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★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇いずみたくと小六禮次郎の女性合唱曲集

2011-06-03 11:30:58 | 合唱曲

~合唱名曲コレクション~

女性合唱曲集「見上げてごらん夜の星を」 

 いずみたく 作曲・編曲

 見上げてごらん夜の星を    永六輔作詞
 明日も逢おうよ       松原雅彦作詞
 ふれあい          山川啓介作詞
 女ひとり          永六輔作詞
 ともだち          永六輔作詞
 世界は二人のために     山上路夫作詞
 手のひらを太陽に       やなせたかし作詞
 希望            藤田敏雄作詞
 愛に生き平和に生きる     岩谷時子作詞
 友よ            岩谷時子作詞
 12の誕生日に        武藤たずる作詞
 仲間            藤田敏雄作詞
 夜明けのうた         岩谷時子作詞
 今、今、今          藤田敏雄作詞

 指揮:中村博之
 合唱:コーロ・みお
 ピアノ:北野実
 伴奏:アンサンブル・アカデミア
 オーケストラ伴奏編曲:北野実

女声合唱組曲「金もくせい」

 作曲:小六禮次郎  作詞:藤公之介

 金もくせい匂えど
 煉瓦坂
 公園通りの金もくせい
 風になれ

 指揮:志水隆
 副指揮:木下章子
 合唱:長崎コール・ブーケ
 ピアノ:小阪徳子

CD:東芝EMI CZ28 9090

 東日本大震災は、多くの方々の命を奪い、平和な街や村の生活基盤を根こそぎ奪い去ってしまった。日本列島は、全世界の土地の面積比では取るに足らない小ささであるにも関わらず、全世界の1割の地震が集中しているという。これは、これからも避けては通れない試練を日本の国民に与えることを意味する。そのためには、我々は、地震や津波などの自然災害に対して、最小の被害で済むよう、常日頃の対策を万全にしておくことが欠かせまい。ただでさえ狭い国土に、どうも日本人は一カ所に集中して住みたがる傾向があるようだ。これからは、なるべく人口密度を平準化して住むことが可能なネットワーク機能を全国的に整備するなどの抜本的な対策が求めれる。“世界一地震や津波の対策が行き届いた国”と胸を張って世界に向かって言える国にすることこそが、大震災で亡くなられた方々への最大の供養となるのではないだろうか。

 今回の大震災では、金子みすゞの詩がテレビ放送から常に流れ、世間の耳目が集まった。常日頃金子みすゞの詩が大好きな私としては、不幸で衝撃的な大震災の報道の狭間で辛じてほっとできる一瞬であった。それと同時に、かつてのヒット曲、いずみたく(作曲)&永六輔(作詞)コンビによる「見上げてごらん夜の星を」がいつもより多く歌われたのではないかと思う。東日本大震災チャリティーコンサートでも、演奏家と聴衆とが一緒に「見上げてごらん夜の星を」を歌ったことが伝えられていた。国難である大震災の中、日本国民が一緒になって希望をもって明るい未来を願える歌、それが「見上げてごらん夜の星を」を蘇らせたのではなかろうかとも思う。そこで、大分前に買っておいた「見上げてごらん夜の星を」をはじめとした、いずみたく(1930年―1992年)の作品と小六禮次郎の「金もくせい」が収められた女性合唱曲集のCDを取り出してきて聴いてみることにした。録音は、1981年(昭和56年)と1987年(昭和62年)と大分前のものだが、その歌の一曲、一曲は今聴いてみても少しも古臭くなく、明るい未来に向かって歌っているようにも聴こえ、何か勇気づけられるのだ。

