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★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇アシュケナージ/N響のベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/第4番(ライヴ盤)

2011-05-31 09:53:27 | 交響曲(ベートーヴェン)

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」
         交響曲第4番

指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

管弦楽:NHK交響楽団

CD:EXTON OVCL‐00201

 ウラディーミル・アシュケナージの名を聞くと、私などは反射的にピアニストを連想してしまう。しかし、どうも今は指揮者としての存在感が圧倒的に強くなっているようだ。名ピアニストが名指揮者になったことは、あるようでそんなには多くないのではないかと思う。どちらかというとヴァイオリニストが指揮者に転向するケースの方が多いのではないだろうか。オーケストラは弦楽器が中心で、ピアノはピアノ協奏曲のときだけだ。それにヴァイオリニストは何か協調性がありそうだし(実際はどうか知らないが)、一方、ピアニストというと何か一人でクラシック音楽の頂点を極めるのを使命としているような印象が強いのである。そんな中にあって今のアシュケナージは、現在の活動の中心を指揮者に置いている。これまで、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督、ベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、NHK交響楽団音楽監督を歴任し、現在、EUユース管弦楽団音楽監督、シドニー交響楽団音楽監督の任にあり、そしてNHK交響楽団音楽監督退任後の2007年からは、同楽団の桂冠指揮者に地位に就いている。

 アシュケナージは、1937年旧ソ連のゴーリキーに生まれている。ピアニストとしての経歴は、誠に輝かしいものがある。1955年、ショパン国際ピアノコンクールで第2位。同年、モスクワ音楽院に入学。1956年、エリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝。1962年、チャイコフスキー国際コンクールで優勝(ジョン・オグドンと優勝を分け合う)。一人のピアニストがこれらのコンクールの一つだけでも入賞できれば賞賛されるところを、アシュケナージは3つの大きな国際コンクールで優勝あるいは2位入賞を果たしたのだから只のピアニストでないことが分ろうというもの。ここまでは、順風満帆といおうか、アシュケナージは飛ぶ鳥を落とす勢いのピアニストであったわけである。この頃のアシュケナージの名声は、日本にも轟き渡っていたことを思い起こす。しかし、好事魔多しといおうか、1963年、実質的な亡命に当るロンドン移住をアシュケナージは敢行してしまうのだ。アシュケナージは、時の旧ソ連政府の全体主義的政治体制に激しく反対していたようだ(アシュケナージの叔父さんが旧ソ連政府の犠牲者となったことなども強く影響しているのであろう)。現在は、妻の母国アイスランドの国籍を持ち、スイスに居を構えている。日本へは、1965年以来たびたび来日し、現在NHK交響楽団の桂冠指揮者であると同時に、2010年には、洗足学園音楽大学の名誉客員教授にも就任していることからも、日本との相性の良さが感じられる。

 このCDは、そんなアシュケナージが、NHK交響楽団の音楽監督就任記念として、2004年10月に東京・サントリーホールにおいて開催されたコンサートのライヴ録音盤で、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」と交響曲第4番の2曲が収められている。結論から先に言うと、交響曲第5番「運命」は、アシュケナージとN響の息がぴたりとあった名演となっている。多分、今、N響のメンバーがこの録音を聴き直しても満足が行くのではないか、とすら思える。私などは、一寸フリッチャイとベルリンフィルのコンビを思い起こしたほどである。一方、交響曲第4番の方は、新しいN響の可能性をアシュケナージが引き出すことに成功していると思う。それでは「運命」から聴いてみよう。第1楽章は、緊張化に満ちていてテンポも申し分ない。聴いていて素直にベートーヴェンの世界に入り込めるし、凝縮感もたっぷりある。しかし、不要な堅苦しさは微塵も感じられない。しかも、ベートーヴェンでしか味わえない力強さは存分に味わうことができる。久しぶりに爽快な「運命」の第1楽章を聴くことができた。満足!。第2楽章は、アシュケナージの緻密な指揮の良い点が表出したように思え、N響もその指揮にぴたりと寄り添い何とも伸び伸びとした心地よい響きを聴かせてくれている。

