朝日新聞2013年4月24日
農薬選び 赤トンポ救え 福井で始動「共生」プロジェクト
(前略)
田園地帯が広がる福井県北東部の勝山市。赤トンボが舞う空を「日本の原風景」と位置づけ、保全活動を進めている。同市環境保全推進コーディネーターの前園泰徳さんらが調査をしたところ、一シーズンに水田1ヘクタールあたり平均2万4千匹、市内全体では3千万~6千万匹の赤トンボが羽化するとの推計結果が出た。
同市は2011年、「赤とんぼと共に生きるプロジェクト」を始めた。市民ボランティアによる生態調査のほか、赤トンボの幼虫(ヤゴ)が生育しやすいよう、水田に水を張る期間を増やすよう農家に働きかけている。
赤トンボの生態を調べている石川県立大の上田哲行教授(動物生態学)は「赤トンボは近年全国的に減少傾向がみられるが、勝山市では他地域に比べ、滅り方が少ない」と指摘する。なぜか。上田教授は、原因のひとつが、同市の農家が「フィプロニル」や「イミダクロプリド」という成分を合む農薬を使っていなかったことにあるとみている。
同市は11年7月、上田教授と一緒に、勝山市などを管轄するJAテラル越前に対し、今後も赤トンボに影響の少ない農薬を使用するよう協力を要請、理解を求めた。
福井県内では、赤トンボを守る勝山市に同調する動きも出始めた。越前市などを管轄するJA越前たけふも4月以降、これまで使用していた農薬を切り替える方針だ。
(略)
こうした生息環境の悪化に加え、一部の農薬が追い打ちをかけていることが分かってきた。
国立環境研究所の五箇公一・主席研究員らが注目するのは、稲作に使われる「箱処理剤」だ。箱処理とは、稲の苗に薬を浸透させてから田植えをする手法をいう。これにより、田植え後に農薬を散布しなくても、ウンカなどの害虫の発生を抑えられる。
1996年に農薬登録されたフェニルピラゾール系の「フィプロニル」や、92年に農薬登録されたネオニコチノイド系の「イミダクロプリド」は、いずれも水稲の箱処理剤として西日本を中心に広く普及している。
(略)
国環研のチームは、研究所内にある水田でフィプロニルやイミダクロプリドを使う実験を10年から12年にかけて行った。その結果、どちらの農薬も、農薬使用の年を重ねるにつれて、水田の土壌内に薬剤の蓄積が進む傾向がみられた。
特にフィプロニルについては、田植え前の代かき作業によって、土壌中に残留した農薬がかき混ぜられ、土壌の表面を歩き回るヤゴ類が暴露しやすいと考えられるという。
国環研のチームは、代表的な赤トンボ類の一種「アキアカネ」のヤゴを使った室内での飼育実験で、フィプロニルの毒性を調べた。その結果、2齢幼虫のヤゴに比べて、3~4齢幼虫への影響が特に大きく、0・001ppmの濃度で48時間後の死亡率が8~9割にのぼることを突き止めた。また、フィプロニルを使った苗を水田に植えると、水中の濃度は最高で0・003ppmと、この実験条件の3倍に達することも分かった。
(後略)
(小堀龍之、山本智之)