 いずみたくは、ダンプの運転手などをしながら芥川也寸志に師事したという、いわば叩き上げの作曲家である。日本レコード大賞作曲賞受賞曲を含め、生涯に作曲した数は1万5000曲にも上るという。そのいずみたくは、このCDのライナーノートに次のように記している。「・・・歌には生命があり、その生命が永続きすればする程、その歌は素晴らしいし、良い歌である。それがスタンダードナンバーである。いつの時でも、あらゆる場所で大勢が歌える歌―そんな歌をボクは三十年間作り続けたいと思って作曲してきた。今振り返ってみて、それが出来たかどうか、半信半疑であるが、今後も死ぬまで、それを信じて作り続けたいと思う」。このいずみたくの言葉の中に「あらゆる場所で大勢が歌える歌」という部分がある。今回の大震災で「見上げてごらん夜の星を」が歌われた理由はこれだ!と私は思った。今の歌はそのほとんどが年齢層で区分けされ、子供からお爺ちゃん、お婆ちゃんまで皆で一緒に歌える歌は少ない。その昔、いずみたく&永六輔コンビが活躍した時代は、皆で歌える歌が数多くあり、そんな環境の中で、いずみたくは躊躇なく皆で歌える歌を目指していたのだ。そのことこそ、今回の大震災でいずみたくの歌が歌われた理由ではないかと私は思う。

 このCDには、もう一つ小六禮次郎作曲・藤公之介作詞の女声合唱組曲「金もくせい」が収められている。小六禮次郎は1949年生まれ。いずみたくとは違い、東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業し、オペラ、交響詩まで作曲したという正統派の作曲家である(夫人は女優で歌手の賠償千恵子)。このCDのライナーノートで小六禮次郎は次のように書いている。「・・・音楽の力は弱いのです。でも音楽がひとたび人の心に入り込めば、人の感情をよびさまし、生きる喜びを充実させてくれます。思い出を歌う歌は情感をよびさます以外、何もよいところはないかもしれません。でも小さいけれど本当に大切な、『人の持つ優しい気持ち』を湧き上がらせることが出来ます。・・・」。ここに収められた女声合唱組曲「金もくせい」は、この小六の言葉がそのまま曲となったような、素敵な香りがする曲だ。ピアノ伴奏と女声合唱が幻想的な雰囲気を漂わせ、何か一時、昔懐かしい安らぎの世界へ紛れ込んだ感じにしてくれる。今回、いずみたくと小六禮次郎の曲を改めて聴いてみて、名曲は時代を超越して人の心を打つ何かを宿しているということを強く実感させられた。そして、すべての曲でコーロ・みおと長崎コール・ブーケが、女性合唱の素晴らしさをたっぷりと伝えてくれているのが何よりも嬉しいのだ。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽CD◇コーラスグループFORESTA(フォレスタ)男声作品集「凛」

2010-07-27 09:23:01 | 合唱曲

「凛」~歌い継ぐ日本のこころ FORESTA(フォレスタ)男声作品集~

 1.箱根八里
 2.城ヶ島の雨
 3.琵琶湖周航の歌
 4.北上夜曲
 5.若者たち
 6.銀色の道
 7.風
 8.戦争を知らない子供たち
 9.黒い瞳の
 10.ヴォルガの舟歌
 11.ともしび
 12.麦と兵隊
 13.加藤隼戦闘隊
 14.戦友
 15.竹田の子守唄 

合唱:FORESTA(フォレスタ)男声(大野 隆/横山慎吾/榛葉樹人/澤田 薫/
                     今井俊輔/川村章仁/河村洋平)

ピアノ:南雲 彩/吉野 翠/江頭美保

CD:BS日テレ

 毎週月曜日夜10時からBS日テレで放送される、全員音大出の若手混声コーラスグループ「FORESTA(フォレスタ)」出演の1時間番組「BS日本・こころの歌」に、私は文字通り釘付け状態になってしまう。それは我々の年代が生きてきた、戦後の時代が生み出した名曲の数々が、若い「フォレスタ」のメンバーの実に美しく、生き生きとした歌唱力で、あたかも新しく作曲された曲のごとく再現されているからである。つまり、単なる懐メロとは次元を異にした、現代にも通用する感覚で歌われており、少しも古臭くないところがとってもいい。「フォレスタ」が歌う曲の多くは、童謡とも違うし、歌謡曲とも違う。また、演歌とも違う。今の時代の音楽ジャンルであるJ-POPとも違う。ピタリとした表現はなかなか難しい。やはり、「こころの歌」あるいは「青春の歌」というのが一番近いのかもしれない。そして、テレビの舞台のデザインが、透明感溢れるシンプルなことが「フォレスタ」の歌声を一層引き立てている。

