御託専科

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倉橋由美子「夢の浮橋」

2009-10-21 12:49:21 | 書評
いやあ、なんとも知的で典雅にしてエロティックな物語である。源氏物語の現代版か。

桂子という聡明にして美しい娘が主人公。桂子は圭介と文子の娘だが、本当の父親は宮沢祐司という大学教授。祐司と文子はもともと恋仲で、文子は圭介と結婚した直後に祐司と駆け落ちをして、その後圭介に(非常に優しく)連れ戻されている。そのときの子が桂子というわけだ。つまり桂子は祐司の子である。
込み入ったことに、結婚10年後に圭介は文子に、祐司とその夫人三津子とのスワッピングを提案、当事者が合意しそのあと10年来その関係が維持される。その仲を取り持ったのが、祐司の前妻のふじのである。ふじのは駆け落ち事件当時祐司の妻で、事件後離婚していまは京都の醤油屋だったか酒屋だったかの奥方に納まっている。書いててこんがらがるぐらい込み入っているが、桂子は祐司と文子の娘、というのがポイント。

祐司とふじのの間には耕一という息子がいた。これは桂子と恋仲であるが、軽い接吻があっただけでそれ以上のことはない。上記のとおり、耕一と桂子は腹違いの兄妹である。そのことは小説が展開するにつれ次第に明らかになってくる。
このため結婚はあきらめて桂子は指導助教授の山田と結婚、耕一はやはり才色兼備のまり子と結婚する。そして、しばらくたつうちにここでもスワッピングが始まろうとする。山田・まり子組が宿に入り、(中断の場合に入る連絡がないことで)順調に進んでいることを確認したところで、桂子と耕一は関係にはいろうとする。そこで桂子が耕一に「血がつながっているかもしれないことを最初から知っていたのか」と聞き、「知っていた」と耕一が答える。そして、知っていて行われた耕一の遠大なたくらみと思い、そしてこれから行われるであろう禁忌を犯す行為への思いに陶然とし始めるところでおわる。

薄汚く描かれる学生運動を背景とするなどして茶や着物などの典雅な風習がより際立つ。意外と面白いのは当事者たちが決して大金持ちというほどの金持ちではないこと、にもかかわらず家で普通のようにお茶が点てれたり連れ立って和服を着て能を見たりという日常の典雅さがある点が面白い。桂子さんもこの時点ではまだ大学生の悩める乙女である。のちの「酔卿譚」の慧くんみたいな、大金持ちで神童のごとく賢くて美しいスーパーお坊ちゃんが主役になるのとちがい、まだ身の回りでありうることとの感覚がある。

みやびな所作で行なわれるのであればスワッピングも近親相姦もひとつの舞に他ならないのかもしれない。ただ、桂子さんたちのスワッピングはともかく、親達の分はあまり美がないなあ。じつは圭介がM趣味で、それを受け入れてくれる人を求めていた、だからスワッピング、なんてね、安易だなあって感じ。この入り方は典雅でないな。それに、典雅に禁忌を犯したいなら、こういう性がらみばかりではなくもっと別のこともあろうに、と思わぬでもなし。

などなど、読み終わってあらすじを考えると不満がないわけではないが、読んでる最中は流れるような文章にツツーっと気持ちよく流されてしまう。三島三島とばかり言っていたが訂正せねばならぬかもしれないな。

2009/11/09 舌足らず部分を若干補足。

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