 「運命」の第3楽章は、ベートーヴェンらしい雰囲気の演出が光る。弦と管と打の間のバランスも適切であるし、音楽自体がよく走っており、生き生きした表現だ。そして第4楽章に雪崩れ込む。ここでアシュケナージとN響の息がぴたりとあっており、一部の隙もない演奏を繰り広げる。過度に誇張した表現は極力避ける。しかし、全体の響きは大きく広がり、ベートーヴェンの意図した力強さがかえって強調されている結果になったようにも思われる。このアシュケナージとN響のライヴ録音は、いたずらに力むことなく、ベートーヴェンの交響曲の持つ偉大さを改めて認識させられるという点において、他の演奏を一歩抜きん出ているように私には聴こえた。交響曲第4番の方は、アシュケナージとN響は、「運命」より一層自由に演奏しているようにも思う。弦と管のやり取りは何か会話でもしているようい面白く、軽快な足取りは聴いていて小気味よい。私は、この第4交響曲の伸び伸びとした、大らかなところが昔から大好きなのであるが、そんな雰囲気を、ある意味では茶目っ気たっぷりと言っていいほどに、アシュケナージとN響は表現していて、聴いていて大いに楽しめる。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2011-05-30 11:36:18 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

    東京ニ期会オペラ劇場
~二期会創立60周年記念公演~

プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」(全3幕・原語(イタリア語)上演・字幕付)
 
指揮:ジャンルイジ・ジェルメッティ

管弦楽:読売日本交響楽団 

演出:粟國 淳 

トゥーランドット姫 :横山恵子
カラフ(王子):福井敬
リュウ(ティムールに仕える奴隷):日比野幸
皇帝アルトゥム :田口興輔
ティムール(退位したタタール王):佐藤泰弘
ピン(大臣):萩原潤
パン(大臣):大川信之
ポン(大臣):村上公太
役人:小林昭裕 他  (以上7月6日/9日)
 
合唱:二期会合唱団

会場:東京文化会館

日時:2011年7月6日(水)   午後6時30分
          7月7日(木)  午後2時
          7月9日(土)  午後2時
          7月10日(日) 午後2時

 プチーニが遺した壮大なオペラ「トゥーランドット」。豪華絢爛な舞台、迫力の群集、圧倒的な音楽に溢れる“伝説の時代”へのタイムスリップ。「誰も寝てはならぬ」「氷のような姫君の心も」など、有名アリアの数々で紡ぐ愛の物語を、指揮:ジャンルイジ・ジェルメッティ、管弦楽:読売日本交響楽団、演出:粟國 淳の下、二期会創立60周年記念公演として開催する。 

 

 

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◇クラシック音楽CD◇シゲティとバルトークのライヴ録音盤 ベートーヴェン:「クロイツェルソナタ」他

2011-05-27 11:24:46 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」
バルトーク:ヴァイオリンとピアノのためのラプソディ第1番
ドビュッシー:ヴァイオリンソナタ
バルトーク:ヴァイオリンソナタ第2番

ヴァイオリン:ヨゼフ・シゲティ

ピアノ:ベラ・バルトーク

CD:VANGUARD CLASSICS 08 8008 71

 今回のCDは、ヴァイオリン:ヨゼフ・シゲティとピアノ:ベラ・バルトークの夢の競演による歴史的録音の1枚である。少々オーバーかもしれないが、この歴史的名盤を聴くとクラシック音楽とは何かということが自ずと分ってくるような奥深い表現に釘付けになるし、同時に聴いていて自然に曲の本質に迫ることもできる分り易い表現に思わず引き付けられる。このためこの1枚のCDの全ての曲を聴き終えても、ほんの一瞬といった感じだ。これはバルトークがアメリカに移住(亡命)した年の、歓迎演奏会といった意味を合いを持つもので、1940年にワシントンの国立図書館でアセテート盤(78rpm)にライヴ録音されたものをマスターとしているため、音質は現在のレベルとは比較にならないが、それでも決して聴きづらいというほどでもない。この音質を考えるとクラシック音楽リスナーのビギナー層に勧めるには少々気が引けるが、意欲的なジュニア層には聴いてほしいし、シニア層でまだ聴いておられない方がいれば是非聴いてほしい名盤なのだ。特に「クロイツェルソナタ」は傑出した演奏で、シゲティ&バルトークのこのライヴ録音を聴かずしてベートーヴェンの「クロイツェルソナタ」を語るべからず、とすら思えてくるほど。

