村上春樹がかつて受賞した群像新人文学賞の、現在の選考委員メンバー、というつながり。
食事にたとえると、ふにゃふにゃした食感で、「あれ?あたし何食べてるんだろ?」という感じ。
何かメッセージ性があるとすれば、老人になるためには、どんな自分でも受け入れて生きていくしかない、
そういうことかもしれない。
登場人物は多くないが、私はどの人物にも感情移入できなかった。
その最たるは主人公、知寿。
まず人の物を勝手に盗んでくるクセがあることを、自分は手癖が悪いと表現し、
気付かない相手に腹が立つ、と言う。
彼女にとってどんなくだらないものだとしても、窃盗だ。
盗まれる心境を察することはできても、逆はできない。
それを物語の主人公のキャラとして設定するならば、もっと覚悟を持って、意味を持たせてほしい、
と願ってしまう。
盗み、と言うと思い出すのが、ヘルマン・ヘッセの「少年の日の思い出」だ。
あの歯ぎしりしたくなるような情感がこの作品にはどこにもない。
日常の感じ方が丁寧に表現されているだけに、ふっと世界に入り込めそうになるのだが、
同時に冷めてしまう何かが落っこちていて無視できない。
吟子のキャラ、周辺もあいまいだ。
ああ、なんかモヤモヤする!