かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠293(トルコ)

2016年05月04日 | 短歌一首鑑賞

 馬場あき子旅の歌39(11年5月) 【遊光】『飛種』(1996年刊)P129
     参加者:K・I、崎尾廣子、佐々木実之、曽我亮子、H・T、鹿取未放
      レポーター:崎尾 廣子
     司会とまとめ:鹿取 未放

293 転向の心はいかなる時に湧くや地下都市低く暗く下りゆく

     (まとめ)
 迫害を受けたキリスト教徒達はあくまでも信仰を守るために地下都市を造って隠れ住んだ。しかし、長期間不自由な生活を強いられたり様々な条件から、ある人にふっと転向の心が忍び寄ってきたとしても不思議ではない。暗い地下都市を下りながら、作者はそんなことを考えたのだろう。2、3句の8、6音という字余りがそんな心のたゆたいを表現しているようだ。
 私はふっと太平洋戦争末期、沖縄のガマに暮らした民衆達のことが心をかすめた。遣欧使節団の帰国後のそれぞれの末路を勉強したことも思い出した。(鹿取)
 

       (レポート)
 地下都市を下へ下へと下り暗さも深まっていくなかで転向の心を思っている。地下深く暗い地に身を置いた修道士らの信仰心は深まっていくばかりであったであろう、と想像する。「転向の心はいかなる時に湧くや」と詠っている。だがおそらく転向した修道士はいなかったはずであると作者は思ったのだと解釈したい。「低く暗く下りゆく」と詠ったその言葉がそれを語っていると思う。そこでの暗さは作者の胸にしみ入ったことであろう。(崎尾)
     ×××
 カッパドキアの景観は数百万年前に噴火した火山が生みの親である。初期キリスト教時代の1世紀から4世紀にかけて、彼等はこの地に入ってきた。そして彼等の掘った洞窟修道院・聖堂の数はカッパドキア全体で1000を超えるといわれている。
(大村幸弘『カッパドキア トルコ洞窟修道院と地下都市』集英社)


      (意見)
★転向の心が湧くから、次のクオ・ヴァディス・ドミネの歌に繋がっていくんだと思います。
  (鹿取)