 ヴァイオリンのヨゼフ・シゲティ(1892年―1973年)は、ハンガリー出身の世界的な名ヴァイオリニスト。ブタペストのユダヤ系家系に生まれ、ブタペスト音楽院に学ぶ。1913年にはヨーロッパツアーを行い、その名声はヨーロッパ中に広まり、1917年には、ジュネーヴ音楽院で後進の指導にも当っている。シゲティのヴァイオリン演奏は、例えばグリュミオーなどのような華麗な奏法とは一線を画し、表面的な表現には無頓着のようにも見える、ある意味では無骨とさえ思えるような表現に終始する。私なども最初は、そんなシゲティのヴァイオリン奏法に抵抗を感じたが、よく聴いてみると、その無骨とも思える表現の奥には、その曲の持つ本質的な要素が如何なく発揮されており、聴き終えた後は充実感に酔いしれることができる。要するにシゲティのヴァイオリンの演奏は、表面的な音の美感を追求するよりも、その曲が根源的に持っている美しさや力強さを聴くものに強く印象付けるのである。だから、一度シゲティのヴァイオリン演奏の魅力に嵌るとなかなか抜け出せないし、シゲティに代わり得るヴァイオリニストも見当たらない。このことがシゲティが現在でも評価されている根源、と言っても過言ではなかろう。

  ベラ・バルトーク(1881年―1945年)は、ハンガリー出身の作曲家で特に民俗音楽の研究者としても名高い。同時にフランツ・リストの弟子から教えを受けたピアニストでもあった。このCDでは、シゲティの伴奏者として、そのピアニストとしての確かな腕を披露しているのに驚かされる。この技量を持ってすれば、ピアニストとしても充分に独立していけるし、多分ピアニストとしての道を歩んでいたなら世界的なピアニストとしての道も開けたのではなかろうか。このCDでは、そんな思いにさせられるほどの卓越したピアノ伴奏を聴かせてくれている。バルトークは、第二次大戦が勃発すると、ナチの影響で次第に政治的に硬直化していくハンガリーに失望し、1940年、米国への移住(亡命)を実行する。しかし、1943年白血病を発病し、このため1945年9月26日に64歳で帰らぬ人となる。このCDは、1940年にバルトークが米国に移住直後に行われたもので、ワシントンの国立図書館で行われた演奏会をライヴ録音した貴重なもの。そこには、シゲティとバルトークの二人の並々ならぬ才能がしっかりと記録されていたのである。

 このCDでの白眉は何といってもベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェルソナタ」である。シゲティの激しく曲の核心をつく弓の動きは、録音の古さを超えて、現在聴いても他に比肩するものがないほどの高みに達している。そして、バルトークがシゲティに一歩も譲らないほどの意気込みのピアノ伴奏を聴かせる。何か米国という新天地に移住して、新たな希望が目の前に浮かんでいたのではなかろうか。第1楽章から第3楽章まで全てが緊張感ある演奏に終始しているので、聴き応えは充分すぎるほどある。これはライヴ演奏の醍醐味ということに尽きよう。第2楽章のアンダンテも単なる安らぎというより、新しい希望に向かってのエネルギーが内包されているようで、誠にテンションが高いことが実感できる。この頃は多分、バルトークも自身の白血病の予兆はなかったのではなかろうか。このCDに収められた録音の中で、次に特筆されるのは、バルトーク:ヴァイオリンソナタ第2番だ。曲は2つの楽章からなる20分に満たない短いソナタではあるが、凝縮度はかなりのもので、バルトークの作曲のエキスがぎゅっと濃縮された感じがして、説得力に満ちたその曲想には圧倒されるものがある。そんな曲をシゲティとバルトークが、しっとりとした感覚で実に緻密に演奏しており、聴いた後の充実感は相当なものだ。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2011-05-26 11:32:30 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

~漆原啓子デビュー30周年記念ヴァイオリン・リサイタル~
 <東日本大震災復興支援チャリティー>

シューベルト:デュオソナタD574ADur 
ブラームス:ヴァイオリンソナタ3番
ストラヴィンスキー:イタリア組曲 ほか 

ヴァイオリン:漆原啓子

ピアノ:有馬みどり

会場:兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院 小ホール

日時:2011年7月10日(日) 午後2時

 ヴァイオリンの漆原啓子は、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校在学中の1981年、第8回ヴィエニアフスキ国際ヴァイオリン・コンクールで最年少18歳で日本人初の第1位を獲得した。1982年、東京藝術大学に入学。以後、常に第一線で活躍を続け、安定した高水準の演奏は音楽ファンのみならず、指揮者、オーケストラ・メンバー等の音楽家の間でも非常に高い信頼を得ている。東京藝術大学を経て、現在は国立音楽大学客員教授として後進の指導にも力を注いでいる。今回のコンサートでは、1667年製のストラディヴァリウスが同ホールでどう鳴り響くかも興味が引かれるところ。なお、今回のリサイタルの売り上げの50%を、東日本大震災の被災者の皆様へ寄付することにしている。

