脱ケミカルデイズ

身の周りの化学物質を減らそうというブログです。 

アレルギーの原因は衛生的すぎる環境

2012年05月07日 | 化学物質

ニュートン2012年6月号 衛生的すぎる環境でアレルギーが増加?

幼少期に腸内細薗がいることが重要であることが確かめられた。

近年、喘息などのアレルギー性疾患の子供が増えている。その原因の一つとして疑われているのが、衛生的すぎる環境だ。このたび、マウスを使った実験から、生まれた直後に腸内に細菌がすみつくことでアレルギー性の喘息や腸炎がおさえられるしくみが解明された。清潔さを追求してきた現代社会に警鐘をならす成果だ。

 1989年、イギリスのデイビッド・ストラチャン博士は、子供を対象としたかん大規模な調査を行い、衛生的すぎる環境で育つとアレルギー性疾患になりやすくなるという「衛生仮説」を唱えた。アレルギー性疾患とは、病原体から体を守る免疫システムが、病原体で異物を攻撃してしまうことによっておきる、花粉症や喘息といった病気の総称だ。日本でも、小児喘息がここ20年で約3倍になるなどアレルギー性疾患は増加している。しかし、衛生的すぎる環境により、アレルギー性疾患が増加するしくみは不明だった。

 

無菌ではアレルギー性疾患になりやすい

このたび、アメリカ、ハーバード大学のトーステン・オーザック博士らの研究により、衛生仮説を実証する結果が得られた。その成果は、アメリカの科学誌『Science』の電子版(3月22日)で発表された。細菌のいる通常の環境で育ったマウスでは、食物とともに細菌が体内に侵入し、腸内に細菌がすみつくようになる。博士らは、通常の環境で育った腸内細菌のいるマウスと、無菌状態で育った腸内細菌のいないマウスを用意し、アレルギー性疾患のなりやすさを調べた。すると、腸内細菌がいるマウスでは、アレルギー性の喘息とアレルギー性の腸炎になりにくかったという。

 

遺伝子のはたらきがかわっていた

なぜこのような結果になったのだろうか?博士らは、それぞれのマウスの肺や腸を詳細に調べた。すると、無菌で育ったマウスの肺や腸では、免疫細胞の一種である、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)が増加していた。このNTK細胞が出す物質はアレルギー性疾患の一因となることがわかっている。また、無菌で育ったマウスの肺や腸では、「CXCL16」というタンパク質が多くつくられていた。CXCL16は、NTK細胞を集めるための信号となるタンパク質である。この信号によってNTK細胞が集合し、増加していたわけだ。タンパク質のつくられる量は、遺伝子のはたらきに支配されている。そのため、CXCL16の増加の背景には遺伝子のはたらきの変化があるのだろう、博士らはそう考え遺伝子を調べた。すると、無菌で育ったマウスの肺と腸では、CXCL16をつくる遺伝子に「メチル化」が過剰におきていた。メチル化とは、遺伝子を構成するDNAの一部にメチル基がつくことをさす。これによりつくられるタンパク質の量が増えることがある。

 

生まれた直後に腸内細菌がすみつくことが重要

「衛生仮説では、子供のころの環境が重要だといわれています。この研究のポイントは、細菌にふれることの影響が、生まれた直後のマウスと大人のマウスでちがったことです」とアレルギーにくわしい理化学研究所の谷口克教授は語る。オーザック博士らは、無菌で生まれた直後に通常のマウスの腸内細菌を移植したマウスと、無菌で育て、大人になってから腸内細菌を移植したマウスを比較した。すると、生まれた直後に腸内細菌を移植したマウスでは、DNAの過剰なメチル化がおきず、通常のマウスと同様にアレルギー性疾患になりにくかった。しかし、大人になってからでは腸内細菌移植の効果はみられなかった。今後は、なぜ細菌のいる環境ではこのような遺伝子のはたらきの変化がみられるのか、なぜ生まれた直後のみ効果があるのかといった点の解明が望まれる。(担当:編集部向井伸生)

協カ 谷口克理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター長