分を捨てているような気がする。
と言うのは,(目外れでなくても)ずらし尺を使えば中尺やカーソルの移動量を減らすことができるからである。ただし,これは√10切断の場合に限られる。
π切断ではπを含む計算に便利だということで技術計算用の計算尺は(すべてそうであるかは知らないが)π切断である。しかし,π切断でなくても掛けるか割るかの手順が1回増えるだけではないか?わたしは電気屋だから計算式に2πというのがよくあらわれる。しかし,これなど6.28と暗記しているので計算不要。それより√10切断にしてずらし尺を何の心配もなく使いたい。

参考文献
① ヘンミサークル:「計算尺ハンドブック」,ヘンミ計算尺(株),1962
② 金田数正:「便利なCF・DFによる計算尺の使い方」,内田老鶴圃新社,1964
③ リコー計算器(株):「リコー計算尺ポケット解説書」,リコー計算器(株),1960?
④ ヘンミ計算尺(株):「ヘンミ計算尺使用説明書」,ヘンミ計算尺(株),1963?
以上(2024-9-16敬老の日)

目覚まし時計を修理すること

2024-09-15 05:07:28 | 日記
知人から目覚まし時計の修理を頼まれました。

なかなか綺麗な時計です。しかし,よく見ると錆や傷,汚れなどが認められ,長年働いてきた年輪を感じます。

シチズン製ですね。型式などはわかりませんが,背面にNO.51060とあります。
同じく背面に「創立30周年」と書かれています。創立がいつだったか正確にはわかりませんが,(インターネットで調べた結果)1940年だったとすればその30年後は1970年。その頃の時計なのでしょうね。金属製の外装がプラスティックのものに置き換えられつつあった時期にあたります。

1970年と言えば,日本が初めて人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功した年でもありますね。国際標識は「1970ー11A」でした。1970年に11番目に打ち上げられ,軌道分類はAと言う意味です。今でも覚えています。人工衛星を自力で打ち上げた4番目の国でした。つまり,ソ連ー米国ーフランスー日本です。ところが,もう随分以前にある中国人(大学の副教授)にこのことを話したところ,かれは「4番目は中国」と言い張りました。たしかに同時期に中国が人工衛星を打ち上げた記憶はありますが,わずかに日本の方が早かったはずです。歴史認識とは難しいものです。

歴史認識の難しさと言えばつぎのようなこともありました。
1980年代韓国の中央博物館に行ったとき,唐の壁画の模写か写真が展示されていました。その絵は唐の役人3人と外国からの使節3人が描かれていました。その外国からの使節は北方から来た人,西域から来た人と東の方の国から来た人のようです。前2者はその風貌・衣服から明瞭です。問題は最後の人。何とそこには「朝鮮からの使節」だと書かれていました。
実はことき以前にこの壁画をわたしは北九州市立美術館の開館記念講演で見たことがありました。そのときの館長の解説では件の人物は日本人で遣唐使であろうとのことでした。
歴史上の人物でも国によって全く認識が異なることをこのとき思い知らされました。

脱線してしまいました。
背面です。つまみ類などすべてそろっています。

さて,その症状ですが,まったく動きません。ゼンマイは一杯に巻き上げられています。振っても音がしませんので部品が外れているのではないようです。

では,中身を検めましょう。
裏側からねじを4本はずしてプラスティックケースを二つに割ります。時刻合わせのつまみの固定ねじは逆ねじなので要注意です。

ほこりなどなく(当然少しはありますが,)綺麗な状態です。油切れかな?と思いながら側面から周囲を見回すと,

あ!これはいけません。テンプが転がっています。テンプにつながっているひげゼンマイは斜めに伸びています。このひげゼンマイが傷んでなければいいのですが。とにかくテンプとひげゼンマイを引っ張り出して元の位置に納めなければなりません。
ピンセットでつまんで引っ張りますが,どうしてどうしてびくともしません。どうりで振っても音がしなかった訳だ。ピンセットをラジオペンチに持ち替えてひげゼンマイを傷めないよう注意しながら引き出すことに成功。上下の軸受けに納めますが,これがなかなか大変。
まあ,それでも何度か挑戦した結果元の鞘に収まりました。


