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田岡俊次・著“台湾有事 日本の選択”を読んで

この22日“日経平均が一時過去最高値>”を記録した。34年ぶりの記録だという。その背景に円安があるという。だが、それが円安によるものだとされれば、その意義は大きく薄れる。外人から見ればドル円換算で日経平均は見られるからだ。ドル円はかつて70円/ドル台だったことがあった。それが現在150円/ドルになっている。つまり、円の価値は半減しているのだ。とすれば過去の株価の倍以上でなければ、真の最高値とは言えないはずなのだ。
この日の市場開催前、ニュー・ヨークでエヌビディアが好決算を発表したので、それを好感して日経平均に好影響を与えた。つまりこの日の日経平均は22日朝には予測されていたのだ。
エヌビディアが上がれば、アームが上がるはず、アームが上がればソフトバンクGはつれ高になる、ソフトバンクGが上がれば日経平均も上がる、と。
円安でGDPも目減りしているのだ。

ナワリヌイ氏が死亡したという。極寒の地で暖房を切られたか。それとも一発殴られて、気絶したまま極寒に放置されて殺されたか。
それでロシア国民はどう反応するのか。
そしてウクライナはどうなるのか。欧米の支援が不十分なまま、ゼレンスキー政権も危ういようだが・・・。敗北すれば世界は悪魔の支配下になるのか。トランプ2.0も気懸り。



さて、近所の書店でブログに紹介するべき本を探していたら、田岡俊次氏の本が目に入った。田岡氏は64年早大政経卒、朝日新聞記者であり、下記著者等紹介に詳しいがWikipediaによれば“祖父は明治期の漢学者で民権運動家の田岡嶺雲、大叔父(嶺雲の兄)は三菱総理事の木村久寿弥太、父親が国際法学者で、元京都大学法学部長だった田岡良一。”と相当な家系の出身。湾岸戦争時に再び朝日新聞編集委員も兼ねるようになり、テレビ朝日の“朝まで生テレビ”に登場し、米軍の配置を掌を指すように詳しく説明し、居並ぶ出席者を驚かせ、何より司会の田原総一朗氏が仰天した、という。その後CS放送 朝日ニュースターにおいても解説委員、看板番組であったパックインジャーナルのレギュラー・コメンテーターなどを務めていて、的確な解説でこの放送が終わるまで当時は必ず見て当時の軍事知識を仕入れていた。現在はフリーの軍事ジャーナリスト。ネットでは“田岡元帥”というあだ名があったと言われている。
そんな田岡氏の近著なので、しかも要警戒の要警戒事項“台湾有事”にコメントしているとあれば、大いに気懸り、ということで読むことにした。本書の概要は紀伊国屋書店情報 によれば次の通り。

【出版社内容情報】 
台湾有事──本当の危機が迫っている。米中対立のリアル、思考停止する日本政府の実態、日本がこうむる人的・経済的損害の実相。選択を間違えたら日本は壊滅する。安保政策が歴史的大転換を遂げた今、老練の軍事ジャーナリストによる渾身の警告!

【内容説明】
中国と台湾の相互依存関係、大統領選直前の米大統領の選択、台湾有事の日本の人的・経済的損害、中国は武力統一に乗り出すのか?アメリカ、中国、台湾、日本のいずれにとっても百害あって一利もない戦争を避けるために経験豊富な軍事ジャーナリストが、防衛・外務官僚への取材と精緻なデータを基に日本がとるべき策を提言する。
【目次】
第1章 日本の参戦は条約と憲法に違反(日本もアメリカも「一つの中国」;アメリカも「異論を唱えない」;防衛省も外務省も説明できない;反乱軍を制圧するのは正当;矛盾だらけの「安保3文書」;抑止効果が疑わしいスタンド・オフ・ミサイル;サイバー防衛は必要だが)
第2章 現状維持が本音(中国の「反国家分裂法」は「現状維持法」;台湾と中国は親密な相互依存関係;台湾の「本省人」と「外省人」の関係;台湾住民の約9割は現状維持を望む;「次の脅威は日本」の論;「日本外相が核武装を宣言」と報道;「日本叩き」を想起させるアメリカの反中感情)
第3章 米中台の戦力の実相(兵糧攻めに弱い台湾;中国海軍よりも圧倒的に強力なアメリカ海軍;数で優位な中国の航空戦力;CSISの机上演習「日本は26隻沈没」;米中戦争はベトナム戦争どころではない;中国のGDPが増えて国防費も増えた;愚者相手では抑止は効かない)
第4章 つくられた危機(法と秩序―アメリカは守ったか;国連軽視、人権無視のイラク攻撃;同盟が生んだ世界大戦;戦争を引き起こす偽情報;権力者の思い込みを助長する情報機関;ホワイトハウスとキャピトルヒル―アメリカの2つの政府;慎重派が多いアメリカ陸軍;「台湾有事」で日本は破滅的損害)
第5章 「台湾有事」―アメリカはどう動くのか 特別対談 尾形聡彦×田岡俊次(アメリカが方向転換する可能性;アメリカの期待以上に忖度する日本;日本と中国の偶発的紛争の可能性;日本が全部やれ;脆弱な日本のインテリジェンス;ものが言える日本に)

