★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇アンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のブルックナー:交響曲第3番「ワーグナー」/ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲

2019-02-12 09:31:58 | 交響曲

ブルックナー:交響曲第3番「ワーグナー」
ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲

指揮:アンドリス・ネルソンス

管弦楽:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

録音:2016年6月

CD:ユニバーサルミュージック UCCG-1766

 指揮のアンドリス・ネルソンス(1978年生まれ)は、ラトヴィア、リガ出身。12歳の時からトランペットを学び、ラトヴィア国立歌劇場管弦楽団のトランペット奏者となる。その後サンクトペテルブルクで指揮を学ぶ。オスロ・フィルハーモニー管弦楽団で緊急のトランペット奏者の代役を務めた時にマリス・ヤンソンスの目に留まり、2002年から指揮を学ぶことになった。2003年ラトヴィア国立歌劇場音楽監督に就任。2006年北ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者に就任。2008年バーミンガム市交響楽団音楽監督に就任。2010年バイロイト音楽祭に「ローエングリン」を指揮してデビューを果たす。2014年ボストン交響楽団の音楽監督に就任(2022年まで)。2016年ボストン交響楽団を指揮してドイツ・グラモフォンに録音したショスタコーヴィチの交響曲第10番、パッサカリアが「グラミー賞」の「最優秀オーケストラ録音賞」を獲得した。2017年ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター(楽長)に就任。

 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は、ドイツ、ライプツィヒに本拠を置くオーケストラで、1743年世界初の市民階級による自主経営オーケストラとして発足。それまでの宮廷専属オーケストラと異なり、このオーケストラの誕生で、自らの城や宮殿などを演奏会場として音楽を聞いていた王侯貴族のような身分・階級でなくとも、入場料さえ払えば誰でもオーケストラ演奏を聴っけるようになった。 1835年メンデルスゾーンがカペルマイスター(楽長)になると、技術的でも待遇面でも、より基盤が固まり大きく飛躍する。この伝統のあるオーケストラは、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス、ブルックナーをはじめ、多くの作曲家の作品を初演してきたことでも知られる。ライプツィヒ歌劇場のオーケストラも兼ねている。最近のカペルマイスターは次の通り。フランツ・コンヴィチュニー(1949 - 1962)、ヴァーツラフ・ノイマン(1964 - 1968)、クルト・マズア(1970 - 1996)、ヘルベルト・ブロムシュテット(1998 - 2005)、リッカルド・シャイー(2005 - 2016)、そして現在のアンドリス・ネルソンス(2018 -)と続く。

 2018年からカペルマイスターを務めるネルソンスが、ゲヴァントハウスとブルックナー録音を開始したが、その第1弾となるのがこのCDで、ブルックナーが敬愛するワーグナーに献呈した交響曲第3番とワーグナーの歌劇「タンホイザー」が収録されている。  ブルックナーは、1873年の夏に、ほぼ完成していたこの交響曲第3番と完成済みの交響曲第2番とを携え、敬愛するワーグナーのもとを訪れた。これに対し、ワーグナーは、第3番の方を評価したため、ブルックナーは第3番をワーグナーに献呈すすることにした。このことによって、この交響曲は“ワーグナー交響曲”と呼ばれるようになったわけである。最初、初演をウィーン・フィルに依頼したが、拒否されてしまった。初稿は、ワーグナー作品からの様々な引用がなされたいたが、これを改め、ワーグナー作品の引用の大部分が削除され、大幅に短縮・削除されて第2稿が完成した。初演は1877年12月16日にブルックナーの指揮で行われたが、これが大失敗に終わってしまった。当時の様子を記したものには、終楽章の前から、また途中から聴衆が群れを成して退室し始め、最後まで残ったのは7人のみという有様であった、とある。もっとも、これは当日の演奏曲目が多かったのに加え、ブルックナーの指揮の不慣れなことも要因となったようである。これででくじけないのがブルックナーらしいところで、早速さらなる改訂版の作製に着手することになる。 

  そして、10年余りがたった1888年3月に、第2稿をさらに切り詰め、整理された第3稿の完成に至った。この第3稿の初演はウィーン・フィルが行い、今度は、大成功を収めた。このCDには、第3稿をもとにしてつくられたノヴァーク版が使われている。この第3番はニ短調で書かれているが、これは同じくブルックナーの第9番やベートーベンの第9番(合唱付き)と同じ調性であり、全体に厳粛で、しかも力強く、重々しい雰囲気が立ち込めた作品となっている。ブルックナーの他の交響曲に比べても、如何にも武骨さが際立ち、逆に言うとブルックナー好きにはたまらない作品であろう。ここでのアンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は、輪郭のはっきりとした力強い演奏に徹して、ブルックナー独特の奥深さをこれでもかといった塩梅で聴かせてくれる。少しも聴衆に媚びることなく、ブルックナーの世界を思う存分演奏し尽くす姿勢は、生演奏でもそう滅多に遭遇できるものではない。ライヴ録音のためだろうか、楽章が進めば進むほど熱気が溢れ返り、第3楽章に入る頃になると、リスナーはその迫力に思わず手に力が入るほどの熱演に酔わされる。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は、ブルックナーの交響曲の専用オーケストラではないか、と思うくらい相性がいい。今後、アンドリス・ネルソンス指揮でブルックナーの交響曲がシリーズで録音されるようなので楽しみだ。なお、ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲の演奏では、このコンビは、ブルックナーの時ような武骨さは影を潜め、妖艶な演奏を聴かせてくれるのにも引き付けられた。このCDを聴き、アンドリス・ネルソンスが、今後世界の指揮界を牽引する存在になるのは間違いないなと感じられた。(蔵 志津久)


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇コンサート情報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

交響曲」カテゴリの最新記事