 「フォレスタ」は、これまでDVDとともにCDの第一弾「まほろば」を発売した。この第一弾のCDのライナーノートには「名歌は美しい風土とともに生まれ、名曲は時代の流れに育まれ、さまざまな人生の想い出の寄り添いつつ、いつまでも心の中に生き続けます」と言葉が添えられているが、このことを基本に、今回、男声コーラス名曲集として全15曲を収録したCDの第二弾「凛」が発売となった。これは、古き名曲から昭和の歌、また今回初めて“時代を反映した歌”などを、男声フォレスタのメンバーが力強く熱唱している。フォレスタの特徴は、メンバーの全員が音大を出ているだけに、一人一人の歌唱力が優れているのに加え、男声陣および女声陣のバランスがいいことが挙げられ、それが聴いていて心地がいいのだ。それでは男声陣だけになったらどうなるのか。今回のCDは、このことへの回答が詰まってるわけである。

 「フォレスタ」男声陣のCD「凛」を聴いてみて思ったのは、混声コーラスとはまた違った、「フォレスタ」の新しい側面を、我々リスナーの前に示してくれたということだ。男声コーラス独特の力強さに溢れていると同時に、若きコーラスだけに、軽快さや明るさが漲っているところが、新たな可能性を予感させる。CD第一弾「まほろば」では、誰が聴いても正に名曲の定番といった選曲がなされていたように思えたが、今回の第二弾「凛」では、いかにも男声合唱に合わせた選曲がなされ、個性溢れるCDに仕上がっている。ある意味では問題提起的な選曲も含まれているとも思える。私の個人的趣味を言わせてもらうと、「若者たち」(作詞:藤田敏雄/作曲:佐藤勝)が特に印象に残った。同時代に青春の時代を過ごした曲であるから、個人的な懐古的情緒に浸れるということだけかもしれないが、「フォレスタ」男声陣のナイーブな音質が、一番曲にピタリとあっているように私には思える。勿論、第1曲目の「箱根八里」(作詞:鳥居忱/作曲:瀧廉太郎)は、「フォレスタ」男声陣の実力を存分に示したもので、このCDを代表する歌唱といってもいいであろう。

 「フォレスタ」のコーラスは、男声でも女声でも混声でも、他のコーラスグループとは、ちょっと何か違うように感じられる。それが何かをストレートに表現するのは意外に難しいが、一つ言えるのは、「フォレスタ」は詞に対して執念みたいなような感情を持っていることがリスナーに伝わってくることだ。「こころの歌」といわれる、先人が悪戦苦闘してつくり挙げてきたジャンルの曲の一つ一つの曲の素晴らしさは勿論だが、詞も負けずに素晴らしいことが「フォレスタ」歌声を聴くとよく分る。今、正しい日本語を使うことが余りにも疎んぜられていやしないだろうか。正しく、美しい日本語を守り、伝えていくことは、今を生きるものの務めではなかろうか。その意味からも私は「フォレスタ」は貴重な存在のコーラスグループだと思う。それに、テレビでも何時もそうだが、ピアノ伴奏陣がいつも若々しく、メリハリが利いた伴奏をしていて、コーラスを十二分に盛り立てているのも、このコーラスグループの特徴の一つに挙げられよう。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽CD◇ストフスキー指揮のカール・オルフ:カルミナ・ブラーナ