【著者等紹介】田岡俊次[タオカシュンジ]
1941年京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当。74年米国ジョージタウン大学戦略国際問題研究所主任研究員、同大学外交学部講師。82年朝日新聞編集委員。86年ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員。99年筑波大学客員教授。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

著者は“まえがき”で次のように指摘していて面食らったのだ。
“アメリカで反中国強硬派の国会議員が台湾の独立派を煽り、それに乗った台湾の独立派が決起し、中国軍が内乱を平定しようとすれば、アメリカ軍が介入して大戦争になる恐れもあり、ロシアがウクライナで行っていることと同じことになる。もし、日本が参戦すればロシアに従うベラルーシ役を演じ、「日中共同声明」「日中平和友好条約」に違反し、条約の遵守を定めた「日本国憲法98条」にも違反する。”というのだ。
だがこの場合ウクライナとは事情が異なるのではないか。ロシアは国際的に認められたウクライナとの国境線を侵して傀儡を恣意的に作って策動した“特別軍事作戦”を展開し、事実上の国境侵犯をしての軍事侵略である。それに対して、中国は台湾の施政権を過去にも持ったことはない。だから中国軍が国境侵犯すれば、これは逆にウクライナを侵犯したロシアと同じことになるのではないか。この点田岡氏の指摘は当たらない。だが、後半の“(日本が無条件に参戦すれば)「日中共同声明」「日中平和友好条約」に違反し、条約の遵守を定めた「日本国憲法98条」にも違反する”には反論の余地はない。だから、日本には中国が台湾侵攻しても米軍と共同行動して参戦する余地は全くないのは事実だ。

だが、私が懸念するのは中国軍が台湾侵攻を決意したあかつきには、台湾に来援するはずの在日駐留米軍を事前に叩くだろうということ。つまり必ず、沖縄の駐留米軍を根こそぎ徹底的に叩くはずだということ。場合によっては核攻撃もありうると考えてよい。これは軍事的常識と思われる。そうなれば、沖縄の住民も巻き添えを食うのは必須であるということ。これが、日本が中国の台湾侵攻に参戦する理由になるはずだということ。

それにしても、“沖縄住民の巻き添え”対策をせず、米軍基地の建設に躍起になり、自衛隊の南西諸島方面の兵力強化ばかりに注力する日本政府の感覚を疑わざるを得ない。この点、この本では、これも一切無視しているのは気懸りなのだ。米軍基地周辺の沖縄住民への配慮となれば、シェルター建設は必要最低限のことではなかろうか。それがなされていないのは何故なのか?

話を戻そう。田岡氏は、日本が中国の台湾侵攻に無条件に参戦すれば“「日中共同声明」「日中平和友好条約」に違反し、条約の遵守を定めた「日本国憲法98条」にも違反する”という論をこの本の前半で展開している。それは分かった。
しかし、中国が台湾侵攻を決意すれば、事前に“沖縄を叩く”はずという軍事的常識を持ち出して、問題点を議論しないのはかなり意図的に感じてしまう。それも単に“沖縄を叩く”のではなく、殲滅に近い攻撃つまり核攻撃になると十分に想定できるのだ。中国にとって台湾を火の海にすれば、侵攻の意義が薄れるが、沖縄がそうなっても中国には利害がないので遠慮なく叩けるのだ。もしかして、それは触れてはならない問題なのだろうか。否、それこそ触れて議論するべきではないのだろうか。その議論が聞きたいのに大変残念なのである。

実際上の問題として、台湾侵攻には中国の海軍力が焦点になる。ところが、中国の空母には飛行機を射出するカタパルトがない。だから、多くの戦闘機を短時間に発艦させられないし、フル装備でも発艦させられないという指摘だ。“フル装備で発艦させられない”とは私も聞いていた情報だ。艦載機がフル・スペックを発揮できないのだ。だから中国の空母は存在するだけの“張り子のトラ”なのだ。1隻目、2隻目の空母“遼寧”、“山東”は怖くない。だが、3隻目“福建”は強力な電磁式カタパルトを装備する7.1万トンの大型で、これでようやく米海軍に対抗できるものが揃うが、数量で1隻では不足なのだ。通常年間定期点検に3カ月かかるので、3隻のワン・セットは必要とされるのに未だ及ばない。その上、米海軍には10万トン級の第一線空母が11隻あるので対抗戦力としては完全に不足だ。だからほぼ当面は中国による台湾侵攻は無理、と考えて良いのは確実ではあるまいか。
この記述の後、アメリカ防衛問題の有力シンクタンク“戦略国際問題研究所CSIS”の机上演習(コンピュータ・シミュレーション)結果を紹介したりして、もし戦わばの損害を示したりしてはいて、日本を含めて米側の損害数量を示してはいるが、この戦いの決め手は海軍力なので究極の結論には変わりがないだろう。中国軍の首脳が狂わない限り、台湾侵攻はないという事実上の結論を出していると見て良い。

