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日本のユニークさの源泉・母性社会(1)

2017年02月16日 | 母性社会日本
このブログでは、日本文化を「日本文化のユニークさ8項目」にまとめて、様々に論じている。そのうち第二の項目、「(2)ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた」という特徴は、「母性社会日本」というカテゴリーのもとに論じている。

ところで、この「母性社会」という言葉については、ユング派の心理療法家・河合隼雄が、その著『母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)』で使用し、その視点から現代日本人の心のあり方を深く洞察している。ただこの本については参考図書に挙げたり、短く触れたことはあったが、これを中心にして論じたことはなぜかなかった。ここで一度、この本に沿ってじっくり考える必要があると思った。この本の最初に掲げれられている論文「母性社会日本の”永遠の少年”たち」を中心に見ていくことになる。

人間の心の中に働いている多くの対立する原理のうち、父性と母性という対立原理はとくに重要だと著者はいう。この相対立する原理のバランスの具合によって、その社会や文化の特性が出てくるのだ。心理療法家として登校拒否児や対人恐怖症の人々と多く接した著者は、それらの事例の背景に、母性社会という日本の特質が存在すると痛感したという。これらの事例は、自我の確立の問題にかかわり、それが日本の母性文化に根をもつということだ。

母性原理はすべてを「包含する」特性をもち、包み込まれたすべてが絶対的な平等性をもつ。子供の個性や能力に関係なく、わが子はすべて可愛いのだ。しかし母子一体という包み込む原理は、子供を産み育てる肯定的な面と同時に、呑み込み、しがみついて、時には死にさえ到らしめる否定的な面ももっている。

これに対し父性原理は「切断する」働きを特性とし、すべてを主体と客体、善と悪、上下などに分割する。子供をその能力や特質に応じて峻別する。強い子供を選んで鍛え上げようとする建設的な面があると同時に、切断の力が強すぎて破壊に到る面ももっている。

世界の様々な宗教、道徳、法律などは、この二つの原理がある程度融合して働いているが、どちらか一方が優勢で他方を抑圧している場合が多い。著者は心理療法家としての経験から、日本文化が母性的な傾向が強いと認識するに至ったという。

その事例として著者は、自分が扱った男性患者の夢を挙げているが、ここでは省略する。ただ面白かったのは、それに関連して著者が、親鸞が六角堂参籠の際にみた夢を紹介していることである。夢の中で救世観音は語った、「たとえ汝が女犯しようとも、私が女の身となって犯され、一生汝に仕え、臨終には導いて極楽に生まれさせよう」と。何という母性的な観音だろうか。女犯を徹底的に受け入れ、許し、そして救済する。行為の善悪は一切問題にされず、あるがままに救われるのだ。キリスト教が、父性原理の宗教という特性をもち、神との契約を守る選民こそ救済するが、そうでなければ厳しく罰するのとは大きな違いだ。

ここで、数日前に取り上げた、遠藤周作の『切支丹時代―殉教と棄教の歴史 』(「日キリシタンはキリスト教をどう変えたか)を思い起こしてほしい。かくれキリシタンたちがキリスト教を、自分たちに合う様な母性的なイメージの宗教に変えてしまったこと。そして仏教も日本では長い間に母性的な性格が強くなっていくこと。六角堂での親鸞の夢は、仏教が母性的な宗教の極地至ったことを象徴しているかのようではないか。

さて、著者はこのように日本の社会を母性的な特質が優位な社会と見るのであるが、現代日本の社会的な混乱は、人々が母性的・父性的どちらの倫理観に準拠すればよいか判断が下せぬことにあるのではないかという。というより、その混乱の原因を他にもとめて問題の本質を見失っているところにあるのではないかという。私自身は、母性社会日本のユニークさやその利点を充分に自覚し、その良さを世界にアピールしながら、同時に父性原理とのバランスをとっていくことが大切だとかんがえている。次回以降、さらに著者の論を追いながら、私の立場からの考察も深めたい。


《関連図書》
神話と日本人の心、河合隼雄、岩波書店
中空構造日本の深層 (中公文庫)、河合隼雄
「甘え」と日本人 (角川oneテーマ21)
続「甘え」の構造
聖書と「甘え」 (PHP新書)
日本文化論の系譜―『武士道』から『「甘え」の構造』まで (中公新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見

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