2010-05-25 09:26:15 | 合唱曲

カール・オルフ:世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」
           
            序  <運命、世界の王妃よ>第1曲―第2曲
           第1部<春に>第3曲―第5曲
               <草の上で>第6曲―第10曲
           第2部<居酒屋にて>第11曲―第14曲
           第3部<求愛>第15曲―第23曲
           エピローグ<ブランチフロールとヘレナ>第24曲
                  <運命、世界の王妃よ>第25曲
           

指揮:レオポルド・ストコフスキー

管弦楽:ヒューストン交響楽団

ソプラノ:ヴァージニア・ベビキアン
テノール:クライド・ヘーガー
バリトン:ガイ・ガードナー
合唱:ヒューストン合唱団

CD:EMI(新星堂) SAN‐13

 カール・オルフ(1895年―1982年)の世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」の第1曲を、初めて聴くとその雰囲気の異様さに見まがえるリスナーも出てこよう。それもそのはず、作曲者のカール・オルフは、自他共に許す“バーバリズム”に傾倒した作曲者なのだから。バーバリズムとは何かというと、野蛮とか未開性、あるいは野蛮な行為、無作法、また、反文化的な行為を指す。これだけなら何か悪いことのようにも取れるが、カール・オルフの場合は、和声・旋律・リズムのすべてが、単純さ、明快さ、力強さにあふれているのだ。そもそも「カルミナ・ブラーナ」の意味が分らないと、この曲を充分に味わうことは不可能だ。そこで「カルミナ・ブラーナ」の紹介から始めてみよう(「ウィキペディア」による)。

 「カルミナ・ブラーナ」とは、19世紀初めにドイツ南部のバイエルン州にあるベネディクト会のボイレン修道院で発見された詩歌集のことだ。歌の数は約300編にのぼり、ラテン語、古イタリア語、中高ドイツ語、古フランス語などで書かれていた。書かれたのは11世紀から13世紀の間と推測されている。歌詞内容は若者の怒りや恋愛の歌、酒や性、パロディなどの世俗的なものが多く、おそらくこの修道院を訪れた学生や修道僧たちによるものと考えらている。オルフはこの詩歌集から24篇を選び(内1曲はオルフの自作)、曲を付けた。「春に」「居酒屋にて」「求愛」の3部から成り、その前後に序とエピローグがつく。1936年に完成した。

 カール・オルフは、舞台音楽として作曲したようで、このCDを聴いていても、どことなく舞台上でダンサーが踊っている光景が目に浮かんでくるような感じもする。全部で25曲があるが、オーケストラ伴奏で、ソプラノ、テノールそれに合唱が交互に歌われ、聴き進むうちに最初の異様さも次第に薄らぎ、なかなか雰囲気のある世俗カンタータであることが、徐々に理解でき、中世の世界へとリスナーを誘ってくれる。中世の詩歌集という我々からすると理解さえ難しい雰囲気を、カール・オルフの単純で明快な作曲技法を通して、何となく理解できるような雰囲気がしてくから不思議だ。美しい部分もありなかなか聴かせるが、全体としては通常のクラシック音楽の世界とはまた別の世界へと迷い込んだような気がする。

 演奏は、ソプラノ、テノール、合唱団それにレオポルド・ストコフスキー指揮ヒューストン交響楽団とも最善の仕上がり振りを見せ、ともすると単調になり勝ちなこの曲を、飽きることなく最後まで楽し聴くことができるのが何より嬉しい。さすがは名指揮者ストコフスキーのことはあると、ひとり納得した。カール・オルフはドイツ生まれの作曲者だが、「フーガやソナタといった純音楽を書くことは不可能である。そういった形式の可能性は、すべて18,9世紀に使い果たされてしまった。劇場音楽こそ未だ開拓されざる世界であり、そこに可能性を見いだすことができる」と語ったように、演劇や舞踏の世界に興味を示し、他にない独特の世界をつくり出した作曲者でもあった。
(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽CD◇ブラームスの4声部とピアノ伴奏の「愛の歌」「新愛の歌」

