かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠303(トルコ)

2016年05月14日 | 短歌一首鑑賞

  馬場あき子旅の歌41(11年7月)【風の松の香】『飛種』(1996年刊)P136
    参加者:K・I、N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、H・T、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:H・T
    司会とまとめ:鹿取 未放

303 エフェソスのこの雄大な考古学さつと吹き過ぎ風の松の香

      (まとめ)
 302番歌の「風は崩壊を美しくする」というやや手放しの叙述に続いて、この歌も「雄大な考古学」とタブーのような概念語が用いられている。
 古代の商業都市エフェソスは、紀元前11世紀にイオニア人によって建設され、紀元前2世紀に共和制ローマの支配下に入り、アジア属州の首府とされたが、その後も古代ローマ帝国の東地中海交易の中心となって7世紀頃まで繁栄は続いたという。共和制ローマ最末期の紀元前33年にはマルクス・アントニウスがエジプトの女王クレオパトラと共に滞在したという伝説も残っている。人口は最盛時15万人、この地で数々の国際会議が開催された。かくして1400人収容の音楽堂、2万4千人収容の大劇場、12万冊の蔵書を誇った図書館など数知れない遺跡が残された。やがて土砂の堆積によって港の機能が失われたことや、アラブ人の進出によって経済システムが変化したことなどからエフェソスは衰退したそうだ。
 眼前に広がるその遺跡群を見て、作者は1万年を超える長い歴史と人々の営みに思いを馳せ、その「雄大な考古学」に圧倒されたのであろう。松の香を一瞬感じさせて過ぎていく風に作者は立ち尽くしていたのだ。ちなみに、松は北半球全域に分布しており、日本や東洋独特の風物ではない。(鹿取)


          (レポート)
 今、先生はエフェソスの古代都市の跡に立たれて、この古代ギリシャのポリス跡を発掘した考古学者達の苦労を偲ばれている。「雄大な考古学」とはこの都市跡を発掘した考古学者達の苦労をさしているのであろう。「エフェソス」とは、小アジアのエーゲ海岸にあった古代ギリシャのポリスで、イオニア人の植民地であった。「さつと吹き過ぎ風の松の香」エーゲ海岸にも松の木が生えていたのであろうか。「風の松の香」とは、何とも日本の海岸の状況を思い出す。(H・T)