馬場あき子旅の歌42(11年8月)【キャラバンサライにて】『飛種』(1996年刊)P140
参加者:N・I、崎尾廣子、T・S、曽我亮子、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:渡部慧子
司会とまとめ:鹿取 未放
311 キャラバンサライの廃墟に胡桃の木ぞ立てる机を置きて眠る人あり
(まとめ)
胡桃の木の存在感が係り結びとなって強調されている。レポーターのいう助動詞「り」の文法上の意味は完了である。おそらくその木陰であろう、机を置いて眠っている人があるという下の句の具体がリアリティをもっている。長い長い歴史を負ったキャラバンサライを読者にくっきりと立ち上げて見せている。(鹿取)
(レポート)
廃墟となってもキャラバンサライのその後を胡桃の木はながく生きていて、まさしく「胡桃の木ぞ立てる」であり、強調の「ぞ」とそれを受けて助動詞〈り〉の連体形〈る〉である。そこにおそらく縁台のような机をおきて「眠る人あり」なのだ。彫りの深い風貌の西アジアの人が暑さを避けて物憂げに大樹の下にいる写真などを思い浮かべるが、「廃墟」を渡る風にのまれるように眠る人もいるであろう。活発な談論よりいかにも風景にふさわしい感じがする。わずかの眠りの間にキャラバンサライの栄枯盛衰を夢にみるのであろう。(慧子)