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★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

●クラシック音楽●新譜CD情報

2025-04-25 09:53:34 | 新譜CD情報



<新譜CD情報>



~ギター界屈指の名手 福田進一 & エドゥアルド・フエルナンデス ギター二重奏曲集~



ソル:幻想曲「二人の友」作品41
スカルラッティ(フェルナンデス編):ソナタ K. 213/K. 492
バッハ(福田進編):協奏曲 ニ短調 BWV 974
サントルソラ:ソナタ・ア・デュオ 第1番
バッハ(福田進一編):協奏曲 ニ短調 BWV 974
ヒナステラ(バルボサ=リマ編):サンバとガト
ピアソラ(エストラダ編):来るべきもの

ギター:福田進一
    エドゥアルド・フェルナンデス

CD:マイスターミュージック MM-4537

 1995年以来、30年間にわたりデュオの演奏会を世界各地で断続的に行ってきた福田とフェルナンデス。このCDは、その難易度の高さゆえか録音が希少なF.ソルとG.サントルソラのオリジナル2作品に、奏者二人がそれぞれ編曲したバロック4作品を軸に編まれた、他では聴けないプログラムを収録。

 ギターの福田進一(1955年生まれ) は、大阪市出身。関西大学商学部を中退した後、1977年6月よりパリに留学。エコール・ノルマル音楽院にてアルベルト・ポンセに師事し、同音楽院を首席で卒業。続いてイタリアのキジアーナ音楽院にてオスカー・ギリアに師事し、最優秀ディプロマを取得。1981年「パリ国際ギターコンクール」でグランプリ優勝。それ以降、ソリストとして世界各地で公演やマスタークラスを開催するとともに、様々なオーケストラと協演している。教育活動にも力を注ぎ、その門下から鈴木大介、村治佳織、大萩康司といったギター界の実力派スターたちを輩出。それに続く新人たちにも強い影響を与えている。現在は、世界各地の音楽大学でマスタークラスを開催、上海音楽院(中国)、大阪音楽大学、広島エリザベト音楽大学、アリカンテ大学(スペイン)において客員教授を務めている。2003年、スペイン音楽第2集「セビリア風幻想曲」が第58回「文化庁芸術祭賞」優秀賞受賞。2007年、日本の優れた音楽文化を世界に紹介した功績により外務大臣表彰。平成23年度(2012年)芸術選奨・文部科学大臣賞をギタリストとして初めて受賞した。公益社団法人日本ギター連盟名誉理事。

 ギターのエドゥアルド・フェルナンデス(1952年生まれ)は、ウルグアイ出身。現代のギター界をリードする存在として世界的に認められている。7才からギターを学び始め、演奏をA. カルレバーロ、作曲と理論をG. サントルソラ、そしてH. トサールに師事したのち、その圧倒的な技術と音楽性によって、72年「ポルト・アレグレ」(ブラジル)、75年「ラジオ・フランス」(パリ)、77年「アンドレス・セゴビア」(マジョルカ島/スペイン)など数々の国際ギター・コンクールに入優勝を果たし、頭角を現した。「最高級のギタリスト!…これは稀に見る、あらゆる楽器を超越した印象的なデビューだ」と評された77年のニューヨーク・デビュー以来、その世界的活動は止む所を知らない。83年のロンドン・デビューも聴衆に大きな衝撃を与え、名門デッカ・レコードと契約。さらに、世界各国での教育活動にも力を入れている。また、「ギター演奏理論」「バッハのリュート音楽に関するエッセイ集」などを執筆。日本でも出版(現代ギター社刊)されている。
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●クラシック音楽●コンサート情報

2025-04-24 09:53:24 | コンサート情報



<コンサート情報>



~今年11月にボストン交響楽団を指揮する 沖澤のどか指揮京都市交響楽団とアラベラ・美歩・シュタインバッハーの共演~

G.レンツ:ヴァイオリン協奏曲「...to beam in distant heavens...」(日本初演)
タイユフェール:小組曲
ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」

ヴァイオリン:アラベラ・美歩・シュタインバッハー

指揮:沖澤のどか(京都市交響楽団常任指揮者)