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2011-05-25 12:35:05 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

~メトロポリタン・オペラ(Met)2011年日本公演~

プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」

指揮:ファビオ・ルイジ

(当初予定の音楽監督ジェイムズ・レヴァインが体調不良のため、日本公演を降板することになり、代わってメトロポリタン・オペラ首席客演指揮者のファビオ・ルイジが代役を務める)

演出:フランコ・ゼッフィレッリ

ミミ=ソプラノ:アンナ・ネトレプコ
ムゼッタ=ソプラノ:スザンナ・フィリップス
ロドルフォ=テノール:ピョートル・ベチャワ/ジョセフ・カレーヤ 他

会場:NHKホール

日時:2011年6月8日(水)/11日(土)/17日(金)/19日(日)
  午後7時(11日は午後3時)

 世界最高峰の舞台のメトロポリタン・オペラが、2011年6月に5年ぶり7回目の来日を果たす。これは前回の来日公演(2006年)中からプランニングを行ったもので、”メトロポリタン・オペラ(Met)=ドリーム・オペラ”の名にふさわしいキャストが実現。アンナ・ネトレプコ、ディミトリ・ホロストフスキー、ルネ・パーペなど2006年公演でも絶賛された歌手たちが再び出演する他、バルバラ・フリットリなどのMetの常連歌手たち、ヨーロッパではすでに人気のディアナ・ダムラウなどが出演する予定となっている。なお、今回のメトロポリタン・オペラ日本公演では、東日本大震災への義援金として、東京公演のチケット売上げの一部を日本赤十字社を通じて被災地へ送る。

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◇クラシック音楽CD◇ムター&トロンハイム・ソロイスツのヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」

2011-05-24 11:26:57 | 古楽

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」
         「悪魔のトリル」

ヴァイオリン&指揮:アンネ=ゾフィー・ムター

弦楽合奏:トロンハイム・ソロイスツ

CD:ユニバーサル ミュージック UCCG‐50075

 ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「四季」ほど、日本のリスナーに愛されているバロック音楽は他にあるまい。クラシック音楽ファンは言うに及ばず、クラシック音楽を聴く機会が少ない人々にまでその名は知れ渡っている。この理由の一つは、「四季」という表題が(ヴィヴァルディが付けたものではないようであるが)、日本人なら誰でもぐっとくるネーミングであるからだろう。日本のいい所を日本人に挙げさせると、必ず「四季があること」という項目が入ってくる。古来、万葉の頃から日本人は、四季の移り変わりに敏感に反応し和歌などに詠み連ねてきた。一般にバロック音楽というと、多くの日本人にとっては、理解し難い宗教色の印象が濃く、ともすると敬遠気味となる。ところが、ヴィヴァルディの「四季」だけは、日本人の感覚で捉えることができるので、理屈を超えて良い印象を持つようだ。ヴィヴァルディの「四季」を聴いて、クラシック音楽ファンになった人も少なくないはずだ。それに、曲の身の丈も日本人に合っているように思う。何かしら日本古来の古楽にも似て、こじんまりとしたまとまり感が、これまた日本人向きだ。

 そんなことで、これまでどれほど多くのヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」が発売されて来たことであろうか。その中には名盤も数多く、その中から1枚を選ぶのは至難の技だ。そこで今回は、思い切って“ヴァイオリンの女王”ことアンネ=ゾフィー・ムターがヴァイオリン&指揮と指揮をし、弦楽合奏がトロンハイム・ソロイスツの盤を聴いてみたい。このトロンハイム・ソロイスツは、1988年に結成された若手17人からなるノルウェーのアンサンブルである。しかもこれはライヴ録音というから珍しい。曲の性格上、「四季」の演奏は、完璧に弾き込んだ方が、より曲の真髄に迫ることができそうな感じがして、一般にはスタジオ録音盤の方を勧めたい、とは思う。しかし逆にいうと、ムターの最近の円熟味を、切れ味がいいライヴでの一発勝負が聴けるところがこの盤の最大の売りなのだ。聴いてみると、ムターの感受性豊かなヴァイオリン&指揮が実に新鮮であり、そのムターが意図する「四季」を必死になって再現しようとしている、トロンハイム・ソロイスツの若き弦の響きがこれまた新鮮で、従来の「四季」の古色悄然としたイメージ(言い過ぎか)を一新した快演といってもいいのではなかろうか。

