シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「トンネル 闇に鎖された男」(2016年韓国映画)

2017年08月21日 | 映画の感想・批評
 昨年韓国内の興収で3位に輝いたヒット作である。人気スターのハ・ジョンウと2年ぶりの映画出演となる国際的女優ペ・ドゥナの共演ということでも話題となった。
 自動車ディーラーの主人公がひと仕事終えて幼い娘の誕生日だというのでケーキを携え、気分もルンルン、軽快に高速道路を走りながら家路につく。途中でトンネルにさしかかり、しばらく走っているとトンネルの天井から異様な音が聞こえる。何だろうといぶかしく思っている間もあらばこそ、地響きがしてトンネルが崩落し始めるのである。たちまち車は大破し、男は周囲を瓦礫に囲まれ、身動きが取れなくなる。幸い怪我はない。何とかスマホを取り出して救急通報するのだが、救助要請を受けた消防本部では何しろ1.9kmもある長いトンネルだから、どの部分に閉じ込められているのか皆目わからない。
 主人公と救助隊の隊長との息詰まる電話でのやりとり。たとえ男の位置が特定でき、上から垂直に掘削するにも出入り口から水平に掘り進むにしても早くて1週間はかかるというのだ。男の手元にあるのは2本のペットボトルの水とケーキだけ。ひたすら無事を祈る妻ともバッテリを心配しながらしか会話できない。
 過大なマンパワーとコストをかけてまでたったひとりを救う意義があるのかと救助作業中止の世論が高まり、そちらに傾くトンネルの施主、官僚と「人命第一だ」と作業続行を譲らない現場の指揮者。かれらの狭間で苦悩する被害者の家族。そういうやりとりを見ていてISの人質事件が頭をよぎった。
 さて、どういう結末を迎えるか。見ごたえのある一編だ。(健)

原題:터널
監督:キム・ソンフン
脚色:キム・ソンフン
原作: ソ・ジェウォン
撮影:キム・テソン
出演:ハ・ジョンウ、ペ・ドゥナ、オ・ダルス、チョン・ソギョン、キム・ヘスク

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(2016年アメリカ)

2017年08月11日 | 映画の感想・批評
 マイケル・キートン演じる主人公の全く売れないシェイクミキサーの販売員が、ある日、突然、ドライブスルーから8台もの注文が入り、遠方から遥々車を飛ばして、その店を突然、訪問(偵察)する所から物語が始まる。その店とは、マクドナルド兄弟が運営するハンバーガー店だったのである。
 マクドナルド兄弟は、品質重視で、拡大路線は取らず、自分達の目の届く範囲で、着実に経営するタイプ。一方、主人公は、このハンバーガー店を見て、すかさず、マクドナルド兄弟とフランチャイズ契約を交わし、全米に店舗を拡大させていくのである。シェイクの原料をアイスクリームでは原価が高いので、パウダーに変更する等、品質を落とさないよう工夫するが、あまりにも拡大のスピードが速く、品質の心配をするマクドナルド兄弟と徐々に軋轢が出てきてしまう。挙句の果てには、訴訟にまで至ってしまうのである。
 仕事一辺倒で妻とも離婚し、新パウダーを紹介してくれた事業家の妻を奪い取り、勝手に、「ファウンダー」と名乗り、マクドナルド兄弟との口約束まで破って、兄弟の店舗を閉店まで追い込んでしまうのである。
 「アメリカンドリーム」という言葉は、作品の中でも出てくるが、この物語は本当にそうだろうか。「成功」とは何か。「幸せ」とは何か。もう一つ付け加えると、「ファウンダー」とは何だろうか。どの会社にも「創業の理念」はある筈だ。ただ、それを転換するべき時が来る可能性はある。それは、「時代」が変化しているからだろう。しかし、本作品はそれには当てはまらないと思う。主人公は「創業(=ファウンダー)の理念」を踏みにじった傍若無人な印象しか残らない。
 この映画は実話がベースとなっているそうだ。映画自体は、展開が早く、無駄が無く、コンパクトに纏まられた印象があるが、日頃親しんでいる「マクドナルド」(実際は、この年齢になるとほとんど行きません。すみません)が、こんな風に大きくなってきたのかと思うと、より足が遠のいてしまう感がするのは私だけだろうか。
(kenya)