管弦楽:京都市交響楽団

会場:京都コンサートホール

日時:2025年6月20日(金)午後7時/6月21日(土)午後2時30分

 指揮の沖澤のどかが、2025年11月にボストン交響楽団を指揮してデビューする。演奏曲目は、ドヴォルザーク:交響曲第7番、五嶋みどりの独奏によるドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲、そして武満徹の「弦楽のためのレクイエム」。沖澤のどかは、2023年京都市交響楽団の第14代常任指揮者に就任したのに続き、翌2024年には「セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)」首席客演指揮者に就任、そして、2025年にはボストン交響楽団を指揮と、着実に世界の檜舞台へと歩を進めている。

 ヴァイオリンのアラベラ・美歩・シュタインバッハー(1981年生まれ)は、ドイツ、ミュンヘン出身。ドイツ人の父親と日本人の母親との間に生まれた。9歳でミュンヘン音楽大学で学んだほか、ドロシー・ディレイやイヴリー・ギトリスに師事。2000年にハノーファーで開催された「ヨーゼフ・ヨアヒム・ヴァイオリン・コンクール」で入賞。2004年にはチョン・キョンファのキャンセルにより急遽パリでネヴィル・マリナー指揮するフランス国立放送フィルへのデビューが決まり、そこで演奏したベートーヴェンのコンチェルトの演奏により一躍、注目を集めるようになった。

 指揮の沖澤のどか(1987年生まれ)は、青森県三沢市出身。東京藝術大学音楽学部指揮科首席卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。同大学院音楽研究科指揮専攻修士課程修了。2011~2012年、オーケストラ・アンサンブル金沢指揮研究員。2015年、フェリックス・メンデルスゾーン基金の奨学生に選出。2017年、ダニエレ・ガッティとロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるマスタークラスに参加。2018年第18回「東京国際音楽コンクール〈指揮〉」にて、女性として初めて第1位及び特別賞、齋藤秀雄賞を受賞。第7回「ジュネス・ミュジカル・ブカレスト国際指揮者コンクール」第3位。第1回「ニース・コートダズール・オペラ指揮コンクール」セミファイナリスト。2019年第56回「ブザンソン国際指揮者コンクール」優勝、同時に聴衆賞及びオーケストラ賞受賞。同年、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリン修士課程オーケストラ指揮専攻を修了。2020年よりベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーの奨学金を受け、キリル・ペトレンコの助手となる。2022年3月には、急病のペトレンコの代役としてベルリン・フィルを指揮した。メルボルン交響楽団、MDR交響楽団、トーンキュンストラー管弦楽団との定期公演に登場。2023年第21回「齋藤秀雄メモリアル基金賞」受賞。2023年4月京都市交響楽団の第14代常任指揮者に就任。2024年「セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)」首席客演指揮者に就任。2025年ボストン交響楽団を指揮。現在、ベルリン在住。
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●クラシック音楽●コンサート情報

2025-04-23 09:43:21 | コンサート情報



<コンサート情報>



~40年ぶりの来日 国立カナダナショナル管弦楽団 2025年 来日公演~

ケイコ・ドゥヴォー:水中で聞く(Listening Underwater)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 op.18
ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 「運命」 op.67

ピアノ:オルガ・シェプス

指揮:アレクサンダー・シェリー

管弦楽:国立カナダナショナル管弦楽団

コンサートマスター:川崎洋介(NHK交響楽団ゲスト・コンサートマスター)

会場:ザ・シンフォニーホール

日時:2025年6月7日(土) 午後2時

 国立カナダナショナル管弦楽団の来日公演は約40年ぶりという。コンサートマスターは、2024年4月、NHK交響楽団ゲスト・コンサートマスターに就任した川崎洋介が務める。

 指揮のアレクサンダー・シェリー(1979年生まれ)は、ロンドン出身。父親は著名なピアニスト・指揮者のハワード・シェリー。王立音楽院、デュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽院でチェロを専攻、ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ、ヤーノシュ・シュタルケルらに師事。その後、指揮者の道に進む。2005年「リーズ指揮者コンクール」第1位。2009年から2017年までドイツのニュルンベルク交響楽団の首席指揮者を務めた。2015年からは、ピンカス・ズーカーマンの後任としてカナダの国立カナダナショナル管弦楽団の音楽監督に就任。2024-2025シーズンからはロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の首席副指揮者。ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、フィルハーモニア管弦楽団、バーミンガム市交響楽団、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団などに客演。