 第1協奏曲「春」。第1楽章は、極普通のテンポで始まる。ムターはただいたずらに自分の表現を強調するより、ヴィヴァルディの豊かな感受性を大事にして演奏するが、その演奏内容は、限りなくまろやかで思わず聴いていても笑顔がこぼれるといった感もして、納得のいく演奏。第2楽章は、微妙なニュアンスを巧みに演出しており、ムターの感性が一挙に顔を覗かせる。繊細でしかもゆったりとした雰囲気に思わず聴き惚れる。第3楽章は、トロンハイム・ソロイスツの若々しいアンサンブルを心ゆくまで堪能できる。少々未熟な響きのようにも聴こえるがそこは若さでカバーといったところか。第2協奏曲「夏」の第1楽章は、周到に準備された弦の響きが誠に美しく、リスナーの心に直接強いインパクトを与えるのに成功しているようだ。第2楽章は、稲妻と雷の表現のライヴ独特の生なましさがいい。「四季」のライヴの良さを実感できる。第3楽章の迫力はムターならではでの個性溢れるものに仕上がって聴き応えたっぷり。

 第3協奏曲「秋」の第1楽章は、ヴィヴァルディの「四季」の代名詞みたいな楽章であるが、ムター&トロンハイム・ソロイスツのコンビは、「四季」をバロック音楽としてではなく、現代にも通用する感覚で演奏するので、思わず聴いていて手に汗握るというとオーバーであるが、もうバロック音楽を越えて、ヴィヴァルディが現代に蘇ったような素晴らしい演奏を聴かせてくれる。第2楽章は、一転して緩やかで幽玄の趣いっぱいの楽章だが、ムター&トロンハイム・ソロイスツはさらりと表現してそつがない。第3楽章は、「狩り」の音楽だそうであるが、ここではムターのヴァイオリンが俄然本性を現して迫力充分。第4協奏曲は「冬」。第1楽章は、寒さで凍える表現がライヴならではの鋭い表現となっており、聴いていて十分の満足感が得られる。ムターとトロンハイム・ソロイスツの息がぴたりと合っているところも聴きどころ。第2楽章。この楽章だけ聴いても「四季」はいいなと感ぜられるほどの名曲。ムターのヴァイオリンも夢見るように美しいメロディーを奏でる。ここでも現代的な「四季」となっており、自然体で聴くことができる。そして、最後の第3楽章に入っていくが、ムター&トロンハイム・ソロイスツは、あたかも思いのたけをぶつけるように情熱的な演奏に終始する。最後は陰影が強調されたライヴのいいところが前面に押し出された演奏で終わる。(蔵 志津久) 

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2011-05-23 11:29:33 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

~テノール 福井敬 春に歌う。~

宵待草
かやの木山
初恋
悲しくなったときは

テノール:福井敬

ピアノ:谷池重紬子

会場:サントリーホール

日時:2011年28日(土) 午後2時

 テノールの福井敬は、岩手県出身。国立音楽大学声楽科・同大学大学院を修了。1990・1994年文化庁派遣芸術家在外研修員等によりイタリアに留学。1989年にイタリア声楽コンコルソでミラノ大賞(1位)を受賞。1992年ジロー・オペラ賞新人賞、1993年五島記念文化賞オペラ新人賞、1994年には芸術選奨新人賞を受賞。現在、東京藝術大学非常勤講師、国立音楽大学准教授。2011年2月には、日本の歌を集めたCD「悲しくなったときは 福井敬、日本を歌う。」をリリースした。

 ピアノの谷池重紬子は、武蔵野音楽大学を卒業後、二期会のピアニストとなり、伴奏者として高い評価を得ている。現在、新国立オペラ研修所で伴奏者兼コレペティトールとしても活躍している。

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◇クラシック音楽CD◇隠れた名品室内楽2曲―スヴェンセン:弦楽八重奏曲とニールセン:弦楽五重奏曲

