シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「エンドロールのつづき」 (2021年 インド・フランス映画)

2023年02月01日 | 映画の感想・批評
 

 映画賞の季節がやってきた。今年はインド映画が注目を浴びている。3時間の大活劇「RRR」は昨秋の公開以来客足が衰えることなく、現在も続映中。ドルビーシネマで上映するところも出てきて、ボルテージは上がるばかりだ。アメリカでも好評で、今年度アカデミー賞の作品賞候補となっている。一方、アカデミー賞国際長編映画賞のインド代表作品となったのがこの作品。内容はインド版「ニュー・シネマ・パラダイス」といったところだが、ティストは少し違った。
 主人公のサマイはインドの田舎町で暮らす9歳。駅のそばにある父親が経営するチャイ店を手伝いながら元気に学校に通っている。ある日、父親が家族そろって「最後の映画」を観に行こうと申し出る。普段は映画のことを品性に欠けると考えていた父だったが、信仰するカーリー女神の映画とならば、“これが最後"と決めて観に行こうというのだ。このことがサマイが映画と出合うきっかけとなるのだが、実はこの作品、映画大国インドでも有名なパン・ナリン監督の自伝的作品でもあるのだ。自ら“世界で一番の映画ファン”と語っているパン・ナリン監督、最後の方で敬愛する監督達の名前を挙げてオマージュを捧げるのだが、各所にその監督達の作品の名場面がちりばめられていて、それを見つけ出すのも楽しみの一つとなっている。例えば、子どもたちが移動手段として自転車を使うのだが、思わずS・スピルバーグの「E.T.」を思い出してしまったし、列車に乗ってすっくと立った所ではD・リーンの「旅情」を、S・キューブリックの「2001年宇宙の旅」の音楽も聞こえてきたし、勅使河原、黒沢、小津と日本の監督の名も登場し、さてどの場面で出てきたのかと気になったりして、これはもう一度観なおして確かめるしかない。その作品を見ていなければわからない“映画ファン"だけの贅沢なお楽しみでもあるのだが・・・。
 今までなかなか接することがなかったインドの文化や風習が味わえるのもいい。一つ気になったのは、父親が自分はバラモンの出身だと明かすところ。調べてみると、インドのカースト制度には大きく分けて4つの分類(バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラ)があり、バラモンは神聖な職に就けたり、儀式を行える最も上の階級だとか。カーストは親から受け継がれるだけで誕生後に変更はできない。ただ、現在の人生の結果によっては、次の生で高いカーストに上がれるという考え方なのだ。結婚も同等の身分どうしで行われるのが通例なので、母親もバラモン出身ということがわかる。この母親が作るインドの家庭料理が色鮮やかで、実に美味しそう!スパイスのいい香りがスクリーンからはみ出してきそうだ。サマイが学校をサボって映画館通いができたのも、母親が作ってくれた弁当のおかげ。映写技師の舌と心を捉えてしまったこの弁当、よほど上質な味だったに違いない。
 光が生み出す魔法の芸術・映画にすっかり魅了され、自分も映画を作ってみたいと思うようになるサマイに転機が訪れる。インドの映画界にもデジタル化が押し寄せ、昔ながらの映画館はつぶれ、映写機やフィルムも再生される運命に。父は自分がかなえられなかった夢に向かって、サマイを広い世界へと旅立たせる。その旅立ちのシーンが秀逸で、特に遊び仲間が悲しそうに、そして半分羨ましそうに見送るシーンが印象的だ。「ひまわり」~「少年時代」~「祭りの準備」と、列車が登場する別れの名場面が次々と頭の中をよぎっていった。
 (HIRO)

原題:LAST FILM SHOW
監督:パン・ナリン
脚本:パン・ナリン
出演:バヴェイン・ラバリ、ディペン・ラヴァル、リチャー・ミーナー、バヴーシュ・シュマリ


最新の画像もっと見る

コメントを投稿