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◇クラシック音楽CDレビュー◇グラズノフ:交響曲第8番/バレエ音楽「ライモンダ」/ヴァイオリン協奏曲/サクソフォン協奏曲

2021-01-12 09:38:05 | 交響曲



<クラシック音楽CDレビュー>



~グラズノフ:交響曲第8番/バレエ音楽「ライモンダ」/ヴァイオリン協奏曲/サクソフォン協奏曲~



グラズノフ:交響曲第8番変ホ長調 Op.83
      バレエ音楽「ライモンダ」組曲 Op.57a
      ヴァイオリン協奏曲イ短調 Op.82
      サクソフォン協奏曲変ホ長調 Op.109

指揮:ホセ・セレブリエール

管弦楽:ロシア・ナショナル管弦楽団

ヴァイオリン:レイチェル・バートン・パイン
アルト・サクソフォン:マルク・シーソン

CD:「グラズノフ:交響曲&協奏曲全集」(Warner Classics 0190295651435<8CD>)より


【グラズノフ:交響曲&協奏曲全集】

<CD1>

交響曲第1番ホ長調 Op.5「スラヴ風」
交響曲第2番嬰ヘ短調Op.16

<CD2>

交響曲第3番ニ長調 Op.33
管弦楽のための幻想曲ホ長調 Op.28「海」

<CD3>

交響曲第4番変ホ長調 Op.48
交響曲第5番変ロ長調 Op.55

<CD4>

交響曲第6番ハ短調 Op.58
交響曲第7番ハ長調 Op.77「田園」

<CD5>

交響曲第8番変ホ長調 Op.83
交響曲第9番ニ短調(ヴイリル・ユーディン補筆版)
劇付随音楽「サロメ」Op.90~序奏とサロメの踊り(オスカー・ワイルドの劇のための付随音楽)

<CD6>

バレエ音楽「ライモンダ」組曲 Op.57a
バレエ音楽「四季」Op.67

<CD7>

ヴァイオリン協奏曲イ短調 Op.82
ヴァイオリンと管弦楽のための瞑想曲ニ長調 Op.32
チェロと管弦楽のためのコンチェルト・バラータ ハ長調Op.108
チェロと管弦楽のための「吟遊詩人の歌」Op.71

<CD8>

ピアノ協奏曲第1番ヘ短調 Op.92
ピアノ協奏曲第2番ロ長調 Op.100
サクソフォン協奏曲変ホ長調 Op.109
ホルンと管弦楽のための「夢」Op.24

指揮:ホセ・セレブリエール

管弦楽:ロシア・ナショナル管弦楽団

ヴァイオリン:レイチェル・バートン・パイン
チェロ:ウェン=シン・ヤン
ピアノ:アレクサンダー・ロマノフスキー
アルト・サクソフォン:マルク・シーソン
ホルン:アレクセイ・セロフ

録音:2004年~2010年

CD:Warner Classics 0190295651435(8CD)


 今回は、「グラズノフ:交響曲&協奏曲全集」(Warner Classics 0190295651435<8CD>)より、グラズノフ:交響曲第8番変ホ長調 Op.83/バレエ音楽「ライモンダ」組曲 Op.57a /ヴァイオリン協奏曲イ短調 Op.82/サクソフォン協奏曲変ホ長調 Op.109の4曲を聴いてみることにする。

 アレクサンドル・グラズノフ(1865年ー1936年)は、ロシア帝国末期およびソビエト連邦建国期に活躍した、サンクトペテルブルク出身の作曲家。ロシア五人組の指導者バラキレフは、グラズノフの才能を認め、また、その作品はリムスキー=コルサコフにも称賛された。グラズノフはやがて国際的な称賛を受けるようになり、1888年には指揮者デビューも果たしている。1890年代に3つの交響曲、2つの弦楽四重奏曲、そしてバレエ音楽「ライモンダ」と「四季」を完成させるなど、グラズノフは創造力の頂点を極める。このほか、この頃の有名な作品には、交響曲第8番やヴァイオリン協奏曲などがある。その後、1906年から1917年にかけてペテルブルク音楽院の院長を務めることになるが、ロシア楽壇における民族主義(ペテルブルク楽派)と国際主義(モスクワ楽派)を巧みに融和させた重要人物でもあった。しかし、グラズノフの保守主義は、教授陣からも、学生からも、同音楽院内部で非難を浴びることになる。これらの批判に対し、グラズノフは破壊的で不当であると反論し、1928年にウィーンで開かれたシューベルトの没後100周年記念行事に出席するのを好機として、国外に出たきり、二度とソ連に戻らなかった。グラズノフはヨーロッパとアメリカ合衆国を巡り、パリに定住したのである。グラズノフは「ロシアを不在にしているのは亡命ではなく、体調不良のせいだ」と主張し、ソ連における尊厳は失わずに済んだという。

