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◇クラシック音楽CDレビュー◇ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルのヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第3番「田園交響曲」/第4番/第5番

2020-08-11 09:38:46 | 交響曲



<クラシック音楽CDレビュー>



~ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルのヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第3番「田園交響曲」/第4番/第5番~


ヴォーン・ウィリアムズ:①交響曲 第3番「田園交響曲」(ソプラノ: アマンダ・ルークロフト)
               交響曲 第4番
            
                  <CD:ワーナークラシックス 9 84764 2>

              ②交響曲 第5番
               ノーフォーク狂詩曲 第1番
               「揚げヒバリ」~ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス~
                        (ヴァイオリン: サラ・チャン)
   
                  <CD:ワーナークラシックス 9 84766 2>

指揮:ベルナルト・ハイティンク

管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

CD:ワーナー・クラシックス ヴォーン=ウィリアムズ: 交響曲全集(交響曲第1番~第9番)
                  (7CD<9 84760 2~9 84772 2>)より


ワーナー・クラシックス ヴォーン=ウィリアムズ: 交響曲全集(交響曲第1番~第9番) 7CD<9 84760 2~9 84772 2>

<CD1>

交響曲 第1番「海の交響曲」
     ソプラノ: フェリシティ・ロット
     バリトン: ジョナサン・サマーズ
     合唱: ロンドン・フィルハーモニック合唱団、カンティレーナ

<CD2>
 
交響曲 第2番「ロンドン交響曲」

<CD3>

交響曲 第3番「田園交響曲」
     ソプラノ: アマンダ・ルークロフト
交響曲 第4番 ヘ短調

<CD4>

交響曲 第5番 ニ長調
ノーフォーク狂詩曲 第1番 ホ短調
「揚げヒバリ」(ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス)
     ヴァイオリン: サラ・チャン

<CD5>

交響曲 第6番 ホ短調
交響的印象「沼沢地方にて」
「ウェンロックの断崖で」
     テノール: イアン・ボストリッジ

<CD6>

交響曲 第7番「南極交響曲」
     ソプラノ: シーラ・アームストロング
     合唱: ロンドン・フィルハーモニック合唱団

<CD7>

交響曲 第8番 ニ短調
交響曲 第9番 ホ短調

指揮:ベルナルト・ハイティンク

管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

 レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1872年―1958年、RVW または VW と略される)は、イギリス、イングランド南西部のグロスターシャー州ダウンアンプニー出身。1890年王立音楽大学に入学。1892年ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに入学。1907年ラヴェルから作曲とオーケストレーションのレッスンを受ける。ヴォーン・ウィリアムズの音楽は、イングランドの特徴を備えていると言われる。生涯に9つの交響曲を遺し、また、イングランドの民謡を題材にした作品も多く、イギリスの田園風景を彷彿とさせる牧歌的な作風は、広くイギリス国民に広く愛されている。日本では、ヴォーン・ウィリアムズの作品として広く知られるのは「グリーンスリーヴスによる幻想曲」「トーマス・タリスの主題による幻想曲」「揚げひばり」ぐらいなものであり、「惑星」で知られるホルストに比べると知名度が低い。しかし、欧米では9つの交響曲をはじめ数多くの名曲を作曲したヴォーン・ウィリアムズは、ホルストより広く知られた作曲家だ。生涯にわたってシベリウスを尊敬していたといわれ、第5交響曲はシベリウスに献呈されている。ヴォーン・ウィリアムズが民謡に魅了され、そこから深い造詣を獲得していることは作品から窺い知れる。イングランドへの愛国心に加え、その古き風景を垣間見せる作品を多く遺した。1919年王立音楽大学の作曲科教授に就任。1935年「メリット勲章」を受章。1958年交響曲第9番が初演された後の8月26日にロンドンにて心臓発作のため死去。享年85歳。

 ヴォーン・ウィリアムズの交響曲は、多くの指揮者が録音しているが、ここでは、ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルの「ヴォーン・ウィリアムズ: 交響曲全集(交響曲第1番~第9番)」(7CD<9 84760 2~9 84772 2>)から①交響曲 第3番「田園交響曲」(ソプラノ: アマンダ・ルークロフト)/交響曲 第4番 <CD:ワーナークラシックス 9 84764 2>②交響曲 第5番/ノーフォーク狂詩曲 第1番/「揚げヒバリ」~ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス~(ヴァイオリン: サラ・チャン)<CD:ワーナークラシックス 9 84766 2>の2枚のCDを聴いてみることにする。 