2010-02-02 09:30:49 | 合唱曲

ブラームス:愛の歌/新愛の歌

ソプラノ:バーバラ・ホエネ
アルト:ギゼラ・ポール
テノール:アルミン・ウーデ
バリトン:ジークフリート・ローレンツ

ピアノ:クラウス・べスラー

指揮:ヴォルフ=ディター・ハウシルド

CD:徳間ジャパン(ドイツシャルプラッテンレコード) 32TC-165

 ブラームスの作品は、ドイツ音楽らしく、どれも厳格で、深みがあることが大きな特徴となっている。このようなブラームス特有の特徴をこの上なく愛する人々がいる反面、どうも分りづらくて、独特な陰鬱な雰囲気に対し、近づきがたい感覚に陥る人々もいる。日本は、明治維新以来この方、教育の影響もあって、フランス音楽などのラテン系音楽よりも、ドイツ音楽に代表されるロマン系のクラシック音楽のファンの方が多いようだ。しかし、これも考えようで、「ワーグナーのオペラを聴いていて、思わず居眠りし、起きてみたら、前と変わらない音楽が奏でられていた」というリスナーも決して少なくないのだ。要は、慣れのの問題で、「フランス音楽はどうも分らない」といっても分っているかもしれないし、「ドイツ音楽なら分る」といっても分ってないかもしれないのだ。

 そんなことで、今回は厳格な作風で知られるブラームスの「愛の歌」「新愛の歌」を取り上げたい。この4声部(ソプラノ/アルト/テノール/バリトン)とピアノ伴奏からなる合唱(重唱)曲は、全くブラームスらしくない、明るく、軽快な音楽に仕上がっている。ブラームス自身も大いに気に入っていたというから、ブラームスも本音は、意外にネアカに憧れていたのかもしれない。私もこの2曲は以前から大好きで、時々聴いているが、どうもブラームスらしくないせいからか、演奏会で取り上げられることも多くはないし、ラジオ放送でも滅多に聴くことはない。もし、「ブラームスはどうも」というリスナーがいたら、私は「ほかは聴かなくてもいいからこの『愛の歌』と『新愛の歌』だけは聴いてください」と申し上げたい。

 このCDの演奏(録音=1974年3月8-16日、ベルリン・キリスト教会)は、「愛の歌」「新愛の歌」を聴くのに、4声部の合唱およびピアノ演奏について、最上の仕上がりを見せているといってもいい。当時、東ドイツでの録音と思うと、何か歴史の重みを感ぜざるを得ない。この2曲の聴かせどころはというと、4人の歌手がそれぞれ独唱をしたかと思えば、今度は4人の重唱に一挙に変わるなど、その組み合わせと、チームワークの良さがウリであり、ただ大歌手が4人揃えばいいというものでもないのだ。その点このCDの4人の歌手のチームワークの良さは抜群だ。

 ブラームスは、楽譜に「レントラーのテンポで」と書いているそうである。ドイツ語で「Libeslieder Walzer」「Neue Libeslieder Walzer」と書いてあるから、前々からワルツであると信じていたのに、実際はレントラーだったんだということが今回分った。そこでウイキーの力を借りると・・・「レントラー(独:Ländler)は、3/4拍子の南ドイツの民族舞踊である。18世紀末ころまで、現在のドイツ、オーストリア、スイスにあたるドイツ圏南部一帯で踊られた。13世紀頃から今日のチロル州とバイエルン州の農民が踊っていたヴェッラー(Weller)から発展した民族舞踊。2人一組で、飛んだりはねたりもする踊りである。・・・これはワルツの前身だと考えられているが、系列的にはワルツ、及びウィンナーワルツの親戚である」とある。ワルツの親戚だからまあいいか。そう言えば、シューベルトにもレントラーの名曲が数多くあることを思い出した。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽CD◇ロジェー・ワーグナー合唱団のフォスター名曲集