原題:「The Founder」
監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ロバート・シーゲル
撮影:ジョン・シュワルツマン
プロデューサー:ドン・ハンドフィールド
出演:マイケル・キートン、ニック・オファーマン、ジョン・キャロル・リンチ、ローラ・ダーン、パトリック・ウィルソン、B・J・ノヴァク、リンダ・カーデリーニ他

ヒトラーへの285枚の葉書(2016年ドイツ・フランス・イギリス)

2017年08月01日 | 映画の感想・批評


 フランスの降伏でドイツ中が沸き立つベルリンで、ある一家に一通の軍事郵便が配達される。オットーとアンナのクヴァンゲル夫妻の一人息子、ハンスの戦死報告だった。取り乱したアンナは思わず「あなたと戦争とあなたの総統のせいよ」と叫んでしまう。もともと二人はナチス党員ではなかったが、それまで熱心に支持していたナチス政権に怒りを覚え、たった二人で抵抗活動を始める。
 葉書にヒトラー、ナチス政権に対する怒りのメッセージを書いて、街中の建物に置いてくるというものだった。見つかれば命はない。二人はそんな活動を、ゲシュタポに逮捕されるまで2年以上続け、285枚の葉書を書いた。
 今ならラインやツイッタ―などのSNSを利用して、自由に自分の言いたいことを書き込み、広まっていくのも速い。(もっとも、無責任な情報や同調も多いが…。) また街中には防犯のためといって監視カメラが溢れていて、二人の行為はすぐに発見されてしまうだろう。
 本映画には残虐なシーンは少ない。しかし狂気と恐怖に満ちた社会で神経をピリピリさせて暮らす人々の緊張感が伝わってくる。命を危険にさらしてまで、あまりにも地味としか言いようのない行動を続けたオットーは「大きくても小さくても見つかれば同じだ。少なくともまともな人間でいられた。(ナチスの)共犯者にならなかった」といい、心を解放していくのだった。
 ところで285枚のメッセージは、ドイツ国民の心に届いたのだろうか。残念ながら恐怖に飲み込まれた監視社会の中で、二人の言葉に耳を傾ける市民はおらず、285枚のうち実に267枚が警察に届けられた。
 原作者のハンス・ファラダは1947年、オットーとアンナのモデルとなったハンベル夫妻に関するゲシュタポの調書や裁判記録を基に、わずか4週間足らずで「ベルリンに一人死す」を書き上げ、小説完成の3カ月後に亡くなった。ナチスから「望ましくない作家」に分類され、酒とニコチンと薬物中毒に苦しみ続けた彼の最後の作品となった。しかし当時の東ドイツ政権下で「政治的配慮」の下に一部が削除されていたが、初版から60年以上たってようやくオリジナル版に復元され出版された。
 オットーとアンナのように自由な精神を持って、歴史が間違った方向に行きかけた時、果たして私は勇気を持ってNoといえるだろうか。(久)

原題:Jeder stirbt fűr sich allein(誰でも一人で死んでいく)  英題:Alone in Berlin
原作:ハンス・ファラダ著 「ベルリンに一人死す」(みすず書房)
監督:ヴァンサン・ペレーズ
脚本:アヒム・フォン・ボリエス、ヴァンサン・ペレーズ
撮影:クリストフ・ボーカルヌ
出演:エマ・トンプソン、ブレンダン・グリーソン、ダニエル・ブリュール、
   ミカエル・パーシュブラント、モニーク・ショメット、ヨアヒム・ビスマイヤー