2011-05-20 09:43:29 | 室内楽曲

ヨハン・スヴェンセン:弦楽八重奏曲/ヴァイオリンと弦楽のためのロマンス

カール・ニールセン:弦楽五重奏曲

弦楽合奏:アカデミー室内管弦楽団

CD:独Chandos Records CHAN 9258

 今回はノルウエーとデンマーク出身の2人の作曲家の、あまり演奏されないが、内容の充実さではピカイチの3つの作品を聴いてみたい。我々クラシック音楽のリスナーは、ドイツ・オーストリア系、フランス系、イタリア系などの作曲家の作品を中心に聴いてきたし、多分これからもこの傾向はそう大きな変化はないだろう。せいぜい国民楽派といわれるドヴォルザークやスメタナ、グリーグさらにはシベリウスが付け加わるぐらいなのではないか。現在、コンサートで演奏されたりFMラジオで放送される曲は、これらの決まりきった曲に限定されてしまっている。これは商業政策上仕方ないことと言われれば身も蓋もないが、これでは、リスナーの音楽鑑賞人生を自ら狭めていることに繋がりかねない。そんな中、2008年から大阪交響楽団の音楽監督に就任した児玉宏が「日本で馴染みの薄い作品を積極的に取り上げる」という方針を打ち出し、聴衆から好評だという話を聞き、私などはわが意を得たりとばかり一人喜んでいるのである。

 ただ、ここで注意しなければならないのは、重箱の隅を突っつくようなマイナーな曲を探し出して来ては、「どうだ、この曲は知らないだろう」とばかり珍曲を紹介するケースである。特に最近のFM放送にこれが多いので注意が肝要だ。要は、優れた曲であっても忘れ去られてしまった曲をどう発掘し、蘇らせるかが重要なのである。その意味で、今回のスヴェンセンやニールセンは、聴く価値のある作品を残しているのであるが、どうも聴く機会に恵まれない作曲家だ。ヨハン・スヴェンセン(1840年―1911年)は、ノルウェーの作曲者であるが、主にデンマークのコペンハーゲンで活躍した。グリーグを友とし、交響曲をはじめとした大規模な曲を得意としていたようだが、スヴェンセンの曲で、我々が現在よく耳にする曲といえば、このCDでも収録されている「ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス」ぐらいであろう。今回特に紹介したいのは、「弦楽八重奏曲」である。この曲でスヴェンセンは幅広い支持を受け、名声を得る切っ掛けとなった曲のようだ。どことなくブラームスの弦楽六重奏曲第2番を思い出させるような、弦の響きがとても豊穣な佳品である。もっともっと聴かれてしかるべき作品だと私などは思う。

 もう一人は、デンマークの作曲家のカール・ニールセン(1865年―1931年)である。生まれは、シベリウスと同じ年だそうである。スヴェンセン同様、交響曲や協奏曲を得意としていたようである。デンマークでは広く知られた国民的作曲家であるが、果たして、わが国ではどれほど知られているのか、今ひとつ分らない。1908年、スヴェンセンが王立劇場楽長を引退した後、その後を引き継いだのがニールセンであり、ニールセンはスヴェンセンから大きな影響を受けたようだ。死の年に王立コペンハーゲン音楽院の院長に就任している。今回、紹介する曲は弦楽五重奏曲。よく聴くとスヴェンセンの弦楽八重奏曲に似ている感じもしないではないが、弦楽の豊かな響きが、聴くものを魅了して止まない曲となっている。ここで演奏しているアカデミー室内アンサンブルが、実に見事な弦の響きを聴かせている。ロンドンでネヴィル・マリナーがアカデミー室内管弦楽団を創立し、1959年に最初の演奏会を行なったのが始まり。マリナーの音づくりは実に優美であり、その伝統が現在に受け継がれ、スヴェンセンとニールセンの弦の室内楽を聴くのに最良の条件を整えている。

 スヴェンセンの弦楽八重奏曲は、全部で4つの楽章からなり、30分を超える堂々とした室内楽曲である。ブラームスの弦楽六重奏曲第2番を思い出させるような、と書いたが、弦の響きがそれは豊かであり、ブラームスの弦楽六重奏曲が好きなリスナーならきっと大好きになる曲だと思う。私が中でも白眉と感じるのがアンダンテ・ソステヌートの第3楽章。この楽章は、春か秋の草原を想起させるような、清々しさに加え、ドヴォルザークの曲のような哀愁に満ちた表現を聴くと、何故この曲はもっと広く演奏されないのか、不思議に思えてくるほどである。この第3楽章だけ取っても単独に演奏されれば、リスナーが十分に満足するすること請け合いだ。次のスヴェンセンの「ロマンス」は有名な曲で、時々オムニバス盤で取り上げられることがある。改めて聴くと成る程、情緒満点のところが特に日本人向きかもしれないと思う。ニールセンの弦楽五重奏曲は、どことなくスヴェンセンの弦楽八重奏曲を思い起こさせるが、これも堂々とした室内楽である。私は、特にアダージョの第2楽章が気に入った。何か幽玄とした面持ちは、ドビュッシーの弦楽四重奏を思い起こさせる。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2011-05-19 11:25:37 | コンサート情報