2009-09-29 09:18:30 | 合唱曲

スティーブン・フォスター・フェイバリッツ
   夢見る人/バンジョウをかき鳴らせ/やさしいアニー/口ひげさえ/恋人よ窓
   を開け/赤いバラよ、いつまでも/カイロへ行って/おお、レミュエル/懐かし
   きケンタッキーのわが家/老犬トレイ/ドルシー・ジョーンズ/君はわが歌の女
   王/グレンディ・バーク号/きびしい時代はもうやってこない/故郷の人々/あ
   る人/おお スザンナ/やさしいリーナ・クレナ/ネリー・ブライ/金髪のジェニ
   ー/ローラ・リー/草競馬/おやすみ、いとしい人/オールド・ブラック・ジョー

指揮:ロジェー・ワーグナー

合唱:ロジェー・ワーグナー合唱団

CD:東芝EMI TOCE-6410

 時々フォスターの歌を無性に聴きたくなるときがあります。1年のうち必ず何回か起きます。そんな時、ロジェー・ワーグナー合唱団のこのCDを必ず聴くことにしているのです。それは、聴いた後の満足度が他のフォスターのCDより何倍も大きいからです。フォスターの歌を聴くと、故郷に帰って、少年時代に野山を駆け巡ったような、懐かしい気分に浸れます。日々の喧騒を離れ、人間の根源にある魂に直接響くような、何かがフォスターの歌には込められているのです。

 それにしてもフォスターほど、人間や動物に対し優しい眼差しを向けた作曲家はいません。どうしてこんな優しさを、大人になっても持ち続けることができたのでしょうか。一般にアメリカ人というと、開拓者としての激しさとか、パイオニア精神を思い起こしますが、フォスターのように人間や自然や動物達に対する深い愛着を抱くのも、同じアメリカ人の中にはあるようですね。オバマ大統領の新しいアメリカは、フォスターの精神を、もっと世界に広めていってほしいものです。

 ところで、フォスターの曲はあまりにも有名ではありますが、フォスターってどんな作曲家といわれると私自身あまり知らないことに気が付きました。そこでフォスターの経歴をみてみることにしたのです。フォスターは1826年にペンシルバニア州ローレンスヴィル(現在はピッツバーグ州に併合)の裕福な家に生まれています。そしてたった37歳の短い生涯に名曲を何曲も残しました。

 しかもその短い一生は、必ずしも順風満帆ではなかったようで、死の時は洋服のポケットには、古ぼけた財布中に、38セントの硬貨と、1枚の小さな紙切れが残されていただけだったといいます。その紙には「親しい友人と優しい心の人たち」と鉛筆で書かれていたことを、このCDの解説書で横堀朱美氏が紹介しています。13歳で最初の曲を書いていますが、驚いたことに音楽はほとんど独学でマスターしたようですね。一時は「おおスザンナ」などが大ヒットして名声を得たようですが、晩年は失意のうちに孤独な死を迎えています。

 このCDで合唱団の指揮をしているロジェー・ワーグナーは、年配の方なら名前をよくご存知でしょう。ただ、どういう経歴かはあまり知らないので、こちらも紹介しておきます。ロジェ・ワーグナーは1914年生まれのフランス人だったのですね。7歳のときに家族と共にアメリカに渡り、ここからアメリカとの付き合いが始まったのです。セント・ジョーゼフ教会の音楽監督などを務め、1947年に12声の混声合唱団「ロジェー・ワーグナー合唱団」を結成しました。確かこの合唱団は昨年も日本に来て公演を行ったようですよね。実に結成から60年以上が経過しているのです。このCDは、1990年にロサンジェルスのスタジオで、生前のロジェ・ワーグナー指揮の下に、それはそれは実に見事な合唱を聴かせてくれています。

 フォスターが作曲したたくさんの曲たちは、優しさと懐かしさに溢れていますが、同時に聴いていると自然に生きる喜びが湧き起こってくるから不思議なものです。フォスターの歌なんてもう耳たこだなんて言わないで一度聴いてみてください。心の底から生きる勇気が湧き起こってきますから。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽CD◇日本の抒情歌を歌うコーラスグループ“フォレスタ(FORESTA)”の初のCD

