馬場あき子旅の歌42(11年8月)【キャラバンサライにて】『飛種』(1996年刊)P141
参加者:N・I、崎尾廣子、T・S、曽我亮子、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:渡部慧子
司会とまとめ:鹿取 未放
313 アナトリアの大地に砂の鳴る夜は冬近い駱駝の瘤も緊りて
(まとめ)
冬近い沙漠は嵐がひどくなるのであろうか。そんな厳しい砂嵐に備えるように駱駝の瘤は緊っていると歌う。そのような説明を受けたのかもしれないが、アナトリアという雄大な名がゆったりとして歌柄を大きくしている。(鹿取)
(レポート)
「アナトリア」とは小アジアの別名。太陽が昇ることを意味し、ビザンチン帝国以来使われている。さて一首中「冬近い」にまず注目したい。これが「アナトリアの大地に砂の鳴る夜は」と「駱駝の瘤も緊りて」の前後に掛かっており、その結果、「大地」「砂」「夜」「駱駝の瘤」すべての名詞が一つに繋がっている。また「アナトリアの大地」の自然現象から「駱駝の瘤」への小さなものへの絞り込みも見逃せない。同時にそれを大きなものに翻弄されてしまわない作者の強さとして
「瘤も緊りて」と読みたい。思えば砂に舞い上がり、風に涼され、ある時は鳴る砂も生きていて、そこのところを「アナトリアの大地に砂の鳴る夜は」と詠い起こす様は、作者はまるで砂と共に暮らす人のように言葉がしっくりしている。(慧子)