 

<コンサート情報>


~第9回 ストラディヴァリウス サミット・コンサート2011~

モーツァルト:ディヴェルティメント ヘ長調 KV138
バーバー:弦楽のためのアダージョ op.11
スーク:弦楽のためのセレナーデ 変ホ長調 op.6
シューベルト: 5つのメヌエットと6つのトリオ D89
チャイコフスキー:弦楽のためのセレナーデ ハ長調 op.48

弦楽合奏:ベルリン・フィルハーモニック・ストラディヴァリ・ソロイスツ

会場:サントリーホール

日時:2011年5月30日(月) 午後7時

 ストラディヴァリウスの幻のヴィオラ「マーラー」をはじめ、ストラド11台など、ストラディヴァリウスの名器が集うのがこのコンサート。ベルリン・フィルハーモニック・ストラディヴァリ・ソロイスツは、ベルリン・フィルのメンバーを中心にした弦楽アンサンブルで、現在、望みうる最高の演奏者揃い。1993年、「サミットコンサート」開催に際して結成され、以来、2年ごとの来日コンサートにすべて出演し、絶賛を博している。1999年、ベルリン・フィルから、その名称を冠したアンサンブルとして公認されている。

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2011-05-17 11:21:07 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

~2010年仙台国際音楽コンクール2位のヴァイオリニスト アンドレイ・バラーノフ来日公演~

サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
チャイコフスキー:ワルツ・スケルツォ
ヴィエニャフスキ:ポロネーズ/「ファウスト」による華麗なる幻想曲
ガーシュイン(ハイフェッツ編):歌劇「ポギーとベス」より5つの小品

フランク:ヴァイオリン・ソナタ
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第3番
ショスタコーヴィチ:4つの前奏曲
(以上曲目は予定)              

会場・日時:2011年7月20日(水)  東京  ムジカーザ
            7月21日(木)  名古屋  宗次ホール
            7月22日(金)   浜松   静岡文化芸術大学
            7月23日(土)   東京   未定
            7月24日(日)   上田   中澤ホール

ヴァイオリン:アンドレイ・バラーノフ

ピアノ:青木美樹

 ヴァイオリンのアンドレイ・バラーノフは、1986年サンクトペテルスベルグの音楽一家に生まれ、5歳よりヴァイオリンを学ぶ。サンクトペテルスベルグ国立音楽院付属音楽学校を経て2009年に同音楽院卒業。その後ローザンヌ音楽院にて研鑽を積む。2008年、ブリテン国際ヴァイオリンコンクール(ロンドン)およびマルトー国際ヴァイオリンコンクール(ドイツ)に優勝、2010年、仙台国際音楽コンクール第2位、パガニーニ・モスクワ国際ヴァイオリンコンクール第2位、など数々の国際コンクールで輝かしい入賞歴を持つ。これまで2枚のCDがリリースされている。現在、世界各地での演奏活動のほかローザンヌ音学院で恩師ピエール・アモイヤル氏のアシスタントを務める。

 ピアニスト青木美樹は、現在スイスに在住。東京で生まれ、9歳で渡英。12歳で、ナショナル・フィルハーモニー・ーケストラとのロンドンのフェステバルホールでの共演でデビュー。ロンドン、パーセルスクール卒業後、渡米。インディアナ大学、イェール大学大学院卒業。さらに、ドイツ・ハンブルグ音楽大学国家演奏家コースを首席で卒業。2004年イタリア、イブラ国際コンクール入賞、さらにドビッシー特別賞などを受賞。室内楽奏者、伴奏者としても高く評価され、毎年ザルツブルグモーツァルテウム・サマーアカデミーの公式伴奏者として招待される。現在、様々な音楽活動のほか、ローザンヌ音楽大学のアモイアル氏のヴァイオリンクラスの伴奏を担当。

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