すぐに動き出すと思いきや,動きません。そうです。油切れです。
すべての歯車の軸受け部分に注油するとコチコチと小気味よい音で動き始めました。
以上

栗拾い

2024-09-13 05:00:12 | 日記
9月になってもいつまでも暑いですね。しかし,季節は確実に進んでいます。

きのう糟糠(の妻)とふたりで栗拾いに出かけました。場所は北九州市の田園地帯の山際。
――ありました。舗装道路の上に栗がたくさん落ちています。

およそ30分ほどの収集活動でした。

ざる一杯採れました。
さあ,栗ご飯にするか?湯がいていただくか?

それにしてもなかなか店頭に柿が並びません。まあ,有名な柿はいくつか出ていますが。わたしの欲しいのは有名ではない柿です。見かけのあまり良くない柿です。
農協の直売所や道の駅を通るたびに確認しています。
以上

戦前の HEMMI 製計算尺のこと

2024-09-09 16:23:59 | 日記
インターネットで計算尺の記事を読んでいたら,HEMMI(ヘンミ=逸見)製の戦前の計算尺には "SUN" と引用符が付けられていることがわかりました。つまり,戦後のものは引用符なしの SUN ということ。

そこで,わが家の計算尺を検めたところ2本ありました。

上の写真のとおり,カーソルがその後の形と大きく異なっています。判読不可能でしょうが,ケースにも "SUN" と表示されています。

カーソル部分を拡大しました。


上の写真いずれも "SUN" と刻印されています。お分かりいただけるでしょうか?

ところで,この2本の計算尺,型番など不明ですが,どうも電気用のようです。と言うのは,Volt とか Motor などといった単語が彫り込まれているからです。しかし,尺としては自然対数(LL尺)以外はごく基本的な尺しか備えていないようです。まあ,普通はこれで充分ですけど。
以上

電鍵を改造

2024-09-06 16:35:35 | 日記
電鍵(でんけん)とは一般の人には馴染みのない言葉でしょう。もっとも,わたしのブログを長くお読みの方はご存知かと思います。英語では telegraph key だとか。Electric key とか electronic key とかは言わないのですね。Electronic key は今日では電子錠になってしまいますか?全く別物ですね。

さて,その電鍵を改造した話です。

まず,その電鍵の外観をご覧ください。

SATO と浮彫されています。サトーパーツでしょうね。

改造というのはブザーを内蔵してこの電鍵単独で音が出るようにしたことです。もちろん,そのためには電源としての電池が必要です。この電鍵の台座はモールド製で,内部が「空っぽ」です。それに目を付けた次第です。

改造の細かい話は抜きにして台座の裏側をご覧ください。もちろん改造後のものです。

一番下に電池が見えます。006Pという9Vの電池です。電池ホルダーは不要です。奥行きがぴったりなのです。蓋を閉めたら固定されます。

ブザーは白丸で囲まれたところです。定格電圧は(多分)3Vなので直列に220Ωをつないで印加電圧を調整しています。
ブザーのすぐ上に白の長方形で囲まれた部分にはリレーがあります。実は,電鍵のつまみを押すと接点が閉じますが,それでリレーとブザーを駆動し,そのリレーの接点を電鍵の出力としているのです。
しかし,ブザーの音が邪魔になることもあります。そのときは上の写真の白楕円の中にあるスライドスイッチで切り替えます。これは電鍵本来の接点出力をそのまま出力するものです。同時にブザー回路が切り離されますので音は出なくなるという仕組みです。

参考までに底面の様子です。

2mm厚のアルミ板を使いました。3本のゴム足とスライドスイッチのレバーしか見えません。

ブザーの音はかなり周波数が高く(2~3kHz?),耳障りです。本来なら800Hz程度がいいのですが,そのようなブザーは見当たりませんでした。電子回路で組むことも考えましたが,複雑になるので今回はやめました。

さあ,これで電鍵単独でモールスの練習ができます。また,サイドトーンのない送信機でもモールス符号を送りやすくなります。
以上