 ピアノのオルガ・シェプス(1986年生まれ)は、モスクワ出身。6歳の時にドイツに移住。現在はケルン在住。ケルン音楽・舞踊大学で学ぶ。シュレスヴィヒ=ホルシュタインなど著名な音楽祭にも招かれている。ベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、フランクフルト、シュトゥットガルト、ウィーン、ケルンなど世界の主要都市でリサイタルを行う。これまでに北ドイツ放響、シュトゥットガルト放響、ザルツブルク・モーツァルテウム、イスラエル・フィルなど著名なオーケストラと共演。2016年には東京交響楽団、2018年には新日本フィルとも共演。ソニー·クラシカル/ RCAの専属アーティストとして、5枚のCDをリリース。デビューCDのショパン作品集はECHOクラシック賞を受賞。

 コンサート・マスターの川崎洋介は、ニューヨーク出身。6歳で父・川崎雅夫と五嶋節にヴァイオリンの手ほどきをうける。その後ジュリアード音楽院で学び、ドロシー・ディレイ、ヒョー・カンらに師事。 水戸室内管弦楽団、日本センチュリー交響楽団、サイトウ・キネン・オーケストラなどでコンサートマスターを務め、2007年カナダ・オタワのナショナル・アーツ・センター管弦楽団のコンサートマスターに就任し、現在もその地位にある。 ソリスト、室内楽奏者としては小澤征爾、ピンカス・ズーカーマン、ヨーヨー・マらと共演し、カーネギー・ホールやコンセルトヘボウの舞台に立った。現在、カルテットAT水戸、トリオ・インクのメンバー。アフィニス音楽祭音楽監督、ブルガリアの「オフ・ザ・ビートゥン音楽祭」芸術顧問も務める。2024年4月、N響ゲスト・コンサートマスターに就任。

 国立カナダナショナル管弦楽団(NACO)は、1969年、カナダの首都オタワにあるカナダ国立芸術センター(National Arts Centre)の専属オーケストラとして設立。オタワ・ナショナル・アーツ・センター管弦楽団とも呼ばれる。イツァーク・パールマン、ルネ・フレミング、ジョシュア・ベル、ガブリエラ・モンテーロ、ジェームズ・エーネス、エマニュエル・アックス、ヨーヨー・マなどの著名な芸術家と共演している。1999年には、現代最高峰のヴァイオリン奏者兼指揮者であるピンカス・ズッカーマンが音楽監督に就任し、16年間にわたりNACOを育成し世界的な楽団へと導いた。そして、2015年9月にピンカス・ズーカーマンの後任としてアレクサンダー・シェリーが音楽監督に就任。これまで95回以上のツアーを行い、カナダ国内120都市、海外では20カ国138都市を訪れた。

【国立カナダナショナル管弦楽団 2025年 来日公演】

東京公演: 2025年6月3日(火)19:00開演 @サントリーホール
三重公演: 2025年6月5日(木)19:00開演 @三重県文化会館
大阪公演: 2025年6月7日(土)14:00開演 @ザ・シンフォニーホール
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◇クラシック音楽◇NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー(アレクサンドル・タロー ピアノ・リサイタル)

2025-04-22 09:37:23 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー



<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>




~アレクサンドル・タロー ピアノ・リサイタル~



①バッハ(アレクサンドル・タロー:編曲):

  ヨハネ受難曲 BWV245から「主よ、わが主よ」
  フルートとチェンバロのためのソナタ 変ホ長調 BWV1031から「シチリアーナ」
  組曲 イ短調 BWV818a
  マタイ受難曲 BWV244から「愛によってわが主は死のうとされている」
  リュート組曲 ホ短調 BWV996から
           「プレリュード」「アルマンド」「ブーレ」「サラバンド」「ジーグ」

