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宗教で争わない日本の良さ(1)

2015年02月12日 | 相対主義の国・日本
◆『無宗教こそ日本人の宗教である (角川oneテーマ21)』島田裕巳(2009年)

2015年1月7日に起こったフランス・パリでのシャルリー・エブド襲撃テロ事件や、続いて起こったISIL(いわゆる「イスラム国」)による日本人人質拘束事件は、日本人の宗教意識に微妙な影響を与えているかもしれない。これら以外でも、西アジアやヨーロッパで宗教にからむ事件や争いは頻発しており、これらが全体として日本人の宗教観に影響を与えている可能性がある。

2001年の同時多発テロをはじめ、その後も頻発し続けるテロの多くは、何かしら宗教を背景にもっている。宗教こそが、世界に対立や混乱を生み、平和の妨げになっているように見える。特定の宗教を熱心に信じるより、日本人のように「無宗教」でいる方が、はるかに価値があるのではないか。日本人は無意識にせよ、そう感じ始めていると著者はいう。では日本人にとって「無宗教」とは何を意味し、それはどんな経緯で形成されてきたのか。それを明らかにするのがこの本のテーマである。

この本に、日本人の宗教意識に関するかつての調査が紹介されている。オウム真理教の事件が起こった1995年以前、「あなたは、何か宗教を信じていますか」という問いに対し、全体のおよそ三分の一は信じていると答え、信じていないと答える人はおよそ三分の二だった。ところがオウム真理教の事件以降は、信仰率は20%台に落ち込んだという。2008年の読売新聞の調査では、何らかの宗教を「信じている」が26・1%、「信じていない」が71・9%で、以前に比べ信仰率が次第に低下している傾向があるかもしれないという。

いずれにせよ世界の平均と比べ、日本人の信仰率の低さは際立っている。2004年のイギリスBBCの調査によると、調査された世界11カ国で全体の9割近くが神を信じているという。ナイジェリア、インドネシア、レバノン、インド、メキシコ、アメリカ合衆国では9割を超え、イスラエルが8割、ロシア、韓国が7割、イギリスも7割近くが神を信じているという結果だ。これらを見ると、日本人の信仰率の低さは世界的に見て、例外的な現象だといえるだろう。

一方で日本人は、初詣や墓参りなどいわゆる宗教的な習俗にはきわめて熱心である。そんな状況を踏まえながらも著者はいう、日本人が「無宗教」であることに対して日本人自身のとらえ方が変化しているのではないか、と。日本人は、宗教について無節操で、寺も神社も参拝し、葬式は仏教、結婚式は神道、近年はキリスト教徒でもないのに教会で結婚式を挙げたりする。かつて、そんな無節操な「無宗教」性を日本人自身が自嘲する傾向があった。今もあるかもしれない。しかし一方で、日本人は近年「無宗教であることに誇りを感じるようになったのでないか」というのが著者の主張だ。

著者がここでいう「無宗教」は、日本人に宗教心や宗教的心性がないということではない。初詣などの宗教的行為(習俗)には多くの人々が参加する。それでいながら特定の宗教に固執して争いあうことはきわめて少ない。私は、そのような「無宗教」性の価値を日本人自身がしっかりと自覚し、むしろ世界に積極的に発信することが、いま重要になっていると思う。そうした視点も踏まえてこの本を紹介していきたい。

もちろんこの本のテーマは、本ブログの関心とも密接にからんでいる。例によって日本文化のユニークさ8項目で言えば、

(7)宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなく、また文化を統合する絶対的な理念への執着がうすかった。
(8)西欧の近代文明を大幅に受け入れて、非西欧社会で例外的に早く近代国家として発展しながら、西欧文明の根底にあるキリスト教は、ほとんど流入しなかった。

に深く関係し、

(4)大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した言語や文化の継続があった。
(5)大陸から適度な距離で隔てられた島国であり、外国に侵略された経験のない日本は、大陸の進んだ文明の負の面に直面せず、その良い面だけをひたすら崇拝し、吸収・消化することで、独自の文明を発達させることができた。

にも何かしら関係しているであろう。いやむしろ、8項目のほとんどが多かれ少なかれ日本人の「無宗教」に関係しているかもしれない。

これらの項目と島田氏の本の内容を関係させて考えながら、なぜ日本人はいま、日本人の「無宗教」の意味を世界にアピールする必要があるのか、この問いに迫ってみたい。

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《関連図書》
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)

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