2009-07-21 09:14:01 | 合唱曲

~まほろば  歌い継ぐ日本のこころ~ フォレスタ(FORESTA)作品集

荒城の月/美しき天然/早春賦/夏は来ぬ/ちいさい秋みつけた/冬景色/あざみの歌/白い花の咲く頃/山のけむり/浜辺の歌/浜千鳥/惜別の歌/人を恋うる歌/北帰行/初恋/海の歌/風のかたみに/明日/追憶/まほろば

歌手:フォレスタ・メンバー=大野 隆/横山慎吾/榛葉樹人/澤田 薫/田中健
                 晴/今井俊輔/園山正孝/白石佐和子/矢野聡子/
                 小笠原優子/中安千晶/吉田 静

ピアノ:南雲 彩/吉野 翠

CD:フォレスタ事務所 FRT-2009

 毎週月曜日の夜10時から、BS日テレで「BS日本・こころの歌」が放送されているが、ここで毎週歌っているのがフォレスタ(FORESTA)のメンバーである。作曲家・杉本龍之氏の監修指導の下、結成されたこの全員音楽大学出身の混声グループは、“美しい日本の詩と旋律を歌い継ぐ”のテーマにそって、実に若々しい清らかな歌声と良く響きあうハーモニーで、聴くものを引き付けて離さない魅力を存分に発揮している。最近のコーラスグループとして出色の存在といっていいだろう。

 フォレスタが対象としている歌は、日本の抒情歌が中心となっている。明治以来、日本は西洋文化の吸収に全力を傾けていたが、音楽についても優秀な音楽的素質を持った若者を海外に送り出し、西洋音楽を勉強させ、この結果、日本人が日本の心を持って作曲した“日本の歌”の名曲が続々とつくられた。これらの日本の歌は、一般にはクラシック音楽とはいわれてはいないが、私は日本人がクラシック音楽を勉強し、日本人が共感できる音楽へと昇華させた、紛れもない日本発のクラシック音楽であると考えている。

 難しい音楽はクラシック音楽、誰でも歌える音楽はポピュラー音楽と決め付けるには間違えのもとだ(質のいい日本の演歌の中には、オペラと比べても決して遜色ない曲だってある!)。日本の抒情歌は西欧音楽を母体としてはいるが、クラシック音楽を自分の中に取り込み、日本独自の音楽性を新しく創造したことは間違いないし、世界に胸を張ってもいい独創的作品群だと思う。

 これらの日本の抒情歌は、これまでクラシック音楽の歌手やポピュラー音楽のコーラスグループなどによって歌い継がれてきたが、最近、それらの歌手達も高齢化し、このままでは世界に誇れる日本の抒情歌も立ち消えしまうのでは、という一抹の不安を持たざるを得ない状況に置かれていた。ところがこれらの不安を一挙に払拭してくれた一つが、フォレスタ・グループの登場である。全員音楽大学を卒業したばかりの若々しい歌声は何物にも代えがたい魅力を発揮している。

 これまでフォレスタの歌声は、BS放送かDVDで見られたが、今回CDが新たに発売された。勿論、映像もいいのだが、CDは声そのものに集中できるという大きなメリットがあり、私は好きだ。収められた曲はよく知られた曲で楽しめる。最近、男性歌手の存在感が薄いのが気になっていたが、フォレスタの男性歌手はよく通る歌声で、女性歌手とのバランスも非常に良い。「BS日本・こころの歌」の音楽監修者で、滝廉太郎、山田耕作、成田為三らの流れをくむ岡本敏明の下で作曲法を学び、日本のメロディーの継承者として活躍中の杉本龍之氏の作品が、このCDの最後に5曲収録されている。これからも日本の新しい抒情歌の誕生が期待できそうだ。(蔵 志津久)

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