②ラヴェル:組曲「鏡」

       第1曲 蛾
       第2曲 悲しげな鳥たち
       第3曲 海原の小舟
       第4曲 道化師の朝の歌
       第5曲 鐘の谷

③デュカス(アレクサンドル・タロー:編曲):交響詩「魔法使いの弟子」

ピアノ:アレクサンドル・タロー

収録:2024年12月3日、武蔵野市民文化会館 小ホール

放送:2025年3月24日 午後7:30〜午後9:10


 今夜のNHK-FM「ベストオブクラシック」は、2024年12月3日、武蔵野市民文化会館小ホールで行われた「アレクサンドル・タロー ピアノ・リサイタル」の放送である。このピアノ・リサイタルが他と少々異なるのは、ピアニストのアレクサンドル・タロー自身によるバッハとデュカスの作品の編曲が、アレクサンドル・タロー自身のピアノ演奏で味わえるところ。


 ピアノのアレクサンドル・タロー(1968年生まれ)は、フランス、パリ出身。現代フランスを代表するピアニストの一人。パリ国立高等音楽院卒業。1989年「ARDミュンヘン国際音楽コンクール」第2位となり、以来国際的な演奏活動を展開。CD録音にも力を入れ、特にラモーの「新クラヴサン組曲」は非常に高い評価を得ているほか、ラヴェルのピアノ作品全集は、2003年「アカデミー・シャルル・クロ・グランプリ ディアパソン金賞」を受賞。ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノフェスティバル、BBCプロムス、ルフトハンザ・バロック音楽祭など多くの音楽祭に出演。クープラン、バッハ、スカルラッティからモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ショパン、ブラームス、さらにラフマニノフや20世紀の著名フランス人作曲家にいたる幅広いレパートリーを録音したソロ・アルバムは25枚を超え、そのほとんどが主要音楽専門誌の賞に輝いている。また、演劇制作者、ダンサーなどクラシック音楽以外のジャンルの音楽家たちとのコラボレーションを通じて、多彩な芸術的試みにも挑んでいる。2021年、フランスの音楽大賞「ヴィクトワール・ド・ラ・ミュジーク・クラシック」より、「インターナショナル・ソリスト・オブ・ザ・イヤー賞」受賞。2022年には映画音楽を特集した「シネマ」と題するCDをリリースし、2023年は4手プロジェクトに挑むなど、視野の広い活動を精力的に展開している。


 
 今夜、最初は、バッハの著名な5曲をアレクサンドル・タローが編曲し、そして自らピアノ演奏する。その5曲とは、ヨハネ受難曲 BWV245から「主よ、わが主よ」、フルートとチェンバロのためのソナタ 変ホ長調 BWV1031から「シチリアーナ」、組曲 イ短調 BWV818a、マタイ受難曲 BWV244から「愛によってわが主は死のうとされている」、そしてリュート組曲 ホ短調 BWV996から「プレリュード」「アルマンド」「ブーレ」「サラバンド」「ジーグ」である。いずれもアレクサンドル・タローの編曲者としての才能が存分に発揮されており、今夜の放送は、単なるピアノリサイタルとは、ひと味もふた味も違うものとなった。アレクサンドル・タローは、パリ国立高等音楽院在学中から熱心に編曲に取り組んできたという。その成果の一端が今夜、アレクサンドル・タロー自らの演奏によって紹介されるというから、またと無い機会だ。

 今夜の放送の第1曲ヨハネ受難曲 BWV245から「主よ、わが主よ」と第4曲マタイ受難曲 BWV244から「愛によってわが主は死のうとされている」の2曲の演奏は、繊細で奥深いピアノ演奏に引き付けられると同時に、流麗なピアノの音の流れの中に深く刻まれた信仰心の深さが聴き取れた。第2曲フルートとチェンバロのためのソナタ 変ホ長調 BWV1031から「シチリアーナ」と第3曲組曲 イ短調 BWV818aの演奏は、心が豊かになるようなしみじみとした演奏が印象的であり、伸び伸びした安らぎの中に浸りながら聴くことができた。そして、第5曲リュート組曲 ホ短調 BWV996から「プレリュード」「アルマンド」「ブーレ」「サラバンド」「ジーグ」の演奏は、これまでの演奏とはがらりと変わり、時に劇的であり、時に力強く、時には心優しく、また時に軽快なピアノの響きが心地よく耳に響く。そんなバッハの音楽が現代人である我々の心を掴んで離さない魅力が満載された演奏ではあった。


