近代西洋型快速帆船大研究 Vol.1 ZANA

2006年10月20日 | 風の旅人日乗
10月20日

今晩から、少し趣きを変え、何回かに分けて、KAZI(舵)2004年6月号、7月号と連載された、近代西洋型快速帆船大研究を紹介します。まずは、98フィート・レーシングヨットZANA〈ザナ〉の解説の前半から。(text by Compass3号)

近代西洋型快速帆船大研究
Vol.1 ZANA

文/西村一広
Text by Kazu Nishimura

世界のメジャーレースでトップ・フィニッシュし、過去の最速記録を塗り替えることを使命とする、全長86ft~100ftの大型レーシング・ヨットが次々と建造されている。
過去に存在した同サイズのレース艇に比べて圧倒的に速いこれらの艇には、最新の流体力学理論や、材料、構造が惜しみなく注ぎ込まれている。まさに時代の最先端を行くセーリング・モンスターである。
日本人セーラーには馴染みの薄いこれらの最新鋭セーリング・マシーンを紹介する。今月号ではニュージーランド最大の98フィート・レーシングヨット〈ザナ〉、来月号ではCBTF(カンティング・バラスト・ツイン・フォイル)を装備した話題のMaxZ86クラス〈パイワケット〉を詳しく見てみよう。

Boat name / ZANA,
LOA / 98 feet,
Owner / Stewart Thwaites,
Designer / Bakewell-White Yacht Design,
Builder / Hakes Marine,
Spars / Southern Spars,
Sails / Doyle Sails,
Deck equipments / Harken

Boat name / Pyewacket,
LOA / 86 feet,
Owner / Roy Disney,
Designer / Reichel/Pugh,
Builder / Cookson boats,
Spars / Hall Spars,
Sails / North Sails,
Deck equipments / Harken

クリッパーの血統を引き継ぐ者たち

1851年に初めてアメリカズカップが開催された頃、太平洋、大西洋、インド洋といった外洋でも、英国と米国の高速帆船によるスピード競争が盛んに行なわれていた。それは、中国の新茶、インドの胡椒、オーストラリアの金(きん)、羊毛といった貿易品をライバル社よりも早く運ぶための会社経営上の競争であったが、当事者たちにとってはそれだけが理由ではなかった。これら、“クリッパー”と呼ばれる高速帆船の競争には懸賞金が出され、賭けの対象としても民衆の大人気を博していた。また、米国と英国の両国民のライバル意識がぶつかりあう格好の場でもあった。両国を代表する船主や設計者は、経済的成功だけでなく、この競争に個人的プライドをも掛けていた。
船主たちは優秀な設計者を高額で雇い入れて高速船型を開発させた。設計者と造船所は軽くて頑丈な船体構造を研究し、乗員数を削るためにウインチなどの機械的な艤装品の開発にも積極的に取り組む。そうしてその時代の最先端技術が搭載された高速帆船が次々と誕生していった。
これら百数十年前のクリッパーの血統を受け継ぎ、現代の船主たちの意地を具現した近代セーリングモンスターの開発競争が、東洋の国日本から離れた西洋社会で今でも連綿と続いている。
つい最近、142ftのハイテク・スクーナー〈マリ・シャーⅣ〉が単胴帆船のデイラン記録と大西洋横断記録を塗り替えた。その直後には世界最大のスループとして全長約250フィートの〈ミラベラV〉が進水した。〈ミラベラV〉のマストの高さは100メートル近くあって、ゴールデンゲート・ブリッジをくぐることができないほどだ。
また、これらの超大型艇とは別のアプローチで、モノハル帆走艇としての高速記録に挑むセーリング・モンスターたちも次々と誕生している。これらの一群は既存のメジャー外洋レースの参加資格枠の上限に収まるように設計され、全長が86~100ftというサイズである。
参加枠上限のサイズではあるものの、最新の流体力学理論や構造技術が思うさま詰め込まれたこのモンスターたちの使命は、ライバルと競いながらトップでフィニッシュラインを走り抜け、世界のメジャー外洋レースの最短所要時間記録を塗り替えること。
世界中で続々と建造されているこういったマキシ・ボートのうちの一隻、全長98ftの〈ザナ〉は、ニュージーランド最大のレーシングヨットとして、この国の首都ウエリントンで昨年建造された。

(続く)

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