巻末では、尾形聡彦*氏との対談を掲載している。ここでは指摘されている主要なことを挙げる。
そこでは、日米2+2の対話では台湾有事に関して、日本側の方が米側より前のめりになっているとの懸念を指摘している。ところが米側は中国側とのホット・ライン設置に躍起になっていて、戦争勃発の芽を防ごうとしていると言う。さらに日本側が島嶼防衛に注力しているのに対し、米側がそれと同じように海兵隊を運用するのに消極的な議論が巻き起こっているとも指摘している。これにベトナム戦争での米軍の自国優先の撤退をやった実績を挙げて、米側が変身する可能性にも言及している。また中国経済が悪化する懸念要素にも言及。
対米政策が小渕政権までは、米国の要求に対して“(平和)憲法がある”とある程度距離を取っていたのに、その後は日本がアメリカにしがみつく関係になっているとの指摘もある。
米国には反中的議論も多いがバイデン政権には中国と本当に戦争になったら困るということは良く分かっている。戦争に関してあらゆるシミュレーションをしている。ホワイトハウスは現実主義である。だが、対中強硬論でないと世論が納得しない。米議会は与野党ともに中国には厳しい姿勢で一致している。同時に、軍事的に有事にはきちんと即応しなければならないという意識も強い。そういったいろいろな要素が複合的に動いているが、日本ではその理解が全くないとの懸念も言っている。
日本の保守派が継戦続能力を言い始めているが、エネルギー自給や食糧自給が問題ではないか。台湾が取られると、そういった補給ラインが壊れるというが、原油1リットル当たり1円の上乗せ程度だ。それよりも、日本の港湾にミサイルを撃ち込まれると商船の入港が困難になり、経済への打撃が大きい。ところが米国は現地での戦闘に注力し本土に影響が及ばないようにするはずなので、台湾有事は日本に極めて不利となるとの指摘だ。
次に情報戦の指摘。米戦闘機F35の情報が中国の第5世代の戦闘機になっているらしいが、情報戦で日本がweakest linkになるのではないか。あるいは、第二次大戦中、米側への最大の情報提供者は、日本の駐独大使・大島浩陸軍中将だったという笑えない話がある。中将はヒトラーの信任厚く独軍の情報を逐一暗号文で東京へ送っていたと。(日本の外交電文は連合国側に完全に解読されていた。そこで鹿児島弁でやったとの笑い話もある。[筆者])
現在、駐日エマニエル大使が毎週、木原官房副長官と会談していて、そのメモが官邸と外務省の中を巡っていて、大使が岸田首相に指示している形になっているのではないかの指摘。
しかもITサービス事業で完全に出遅れていて、海外への出超が年間150億ドル(約兆円)規模になっている。米企業へのクラウドやサーバー代に支払われている。
日本は米国製の巡航ミサイル“トマホーク”を200発(400発・2113億円の報道有り[筆者])購入することを計画しているが、1970年代に米軍が採用した旧式で速度が遅いが、それを動かす頭脳、誘導システムが最新なので有効なのだ。しかし米側はそれを動かす誘導システムは売らないと言っているので、日本では効果的に飛ばせないのではないか。
日本の中国との戦争は、法律的にはできない、経済的には大打撃になる、台湾人の大多数は独立を望んでいない。従って、日本がアメリカの後についてやるのはアホらしい、という結論になっている。

しかし、先に言った中国側の先制攻撃の可能性には触れていない。中国側からの日本への先制攻撃があれば、ボロボロになりながら日本の世論は対中戦争に突入して行くはずなのだ。それが恐いことになるのであり大問題なのだが、生煮えの議論で終わっている。

*尾形聡彦(おがた としひこ)
オンラインメディアArc Timesの創業者兼CEO。1969年生まれ.慶応義塾大学卒。1993年,朝日新聞入社.米スタンフォード大客員研究員を経て、2002年から米サンノゼ特派員としてグーグルやマイクロソフトなど米IT企業を取材。08年にロンドン特派員、09年から12年までは米ワシントン特派員としてホワイトハウスを取材。15年から機動特派員としてホワイトハウス取材を再開.日本の財務省・政策キャップ,経済部デスク,国際報道部デスクも務めた。朝日新聞時代の署名記事は約2,700本で、経済系の記者として過去最多。2022年6月末に朝日新聞を退社し、同年7月にArc TimesのYouTubeチャンネルをスタートさせた。著書に『乱気流のホワイトハウス』(岩波書店)。
(出典:岩波書店、本書P.145)

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