 指揮のベルナルト・ハイティンク(1929年生まれ)は、オランダ、アムステルダム出身。地元のオーケストラのヴァイオリン奏者を務めた後、フェルディナント・ライトナーに指揮を師事し、指揮者に転向。1955年オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団次席指揮者(1957年より首席指揮者)に就任。1961年アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、1967年ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団のそれぞれ首席指揮者に就任。1978年から1988年までグラインドボーン音楽祭、1987年から2002年までロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督を務める。1991年「エラスムス賞」を受賞。1995年からボストン交響楽団の首席客演指揮者となり、2004年に名誉指揮者。2002年ドレスデン国立管弦楽団の首席指揮者に就任。2006年シカゴ交響楽団首席指揮者に就任。日本には、1962年コンセルトヘボウとの初来日を皮切りに以後しばしば来日を果たしている。EUユース管弦楽団音楽監督、シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者を歴任。2019年ルツェルン音楽祭でのウィーン・フィルとの共演を最後に引退を発表した。

 交響曲第3番「田園交響曲」は、1918年から1921年にかけて作曲された。全4楽章よりなる。ヴォーン・ウィリアムズが第一次世界大戦の従軍経験から発想を得たという。全部の楽章がモデラートあるいはレントからなっていて、ほんの一部を除いて曲中にテンポの速い箇所がない。この曲は、友人を含む第一次世界大戦の犠牲者への挽歌であると考えられている。この曲で用いられる独唱は歌詞を持たないヴォカリーズ。この交響曲は、従軍した経験者でなければ到底表現できないであろう、深い悲しみが込められた、古今の交響曲の中でも特筆すべき曲だ。決して声高に主張するわけではないが、美しい自然に対する深い畏敬の念に貫かれ、聴いていて心を打たれるものがある。ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルは、作曲者に強い共感をもって、深く静かに、ゆっくりとしたテンポで曲を進める。死と直面したヴォーン=ウィリアムズの心の叫びが、聴こえてきそうな、心のこもった演奏内容に深く感動させられた。

 交響曲第4番ヘ短調は、1931年から1934年にかけて作曲された。前3作はいずれも標題交響曲であるが、この曲には標題がない。初演は1935年4月10日、エイドリアン・ボールト指揮のBBC交響楽団によって行われた。聴衆の多くは、前作と異なる大胆な不協和音や厳しく激しい音楽に当惑したという。これは第一次世界大戦が終わり、来るべき第二次世界大戦への恐れや不安感が、この交響曲を攻撃的な作風にしたと考えられる。ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルの演奏は、第4番とは打って変わり、激しく強靭な演奏に終始する。重々しい弦楽器のうなり、ときおり飛び込む打楽器の破壊的な響き。どれをとっても再度の世界大戦の到来におののく当時の民衆の心の叫びが聴こえてきそうだ。ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルは、そんな雰囲気を余すところなく見事に伝えきる。
 
 交響曲第5番ニ長調は、1938年から1943年にかけて作曲されたが、時代はちょうど第二次世界大戦のさ中だ。この曲は、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲の中での最高傑作と言われ、日本での演奏機会が最も多い作品。1943年6月24日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールにおいて、作曲者指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団演奏により初演された。曲はシベリウスに献呈された。1935年初演の交響曲第4番で見られた暴力的な不協和音や緊張感は影を潜め、交響曲第3番「田園交響曲」以前の穏やかな作風に回帰しているが、独自の旋法性もこの頃から現れ始めている。この曲は、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲の中での最高傑作と言われているが、あらゆる交響曲中の傑作の一つと言い換えても十分に通用すると私は確信する。この曲には、あらゆる苦悩を乗り越えた人間だけが感じ取れる崇高な精神に満ち溢れている。ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルは、第3番の静かさだけでもなく、第4番の激しさだけでもない、この交響曲の持つ精神性の高さを前面に押し出した熱演を聴かせてくれる。特に、第3楽章の演奏内容には深い感銘を受けた。そして、ベルナルト・ハイティンクの誠実な指揮ぶりには、思わず頭が下がる。(蔵 志津久)
 
 要望:日本のクラシック音楽界は、演奏会において、合計9曲もあるヴォーン・ウィリアムズの交響曲を、もっと積極的に取り上げてほしいものだ。 
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