 今夜、次の曲は、ラヴェル:組曲「鏡」。この曲は、1905年、ラヴェル30歳のときに作曲された5曲からなるピアノのための組曲。各曲が単独で演奏されることもしばしば行われており、とりわけ第4曲「道化師の朝の歌」は演奏の機会が多い。第1曲 蛾、第2曲 悲しげな鳥たち、第3曲 海原の小舟、第4曲 道化師の朝の歌、第5曲 鐘の谷の5曲からなる。第3曲 海原の小舟と第4曲 道化師の朝の歌は、作曲者自身によって管弦楽編曲が行われた。ラヴェル自身は、前者の出来を好んでいたというが、余り評判がよくなかったため封印してし、そのため管弦楽編曲版の出版は彼の死後になってしまったという。

 今夜のラヴェル:組曲「鏡」のアレクサンドル・タローの演奏は、タロー自身がこの曲を「5幕のオペラ作品のようなピアノ組曲」と語っているように、実に表情豊かに5曲のそれぞれの持つ持ち味を最大限に発揮しての演奏となった、第1曲 蛾は、この曲が漂わすどことなく不気味で異様な雰囲気が見事に聴いて取れた。第2曲 悲しげな鳥たちは、何となく不安げな鳥たちの自然描写がリスナーの前にくっきりと鮮やかに再現された。第3曲 海原の小舟は、大海を漂う小舟が、あたかも助けを求めているかのような表現描写をピアノ演奏で的確に表現し、聴いていて十分に満足いくものとなった。第4曲 道化師の朝の歌は、夜通し飲み明かした道化師の朝帰りのふらつく足取りが、軽快なタローのピアノ演奏によって目の前にに浮んでくる。最後の第5曲 鐘の谷は、打って変わって、静寂な谷に響き渡る鐘の音が心に沁み通るような、しみじみとした雰囲気づくりに見事成功した。


 今夜、最後の曲は、デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」をもとに、アレクサンドル・タローが編曲したピアノ独奏版の演奏。この曲は、フランスの作曲家ポール・デュカスが1897年に作曲した管弦楽曲。極度の完璧主義者として知られ、自らが佳作と認めない作品は生前にすべて破棄してしまったデュカスは、わずかに13曲しか作品を遺していないが、この作品はそのうちの1つで、デュカスの最も有名な作品として知られる。ゲーテが、サモサタのルキアノスの詩「嘘好き」に基づき書き上げたバラッド「魔法使いの弟子」をもとにデュカスが管弦楽曲として作曲。同曲は、1940年のウォルト・ディズニーのアニメ映画「ファンタジア」に使用され、知名度が一挙に上がった。

 ゲーテが書いた「魔法使いの弟子」は、老いた魔法使いが若い見習いに雑用を言い残し、自分の工房を旅立つところから物語が始まる。見習いは命じられた水汲みの仕事に飽き飽きして、箒に魔法をかけて自分の仕事の身代わりをさせようとする。結果は、失敗し水で溢れ返ってしまう。もはや洪水のような勢いに手のつけようが無くなったかに見えた瞬間、師匠の魔法使いが戻ってきて、たちまちまじないをかけて急場を救う、という話。デュカスが作曲した管弦楽協をもとにアレクサンドル・タローがピアノ曲に編曲した作品を、タロー自身がピアノ演奏するというから、聴く前から期待が高まる。結果は、予想通り、ピアノ持つ機能を極限までダイナミックに発揮させ、この曲が持つ劇的な要素を余すところなくリスナーの前に披歴した。アレクサンドル・タローはフランスのピアニストであるので、我々は、どうしても繊細さばかり耳が向きがちだが、今夜の演奏は、ピアノの持つダイナミックさを最大限に発揮させた”力強いピアノ演奏”の魅力を、我々の前に思う存分見せつけた演奏となった。<蔵 志津久>
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●クラシック音楽●コンサート情報