 指揮のホセ・セレブリエール(1938年生まれ)は、ウルグアイ、モンテビデオ出身。11歳でウルグアイにおける最初のユース・オーケストラを組織し、指揮者デビュー。1956年にカーティス音楽院に留学、その後タングルウッド音楽センターで、作曲をアーロン・コープランドに師事する。また、同時期に当時ミネアポリス交響楽団の常任指揮者であったアンタル・ドラティの下で指揮法を学び、続いてピエール・モントゥーに師事。その後、作曲家としてだけでなく、指揮者としてもストコフスキーに認められ、1962年にはアメリカ交響楽団の副指揮者に就任。また、1968年にはジョージ・セルによってクリーヴランド管弦楽団のコンポーザー・イン・レジデンスに指名された。自作品は、交響曲第1番、交響曲第2番「パルティータ」、交響曲第3番「神秘的交響曲」、ファンタジア、ヴァイオリン独奏のためのソナタなどがある。

 グラズノフ:交響曲第8番変ホ長調作品83は、1906年に完成した最後の交響曲である(続いて1910年に着手された第9番は、第1楽章のピアノ・スケッチのみで未完に終わった)。第8番の作曲は1903年頃から始められたが、完成までの間にロシア第一革命が起こり、その影響で師リムスキー=コルサコフがペテルブルク音楽院院長を解任され、これに抗議してグラズノフらも辞任した。政府当局や音楽院側の譲歩により彼らの復職が認められ、そして、グラズノフが新たに院長に選出された。このような背景があり、従来のグラズノフの作品の特徴である明るさが影を潜め、陰鬱な気分や悲劇的な調子が曲の中心を占めることになる。第2楽章では、深い魂の痛みが覆い尽くすが、第4楽章の終盤でようやく前向きな姿勢を覗かせる。第8番は、現在ではグラズノフの最高傑作の交響曲に位置付けられている。この曲でのホセ・セレブリエール指揮ロシア・ナショナル管弦楽団の演奏は、当時のグラズノフの置かれた立場に寄り添うように、心の葛藤を巧みな演奏技法で表現してくれる。この交響曲は、グラズノフの他の交響曲のような明るく牧歌的な雰囲気が陰を潜め、陰鬱で重苦しい感情が支配する。このためもあり、この交響曲は最初は取っ付きにくい。しかし、後期のベートーヴェンの弦楽四重奏曲のように、聴けば聴くほど精神的な深みに愛着が深まり、グラゾノフの最後の到達点にリスナーは共感することになる。ホセ・セレブリエールの指揮は、そのような表現しにくい内容を、明確にリスナーに届けてくれる。名演だ。

 グラゾノフは、バレエ音楽を3曲遺している。一番有名なのが、冬に始まり秋に終わる「四季」。今回聴くのは、全3幕からなる「ライモンダ」作品57(1897年)である。バレエ「ライモンダ」の舞台は、13世紀のハンガリー。伯爵家の娘ライモンダは騎士のジャンと熱烈恋愛中であったが、彼が戦争に行っている間に、悪い男が言い寄ってくる。あわや誘拐の大ピンチに恋人が戦地から帰還し、悪い奴を決闘で倒して二人は晴れてゴールインというストーリー。この曲でのホセ・セレブリエール指揮ロシア・ナショナル管弦楽団の演奏は、グラゾノフ特有の明るく、情感あふれるバレエ音楽の真髄を聴かせてくれ、実に楽しい演奏内容だ。グラゾノフのバレエ音楽というと「四季」ばかりが演奏されるが、この「ライモンダ」は、「四季」に負けず劣らず優れた作品であることをこの演奏は、証明している。

 グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品82は、1904年に作曲された。3楽章で構成されているが、作品全体が間断なく連結されており、多楽章構成を含んだ単一楽章のようにまとめられている(中間楽章が実質的なカデンツァであることから、第1楽章の延長と見なして、独立した楽章に数えない見方もある)。全般的に華麗な表現技巧が際立ち、グラゾノフというと、バレエ音楽「四季」と並び、このヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品82が挙げられることが多い。この曲でのレイチェル・バートン・パインのヴァイオリン演奏は、線は細いが、高い演奏技法に裏付けられており、微妙な音の揺らめきを巧みに表現し尽くして秀逸。この演奏を聴くと、この曲は、もっと演奏会で取り上げられてもいいのではないかという気がしてくる。

 グラズノフは、1928年にウィーンで開かれたシューベルトの没後100周年記念行事に出席するのを好機として、国外に出たきり、二度とソ連に戻らなかった。グラズノフはヨーロッパとアメリカ合衆国を巡り、パリに定住した。この時作曲されたのが、サキソフォン協奏曲(1933年)である。この曲でグラズノフは、ジャズの要素を巧みに取り込み、その結果「独特な構想を持っており、この独自の楽器の可能性を切り開いた巨匠的作品」(「ロシア音楽史Ⅱ」クリューコフ他著/全音楽譜出版社)を最晩年に完成させるのである。この曲はあまり演奏される機会はないが、リスナーは、一度聴くとその魅力にたちどころに引き寄せられてしまう。アルト・サクソフォンのマルク・シーソンの演奏は、故国を離れ、二度と帰らないグラズノフの哀愁の情を、しみじみと、しかもストレートに表現して見事な効果を挙げている。(蔵 志津久)
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