2025-04-21 09:54:17 | コンサート情報



<コンサート情報>



~仙台フィルハーモニー管弦楽団 2025年 東京公演~

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op. 73 「皇帝」
マーラー:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

ピアノ:小川典子

指揮:広上淳一

管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団

会場:サントリーホール

日時:2025年5月21日(水) 午後7時

 仙台フィルハーモニー管弦楽団は、「2024-25シーズン定期演奏会 全18公演」を完売するなど、今、地元での人気は上々だ。その仙台フィルは、2019年から年1回東京公演を開催しているが、2025年は、広上淳一の指揮、小川典子のピアノで開催する。

 仙台フィルハーモニー管弦楽団は、1973年3月、「地元にオーケストラを」との要望で音楽人が集結、市民オーケストラ「宮城フィルハーモニー管弦楽団」が創設されたのに始まる。1975年に設立された「宮城フィルハーモニー協会」の社団法人化に伴い、1978年6月、本格的なプロのオーケストラとしての活動が開始される。1983年、音楽総監督に芥川也寸志を迎えてから(1983年~1989年)飛躍的な発展を遂げ、その変貌ぶりは日本の他のオーケストラからも注目を集めた。「真のローカリティこそが世界に通用する」という芥川の言葉は、オーケストラの歩むべき道を示した。それは現在の仙台フィルにも受け継がれている。1989年4月、仙台市の政令指定都市移行を機に、本拠地の都市名を冠した「仙台フィルハーモニー管弦楽団」と改称。芥川の没後、音楽監督に外山雄三が就任した(1989年~2006年)。1992年には、仙台市、宮城県、民間からの拠出により財団法人仙台フィルハーモニー管弦楽団を設立。2000年3月には初の海外公演として、オーストリア及びイタリアで5公演を行い、各地で高い評価を得た。2011年3月26日に第1回「東日本大震災復興コンサート」を実施。現在、市民に愛されるオーケストラとして着実な歩みを続けている。現在の指揮者陣は、常任指揮者:高関 健、指揮者:太田 弦、桂冠指揮者:パスカル・ヴェロ。

 ピアノの小川典子(1962年生まれ)は神奈川県川崎市出身。ジュリアード音楽院で学ぶ。1987年「リーズ国際ピアノ・コンクール」第3位。以後、1982年にニューヨーク、1988年にロンドンにそれぞれデビューするなど、国際的な演奏活動を開始。1997年からは、スウェーデンのクラシック音楽レーベルであるBISレコードの専属レコーディングアーティストとなっなる。2001年よりイギリス人ピアニストのキャスリン・ストットとピアノ・デュオを組む。武満徹とは関係が深く、2008年にはBBCワールドワイドのクラシック音楽番組「ビジョナリー」に出演し、武満の音楽を紹介。2011年にはクロード・ドビュッシー全曲集のレコーディングを完成。ドビュッシーのディスクは武満の録音と同様、「グラモフォン」誌の特選盤に選出。1999年文化庁「芸術選奨文部大臣新人賞」受賞、2003年第5回「ホテルオークラ音楽賞」受賞。2006年「川崎市文化賞」受賞。2018年第10回「浜松国際ピアノコンクール」審査委員長。英ギルドホール音楽院教授、東京音楽大学客員教授。

 指揮の広上淳一(1958年生れ)は、東京都出身。1984年第1回「キリル・コンドラシン国際青年指揮者コンクール」優勝。1991年~2000年日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者。1994年度「渡邉暁雄音楽基金音楽賞」受賞。2008年京都市交響楽団常任指揮者就任(2014年より常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザー)。2015年広上淳一が常任指揮者に就任してからの京都市交響楽団は驚異的な能力の向上を遂げたとして、京都市交響楽団とともに第46回(2014年度)「サントリー音楽賞」を受賞。2016年第36回「NHK交響楽団 有馬賞」受賞。2020年京都コンサートホール館長に就任。2021年日本フィルハーモニー交響楽団のフレンド・オブ・JPO(芸術顧問)に就任。2022年オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のアーティスティック・リーダーに就任。2024年令和6年度(第75回)文化庁「芸術選奨」芸術振興部門大臣賞受賞。現在、東京音楽大学指揮科教授として教育活動にも情熱を注いでいる。
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